
Show overview
One Straw Revolution launched in 2023 and has put out 241 episodes in the time since. That works out to roughly 15 hours of audio in total. Releases follow a near-daily cadence.
Episodes typically run under ten minutes — most land between 1 min and 3 min — though episode length varies meaningfully from one episode to the next. None of the episodes are flagged explicit by the publisher. It is catalogued as a JA-language Arts show.
The catalogue appears to be on hiatus or wound down — the most recent episode landed 1.8 years ago, with no new episodes in over a year. The busiest year was 2023, with 178 episodes published. Published by Papa Giorgio (パパ ジョルジオ).
From the publisher
パパジョルジオのわら一本の革命 リラックス しましょう... onestraw.substack.com
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「また、同じ夢を見ていた」住野よる ,ページ 291(第11)
第11また、同じ夢を見ていた。目覚めて、まず思いました。また、同じ夢を見ていた。目を何度か瞬かせ、腕だけを動かして、アラームを止める。遅れてお腹の上に控え目な重さを感じて、私の寝がえりを邪魔する居候を持ちあがて床に下ろします。彼女は下手を去れば家が火事になっても起きないかもしれないhほどの寝坊さんので、大少乱暴にしても大丈夫。ベッドから下りて立ち上がり、カーテンを開けるとたっぷりの陽光が部屋に差し込んできました。うん、今日も快晴。いい天気。293彼女と並んで、朝ご飯を食べながら、彼女が何を考えているのかは知らないけれど、私は夢のことを考えていました。他ならない、さっきまで見ていた夢のこと。私は、子供の頃の夢をよく見ます。それも決まってみるのは小学生の時、他にも大切な思い出はたくさんあるのに、見るのはあの時の夢だけ。あなたはちゃんと、幸せになっているの?って。朝食後のコーヒーなんて似合わない私はもう一枚オレンジジュースを飲みながらテレビの電源をつけました。何かやっているのかとザッピングだけど、やっているのは昔のアニメと、悲しいニュースと、誰かを全員でいじめる、まるで小学生が集まって作ったようなワイドショーだけ。とある番組では見るからに違そうな大学の先生が、15年間まるで変わらないことを言っていました。私はテレビを消して、足元の彼女をそこに残したまま、隣の仕事部屋に移動します。2LDKのこの家に住んで、もう三年。引っ越す時、探している家の一番の常用事項を不動産屋さんに伝えると世にも奇妙な顔をされました。その不動産屋が頑張って探してくれた、外からみるととっても美味しそうなこの家を、私は気に入っています。仕事部屋には余計なものは何一つありません。大きめの机と動く椅子、その上にノートと鉛筆、目覚まし時計と小さなパソコン。本棚に、本達。それから、小さな居候が大人しく寝ていられる毛布だけ。294椅子に座って、まずは閉じられたノートを聞いて昨日の復習をします。それから鉛筆を持って、早速仕事に取りかかるのです。私の仕事に出勤はありません。決められた時間も残業も、遅刻も早退もありません。持ち物も必要なく、必要なのはノートと鉛筆と私の頭と、この世界中にある全てのものだけ。夢中になると私はすぐに時間を忘れるのです、机の上の目覚まし時計でアラームを仕掛けます。今日もやっぱり時間は光の矢のように過ぎ去って、自分で仕掛けたアラームにびっくりするというお約束を繰り広げた私は、ノートに小さな丸を打って席を立ちます。いつもならお昼ご飯もそっちの毛でやり続ける仕事。だけど今日はそうもいかない。大切な用事があるのです。2度寝をしている居候を横目に洗面所で長い髪の毛をセットして、わざとらしくないお化粧を施し、いつもより少しだけメルヘンチックで洒落たスカートをはきます。そこにお気に入りのリュックを背負えば、出かける準備は万端です。「ナー」295いつの間にか起きていた彼女が、足元で眉間に皺を寄せながらこちらを見ていました。「何、せっかくのデートのにリックはやめろって?いいの、人生ってリックみたいなものだから」「ナー」「背買うものがあった方が、背箱も伸びるの。それにランドセルみたいで大好き」彼女には私の冗談は理解できなかったみたい。そんなことより彼女も早く外に出かけたいお菓子でうちのドアを爪でカリカリとし始めました。うちに居候をしてる彼女は、日中はいつも外にお出かけをshています。どこに行っているのかはしれません。もしかすると、どこかの女と子と丘を登っているのかも。居候の彼女に急かされ、少し早いけれど私は家を出ることにしました。リュックには読みかけの本もペンもノートも入っている。素敵な時間を過ごす準備は万端です。ドアを開けると、爽やかな風が私の顔を叩きました。髪とスカートが揺れてまるで動かず気分になれます。もうすぐ、夏。「あ、マーチ」私が鍵を締めるのも持たずに行ってしまおうとする薄情な居候の背中に呼びかけると、彼女は流し目でこちらを振り向きました。みょうに色気のあるその目は、半分野良猫みたいな生活の中、一体何を経験して得たものなのか。気になるけど、訊いても彼女は教えてくれません。296「日が変わるまでには帰るから、どこかで時間潰してて」「ナー」気にしないでいい。彼女はそう言い残して長い尻尾をゆらゆら揺らし軽いステップで行ってしまいました。後ろ姿はちょっと違うけど、彼女の所作はいつかの悪女を思い出させます。さて、私も行こう。「しーあわっせはー、あーるいーてこーないー、だーかーらあーるいーていーくんだねー」私は口ずさみながら一つ伸びをして、あの時よりずっと高くなった目線で見る景色に今日の一歩を踏み出しました。幸せとは、自分が嬉しく感じたり楽しく感じたり、大切な人を大事にしたり、自分のことを大事にしたり、そういった行動や言葉を、自分の意思で選べることです。また、同じ夢を見ていた。あの夢の見ると、いつも思う。まるで、自分に訊かれているみたい。あなたは今、幸せなのかって。297その間いに答える時、私は今でも自分の中の幸せの定義が変わっていないことを確認してから、胸を振って頷いてみせるのです。子供の頃、人生とはなんて大人ぶったことを言っていた賢い女の子は、周りを思いやることも出来ず、味方も友達もいませんでした。だけれど女の子には運がいいことに導いてくれる人達がいて、彼女達のおかげで、その女の子は幸せなまま大人になることが出来ました。。導いてくれた人達のことを私は今でもしっかりと覚えています。アバズレさん、南さん、おばあちゃん。私は段々と知っていきました。アバズレさんという言葉の意味も。彼女がやっていたのだろう仕事のことも、南さんが本当は南さんじゃなかったということも。あの授業参観の日に一つの飛行機事故があったことも。おばあちゃんが言っていた、私に先を見る力があるということも意味も、もう知っています。彼女達は私を助けてあげることが出来たのでしょう。そのために、出会ったのでしょう。大人になって、私は不思議の理由を知ってしまいました。でも、それを悲しいとは思っていません。298だって、私は今でも彼女達のことが大好き。だから自分で選んでいるのです。みなみさんのようになりたくて、仕事に使っているのは今でも普通のノートだし、アバズレさんのようになりたくて、同じ色の建物に住んでいるし、おばあちゃんのようになりたくて、少しずつお菓子の作り方を勉強しています。まだ、魔法は使えないけれど。あれから結局、私は2度と彼女達と会うことが出来ませんでした。私が彼女達のような素敵な大人になれているのかはわからないけれど、最近の私の髪は南さんにそっくりだった顔から、段々アバズレさんの顔に似てきています。何十年後かには、きっとおばあちゃんに似てくれのでしょう。だけれど、私の人生は誰のものとも違います。誰のものとも違う、自分の幸せを選ぶことが出来るのです。幸せは、あっちからやってくるものではなく。こっちから、選んで手にするものだから。また、同じ夢を見ていた。あの夢を見ると、いつも思う。自分に訊かれている見たい。あなたは今、幸せなのかって。その問いに答える時、私は自分の幸せにお定義と一緒に、いつも最近におばあちゃんが私にくれた言葉を思い出すのです。299いいかい、人生とは。全て、希望に輝く今のあなたのものです。大きなアトリエの中、私は彼の邪魔にならないよう隣に椅子を置いて腰掛けます。「サイン描くだけだよ?」広い空間があるのに、わざわざ並んで座った私に彼は笑いながら言いました。だから私も同じように笑って答えてあげました。「また、同じ夢を見てたの」私は彼に夢の説明をしませんでした。だけど彼はそれ以上私がそこにいることを疑問に思ったりもしませんでした。彼はペンを持って、キャンバスの右下に自分のサインを描きました。中学生の頃から彼が使っているサイン。外国人から怖がられるかもしれないと「あなたを殺す」と聞こえる自分の名前の意味を反対にしたサイン。「この絵、出展するんだっけ?」「。。。いや」300彼は、一面に咲いた名の花畑の絵を見て言いました。「これは、君にあげる」私には、それが彼のプロポーズだということがわかりました。恋人になったばかりのに、プロポーズとは早すぎるんじゃない?なんて思ったけれど、でも、きっとこの絵にはこれまでの想いを全部詰めてくれているのだとわかりました。だけど、やっぱり大事なことはちゃんと言葉にしてほしい私は言いました。「いくじゃなしっ」彼は笑って、きちんとそれを言葉にしてくれました。それから私が彼のプロポーズにどう答えたのか。今でもまだ隣の席に座る彼と私が、この後どうなったのかは、薔薇の下で。 This is a public episode. If you would like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit onestraw.substack.com

「また、同じ夢を見ていた」住野よる ,ページ 285(第10C)
教室は、お父さんの持っているギターの弦みたいに振りつめた空気に満たされていました。ここにいる全員、いえ、ひとみ先生以外の全員が素敵指定るのがわかります。桐生くんも素敵しているみたいでした。私も素敵していました。あの時より聞いている人は少ないはずのに。授業参観の時よりも、きっとずっと。当然のことだと思います。私達はこの時間のために、これまでずっとかしこかったりかしこくなかったりする頭を、悩ま背てきたのですから。286いつもの挨拶。いつものひとみ先生の授業とは少しだけ関係のないお話。それから、いつもとは違う最後の発表の時間がやってきます。最初の発表は、左の端っこ、一番前の席の男の子から。私は、彼らの発表を聞かないことも出来ました。自分の発表することをもう一度読み返して、もっといい表現はないものかと考えることも出来ました。けれど私は、クラスメイト達の発表を真剣に聞くことにしたのです。理由は、私も振って考えた考えを聞いてもらえな買ったら悲しいと思ったからです。皆違う。です。皆同じ。もしかすると、一人くらい私の答えと同じか近い答えの子がいるかもしれない。その思って楽しみにもしていたのですが、少しなくとも私達の前にそういう発表をする子はいませんでした。クラスの子達の発表はどんどん進んで、いよいよ次は桐生くんの番、というところまで来ました。私は緊張していました。だけれど見てみると、桐生くんはもっと緊張している見たいでした。私はどうしてか、桐生のおでこを伝う汗を見て、自分の中の緊張が解けていくのを感じしました。桐生くんに吸い取られてしまったのかもしれなません。287緊張のなくなった私は、私の緊張を消してくれた桐生くんを励ましてあげようと思いました。だけれど、小さな声で呼びかけても、彼は私のが聞こえていない見たいでした。だから、代わりに私は彼の手を握りました。机の下、こっそりと彼の手を。桐生くんはびっくりしたみたいでした。でも、こっちを向いて私の顔を見ると、震わせていた唇をぎっと噛んで、それからにっこり。彼の手の平の震えも、少しずつ消えていきました。桐生くんの発表の番、彼は立ち上がって堂々と、いえ、それは言いすぎました。あまり大きな声ではなかったけれど、自分自身の幸せについて発表をしました。彼はあの発表の彼も、たまにからかわれたりしているみたいでした。絵のこともだけれど、なぜだか私とのことも。私達が味方同士であることをからかうなんて本当に馬鹿なことです。もし、桐生くんがやられっぱなしなら、そうして桐生くんが望むなら、私はまだ喧嘩をしていたでしょう。だけど、私は喧嘩をあまりしなくなりました。桐生くんは少しずつだけど、言い返したり、逃げたりするのが上手くなったみたいでした。絵について、家族について、ひとみ先生について、隣の席の友達について、彼の発表はとても素敵らしいものでした。そして、彼の発表が終わったということはつまり次は私の番だということです。288名前を呼ばれて私は立ち上がりました。その時です。いなくなったはずの緊張の虫。それが、ざわざわっと背中をのぼってくるのを感じました。私は机の上のノートを持ち上がるのに何度も失敗しました。てが震えてしまっていたのです。ノートに書いてある言葉を自分で書いた日本語のはずなのに、読めなくなってしまいました。どうしよう。無って、私のおでこにも一筋汗が流れた時、でしょうか。横に垂れしていた私の左手を誰かが握りました。私は、咄嗟に左手を見ます。手を握ってくれたのは、桐生くんでした。私の中から、また、緊張の虫がいなくなるのを感じました。私は、ひとみ先生の方をきちんと向き、両手でノートを持ちました。そうして私は、長い間、考え続けてきた答えをクラスの皆に向けて発表したのです。「私の幸せは」発表の間、ずっと思い出していました。南さんのことを、アバズレさんのことを、おばあちゃんのことを、尻尾のちぎれた彼女のことを。皆と過ごした、日々のことを。私は、もしかすると、知っていたのかもしれません。本当はもう会えないかもしれないこと。289だからきっと私は泣いちゃったのです。そのひの放課後、私は最近いつも一緒に帰る桐生くんに持ってもらって、職員室にいきました。ひとみ先生に訊きたいことがあったのです。職員室に入ると、ひとみ先生が隣の席のしんたろう先生と楽しそうに話していました。でも、私に気がついたひとみ先生はすぐにその笑顔を私に向けてれました。私は、少し長い話なんだけど、と前置きました。するとひとみ先生は私を職員室の外に連れ出し、誰もいないすこさな教室に連れて行ってくれました。ひとみ繊維の優しさで、私は安心してそのことを話すことが出来ました。「ひとみ先生、私には友達がいたの」先生は首を傾げました。私は話しました。アバズレさんのことも、南さんのことも、おばあちゃんのことも、金色の瞳の彼女のことも。そして、これまでにどういう話を強いたのか、何があったのか、どういう風に助けてもらったのか、全部を話しました。そうして初めて、私は、私の訊きたいことを先生に分かってもらえると思ったのです。「私の友達が消えちゃった不思議が、私にはわからないのよ」290これはもしかするとひとみ先生にもわからない問題かもしれないと思っていました。それほど、ここ数週間のうちに起こったことは不思議で、まるで魔法でも使えなければありないんじゃないかと思ことばかりでした。なのに、先生が少しだけ考えてからいつもたいに指を立てたのには驚きました。さすがは大人、しかも先生。そう思いました。だけれど、結局はいつだって、ひとみ先生は、私の大好きなひとみ先生なのです。「もしかしたら、小柳さんに会いに来てくれたのかもしれないわね」的外れ。「違うわよ、いつも私が会いに行ってたんだもの」先生は困った顔はしませんでした。それ代わり、ふわりと笑いました。不思議について考える。このことを二人だけの内緒の宿題にした私達は、誰もいない教室を出て、ひとみ先生は職員室に、私は桐生くんを迎えにいきました。図書室で持ってくれていた桐生くんは、この前私がおすすめした「トム・ソーヤーの冒険」を読んでいました。桐生くん。驚きやすい彼を驚かさないよう、そっと私は声をかけようとします。291だけれどその時、もう既に私の口や声席はそっちにはありません。声が出なくなり、やがて見えている風景が右目と左目で違っていることに気がついて。この時ようやく私は気がつくのです。ああ、ここで終わりか、と。 This is a public episode. If you would like to discuss this with other subscribers or get access to bonus episodes, visit onestraw.substack.com

「また、同じ夢を見ていた」住野よる ,ページ 273(第10B)
273時間はぐんぐんと進んでいくだけで全然戻ってくれたりはしないみたいです。どんなに必要だと思っても、どんなにお願いしても、戻ってきてはくれない見たいでした。南さんやアバズレさんが言っていたのだから、疑っていたわけじゃないけど、でも自分の体が体験してみると、やっぱり本当なんだなと確かめることが出来ます。問題の答えはまだ出ないのに、発表の日は、ついに明日になってしまいました。今日まで、桐生くんともひとみ先生とも幸せについてたくさんたくさん喋りました。だけど、私の頭の中にある答えのジグソーパズルを完成させるtこはまだできていませんでした。桐生くんは幸せについての話をするとなんだかいつも照れていますが、やっり絵についてのことを発表すると決めた見たいでした。小柳さんは?桐生くんからの質問に私はまだ答えを用意することが出来ませんでした。「人の顔を描く時には、ね。丸を描いてそれを縦に半分に割ったちょうど真ん中に目が来るようにするんだ」というびっくりするようなアドバイスを桐生くんから貰って、その代わりに、「オセロは出来るだけ四隅を取ったほうがいいわ。だってどこからも狭めないでしょ?」という桐生くんをびっくりさせるアドバしうをあげてから、私と尻尾のちぎれた彼女はいつものようにおばあちゃんの家に聞きました。274彼女はいつものようにおばあちゃんの家行きました。もしかしたら、今日はもうおばあちゃんの家に行かなくてもいいかもしれない。少しだけそう思っていたのですが、やっぱり私はおばあちゃんの家に行くことを選びました。どうして私がいつも言っているおばあちゃんの家に行かなくてもいいかもしれないと思ったのかというと、ここ一週間ほど、私はおばあちゃんと一度もお話しが出来ていないからです。最近、よく寝ていたおばあちゃんでしたが、特にこの一週間では、おばあちゃんはいつも寝ていて、私が言っても起きることなんてなく、ずっとベッドの上で静かな寝息を立てるばかりでした。もしかすると寝ていてご飯を食べることを忘れていたのかもしれません。おばあちゃんは少しやせたように見えました。だから今日もおばあちゃんが気持ちよく寝ているなら私は桐生くんと幸せについて話し合っている方がいいかもしれないと少し考えたのです。でも、私はおばあちゃんの家に行くことを選びました。理由は、なんとなくではありません。最近のヒントを、長く長く生きたおばあちゃんから貰いたかったのです。黒い彼女も私がおばあちゃんの家に行くのに賛成してくれました。まあ、彼女の場合は桐生くんが苦手なだけなのんですが。だから、私はおばあちゃんが起きていてくれればいいなと思って大きな木の家に行ったはずです。なのに、私は驚いてしまいました。いつもの通り小さな友達と家に上がって寝室に行った時、おばあちゃんがベッドの上、に起き上がっているのを見て思わず「わっ」と言ってしまいました。声を出した私にすぐに気がついたおばあちゃんは、私を見てにっこりと皺を深めました。275「なっちゃん、ごめんね、お手紙をもらってたのに」「ううん、全然いいの。それより、今日は眠くないの?」「うん、大丈夫だ。たくさん寝たからね。それに」おばあちゃんは、よくわからないことを言いました。きっと今日で最後だから、って。わからないことうぁ、訊きましょう。「何が最後なの?」「なっちゃんが、言ってたろ?明日がなっちゃんの宿題の発表日。だから、今日が最後の準備の時間だ」「ええ、そうそうなのよ。だから私、おばあちゃんとおはんししたくて今日来たの」私は言葉にまた笑ってくれたおばあちゃんは、やっぱりちょっと痩せたように見ました。「ああ、おばあちゃんが話せることなら、なんでも」「ダイエットの秘訣とかでも?」276おばあちゃんの笑顔はいつも変わりません。優しく、静かで、柔らかい。アバズレさんとも、南さんも、もちろん私のとも違う大きな笑顔。きっと、幸せな人生を過ごすことが出来たから、そんな笑顔が出来ているんだと思いました。どうしたらそんな笑顔が出来るようになるのか、それが、今回の問題の最後の答えな気がしました。「お願いがあるの、おばあちゃん」「ん?なんだい?」「おばあちゃんは、どんな人生を送ってきたのか、教えてほしいの」私はおばあちゃんのベッドの端っこに座りました。私のベッドより柔らかいのによくに跳ね返るのが不思議で、お尻を何度もドリブルさせたくなりますが、真面目なお願いをしたのだから今は我慢します。尻尾のちぎれた彼女も、きっとおばあちゃんのお話しを聞きた買ったのでしょう。しゃやかな小さな体を思い切りジャンプさせ、おばあちゃんの膝の上に乗って、金色の瞳を上に向けました。私の友達は、さすが魔法の女です。彼女の金色の瞳がおばあちゃんに音のことを思い出せたのかもしれません。おばあちゃんは、彼女の目を見たまま、お話をしてくれました。だけど、それは私の聞きたかったお話とは、少し違っていました。277「私は、子供から大人になって、そしておばあちゃんになって、好きなことをして、好きな人達と一緒に、人生を過ごしてきたよ」「。。それって、普通のことじゃない?」私は少し拍子抜けをしてしまいました。「ああ、普通の人生。私はそんな普通に幸せな人生を送ることが出来た」おばあちゃんの声にすら、幸せが話待っている。そんな風に聞こえました。「もしかしたら、私にだってあったかもしれない。いや、きっとあったの」「何が」「友達が一人もいないってこと」私には首を傾げるしか出来ませんでした。なのにおばあちゃんは私を褒めるみたいに頷いて、続けたのです。「誰の味方にもなってあげられなかったかもしれない、誰も愛せなかったかもしれない、人を傷つけていたかもしれない。誰にも優しく出来なかったかもしれない。でも、私は出来た。大切な人の味方になってあげられた。友人や家族を、愛した。誰かを傷つけることはかもしれない、でも優しい人になろうと思ことが出来た。だから私の人生は幸せだった。もしかしたら、私にもあったかもしれない」278おばあちゃんは私の目をじっと見ました。「謝ることもできないで、大切な人を失って、一人ぽっちで自分を傷つけてしまうこと」私は、南さんの目を思い出していました。おばあちゃんは、ベッドの上に投げ出されていた私の手を握りました。「自分が大嫌いで、自棄になって、あまつさえ人生を終わらそうと思ってしまうこと」私はアバズレさんの手を思い出していました。「でも、私はそうはしなかった。幸せだと思える人生を歩いてこられた。そりゃあ、嫌なことなんて教えてればきりがないんだけど、でも、それよりもっと多く、教え切りない楽しいことや嬉しいことがある人生を歩いた」「人生とは、道?」おばあちゃんの言う「歩く」という言葉が気になって、私は訊きました。私は南さんやアバズレさんの言葉を思い出していたのです。時間は戻らない。だっから、人生とは、戻ることの出来ない道なのかもしれないと思いました。でも、おばあちゃんは首を横を振りました。「いいや、人生は道なんかじゃないさ。だって人生には信号はないでしょう?」おばちゃんの適当な冗談が面白くて、私やくるしと笑いました。だから私も冗談で返すことにします。279「じゃあ人生は高速道路?」「かもね」初めて聞くおばあちゃんのそっけないそう相槌に、私はまた笑ってしまいます。私の人生はね、なっちゃん、本当に幸せだったんだよ。なっちゃんは、今、幸せ?」私は考えませんでした。「ええ、幸せなことがたくさんあるわ」お母さんとお父さんはちゃんと私のことを思ってくれている。夕ご飯には私の好きなものが出てくる。オセロを一緒にやってくれる友達がいる。学校に行けば味方になってくれる先生がいる。優しいおばあちゃんがいる。一緒に歌える小さな友達もいる。南さんアバズレさんにもきっとまた会える。嫌なこともあるけれど、そんなことより今の私には、幸せなことの方がずっと多いのです。「なっちゃんはかしこいから、どうやってその幸せを待てたのか、分かってるはずだ」「。。。。」「私も、そうしてきた。なっちゃんの呼ぶ、アバズレさんや南さんも、きっとこれからはそうしていけるだろう。なっちゃんのおかげ」280「。。。。」「皆が選ぶんだよ」洞窟の出口が、見えたようでした。「幸せになるためだけに」長く長くいた洞窟の出口の中、真っ暗な闇の中、そこから外に出た時に拡がる目を潰してまうかと思うほどのまばゆい光と、想像していたよりもずっと広大な風景。そこには数え切れないくらいの素敵な緑や風があって、そこには数え切れないほどの緑や幸福があって、この光に一歩踏み出すというそのことだけで、私の心は甘いものに満たされる。私の心は、おばあちゃんの言葉で、一瞬にして空想の中に飛びました。空想だけど、嘘じゃありません。私の中の気づきが、そんなか風景を見せたのです。「おばあちゃん、ありがとう」私は心からのお礼をおばあちゃんに言いました。「おばあちゃんに会いに来てよかったわ」「答えが、見つ買ったのかい?」「ええ」不思議です。不思議なことはたくさんあるけれど、今もまた私は不思議の目の前にいました。281私はおばあちゃんの寝室にいて、ベッドに座っていて、そこには尻尾のち裂た彼女とおばあちゃんがいて、さっきまでとこに世界は何も変わっていないはずなのに、私には、今この世界が、さっきまでとは違う輝き持って見えたのです。私の世界の見え方が変わってしまったこと、おばちゃんは全部知っている見たいに私の頭を細い指で撫でてくれました。「私の人生も、なっちゃんみたいに幸せに溢れていて、もう何も思い残すことはなかったのに。神様は最後にご褒美までくれた。こんなに幸せな人生はない」「神様に何をもらったの?」「なっちゃんに会わせてくれた」私は、とてもとても嬉しくなりました。おばあちゃんの幸せの一つに私がなれたこと。私がおばあちゃんを幸せに出来ていること。そして、おばあちゃんの言葉が決して嘘ではないと、分かったことも。「もう何も一ない。私のオセロの最後のマスには、なっちゃんっていう幸せが置かれた」「人生とは、通じゃなくてオセロ?」おばちゃんは、首を横に振りました。「いいや、違うさ」282そう言うと、気持ちのいい控え目に入ってくる光がそうさせたのかもしれません、おばあちゃんは、息に眠たそうにうつらうつらと首を揺らしました。私は、おばあちゃんの膝の上に乗っていた彼女を持ち上げて、おばあちゃんがベッドに横になれるようにしました。おばあちゃんはまぶたを薄く開けて小さな声で「ありがとう」と言い、ゆっくり横になりました。「なっちゃん、窓を開けてくれるかい?」おばあちゃんに言われ、私はベッドの向こう側にある窓に手を伸ばして一枚の窓を横にずらしました。開いた隙間から、クーラーとは違う、いい匂いの風が入り込んできます。「他に何かしてほしいことはある?」「いいや大丈夫だ。ありがとう」「それじゃ、私は昼寝の邪魔をしないように帰るわね。おばあちゃん、本当にアリアがとう」「いいんだ。なっちゃんの発表が上手くいきますように」おばあちゃんの昼寝を出ていくこととにしました。と、部屋のグラスを開けた時、私は後ろから名前を呼ばれました。もう一度、ベッドのそばに行くと、おばあちゃんは私に耳を貸すように言いました。「最後に一つだけ、なっちゃんに伝えたいことがあるんだ」「ええ」「いいかい、人生とは」おばあちゃんが真似した私の首癖は、全て冗談にもなんにもなっていなくて、どういう意味?と訊く必要がないものでした。でも、私の心はおばあちゃんの言葉で、上手な冗談を聞いた時よりもずっと満たされました。今度こそ、おばあちゃんの寝室を出て静かな廊下を歩き、玄関で靴を履いて外に出ると、そこは私達がいつも来る草の生えた広場でした。でも、やっぱり私には来た時とはまるで違う光を持っているみたいに見えました。おばあちゃんのおかげです。明日も必ず、ここに来なくてはいけません。「さ、帰って明日言うことをノートに書かなきゃ」284私はおばあちゃんの家の入り口、短い木の階段を下りて草むらを踏みま

「また、同じ夢を見ていた」住野よる ,ページ 261〜273(第10)
おばあちゃんの家に着くと私はまた汗でいっぱいになって、きで出来たドアには、また貼り紙がしてありました。書いてあることは、前と同じです。私は玄関から中に入って友達の足を拭き、靴を脱いで静かな木の家の中に入りました。私の足音は前の時と違います。実は、今日は家で靴からサンダルに履き替えてたから、前は靴下ですりすり、今日は裸足でぺたぺたです。夏になると履く可愛いサンダルを、アバズレさんにも褒めてもらいたかったのに。もしおばあちゃんがアバズレさんの行った先を、アバズレさんに起こった不思議の正体を知っているのなら、すぐにでもアバズレさんのとこへ歩いていって、そのサンダルを見せたい。そして、アイスを食べながら桐生くんとお話したい。静かな静かな、家を造っている気の声が聞こえてきそうなくらい静かないえの中で、もしかするとおばあちゃんはまた2回にいるのかな、そう思って廊下を歩いていったのですが、今日は一階にいました。私が寝室のガラス戸を開ける音が起こしてしまったのでしょう。おばあちゃんは優しくクーラーの効いた寝室で、ベッドに横になったまま私の方を笑顔で見ました。「いらっしゃい」「ええ、ごめんなさい、お昼寝してたのね」262「いや、いいんだ。ちょうど起きたところ」「それならよかったわ。何か、素敵な夢は見た?」私の質問、おばあちゃんはにっこりと笑ってくれました。「ああ、また、同じ夢を見ていた」そう言って、おばあちゃんはいつもよりずっとゆっきりな動きでベッドの上で起き上がり、カーテンを開けました。リビングと違って控え目な太陽さんの光が差し込みます。あの時のまま、壁にかかるあの絵が光を持ったような気がしました。私が寝室の引き戸を閉じようとすると、おばあちゃんが「冷蔵庫にオレンジュースがある」と言いました。私は台所から小さなパックのオレンジジュースを2本持ってきました。おばあちゃんは私からジュースを受け取ると、「ありがとう」と言ってベッドの上に置きます。オレンジュースは、私の口の中に少し残ったいた苦いのを、甘さと酸っぱさで流してくれました。「うまくいった?」おばあちゃんは、なんのことなのかは言わず、ただそう訊きました。私は、こくりと頷きました。でも、いつもの私ならここからまるでドラムロールみたいに話しだすところなのに、それをしなかったものだから、「何か、あったのかい?」263「何か、あったのかい?」おばあちゃんにばれてしまいました。「うん、クラスの子のことは、うまくいったんだけど」私はまるでスープを煮込んでいる見たいな音で、そう切り出しました。「アバズレさんが、いなくなちゃったの」今日、あったこと、私はおばあちゃんに全部は話しました。いえ、本当は昨日からのことです。桐生くんとことで落ち込んでいた私にアバズレさんがアドバイスをくれたことや、アバズレさんがどうしてか突然泣き出してしまったこと、それに私とアバズレさんの口癖が同じだったという素敵なことも。そして今日のこと。アバズレさんはいなくて、他のお兄さんが住んでて、私が好きじゃない味のアイスをくれて、南さんがいなくなった時よりももっと不思議だったこと。私の話を聞いて、おばあちゃんはアバズレさんの行き先を知らないと言いました。残念だったけど私の中に不思議がもう一つ浮かんできました。この不思議についても訊いてみます「南さんがいなくなったみたいに、アバズレさんもいなくなっちゃった。なのに、私、寂しいけれど、それが、例えば桐生くんに嫌いって言われた時のような気持ちにはなっていなにのよ」264おばあちゃんは、「そうか」と頷きました。さすがおばあちゃんは、なんでも知っています。「つまり、絶対はしていないってことだね」絶望という漢字を、私は書けません。「きっとなっちゃんがいつかその子達にまた必ず会えるって確信してるからじゃないかな」おばあちゃんは、まさに私の説明出来なかった小さな安心を言葉にしてくれました。「その通りよ。でも、ミステリーの探偵みたいに証拠があるわけじゃないんだけど」「そうだね」おばあちゃんは、目を細めて頷きます。「だけど、なっちゃんの思いはきっと正しい。大丈夫。その子達には、いつか必ず会えるさ」「ええ、私も信じてる」私がしっかり頷くと、おばあちゃんは「なっちゃんには先を見通す力があるから」といつか同じことを言ってくれました。「だけど、もっとお話もオセロもしたかったわ」265「せっかくクラスに友達が出来たんだ。彼と練習するといいんじゃない?」「そうね、桐生くんに先を見通す力があるかはわからないけれど」おばあちゃんはくすくすと笑いました。まるで、桐生くんの顔を思い浮かべたみたいに。いいえ、でもおばあちゃんは桐生くんとあったことがないはずだから、もしかすると、友達の絵描きさんのことを思い出しているのかもしれません。「アバズレさんに、おばあちゃんは幸せなのかって訊かれたわ」「そうかい」「それで、前に幸せだったって言ってた伝えたんだけど、おばあちゃんが幸せな理由は、その絵描きさんのことを思うことができるから?」おばあちゃんはまたくすくす笑いました。「ああ、そうかもしれない。それに、なっちゃんのことも、家族のことも、心から思える」「じゃあ、おばあちゃんも、幸せとは何かっていうのは、誰かのことを本気で思えることだって思う?」「おやおや、もしかして、その宿題の発表の日が近いのかい?」こういうのは、図星を指されるというのです。でも、私がおばあちゃんに何度か訊いたことをもう一度訊いたのには他の理由からありました。266「本当に、答えが知りたくなってきたの。だけど難しい宿題だって思うわ」ずっとその問題について考えている私の、本当の気持ちでした。「色んな、色んな幸せがあるのよ。最近色々なことがあって、色々な人達から幸せとは何か、皆の見つけた答えを聞くの。南さんは、認められること、アバズレさんは、誰かのことを考えられることと、桐生くんは、友達がいること。どれも、皆の幸せなんだと思う。だけど私の中の幸せ全部をちゃんと言い表した幸せはまだ見つからないし、どれか一つを選ぶことも難しいの。人生は、お弁当は一緒よね」「どういう意味だい?」「好きなもの全部は詰め込めない。それに今はそのお弁当の大きさも名前もわからないわ。ねえ、おばあちゃんがもしひとみ先生に幸せとは何かって問題を出されたら、なんて答える?」難しい難しい問題。だけれど、おばあちゃんの中にはもう答えがあったみたいでした。きっと、考えてくれていたのです。おばあちゃんは、私の質問に悩んだりせず、いつかのことを思い出すみたいに窓から空を見上げて、答えてくれました。「幸せとは」「うん」267「今、私は幸せだったって、言えるってことだ」おばあちゃんの答えは、今まで色んな人から聞いた幸せの答えの中で一番わかりやすくて、一番心にすっと染み込むものでshた。だけど。「それって、ずうっと長く生きていないとあれがないわ、説得力」「その通り。その幸せは今、なちゃんの何倍も生きてきた私の幸せだ。なっちゃんの幸せとは違う。なっちゃんは、なっちゃんの幸せを見つけなきゃね」結局、ヒントや方法は教えてもらえても最後は自分で考えるしかないのです。おばあちゃんと一緒に、壁にかかった絵を見つめてオレンジジュースを飲んでいると、私は急にランドセルの中身のことを思い出しました。「そういえばね、桐生くんに絵をもらったのよ」私はランドセルの中から一枚の素敵な絵を取り出しました。桐生くんのことを知っている私からしてみれば、彼が絵を見せてくれるだけでも凄いことなのに、くれたりしたのだから、友達自慢の一つでもしておこうと思うのは当然です。桐生くんの描いた絵、それは一輪の花の絵でした。鉛筆と絵の具で描かれたそれを見て、おばあちゃんは顔の皺を濃くしました。「とっても、素敵だ」268「でしょう?こんな絵を描けるのに、隠してるなんて、こういうのを宝の持ち腐れって言うんだわ。きっと桐生くんはもっと練習したら、おばあちゃんの友達と同じくらい凄い絵描きさんになるわよ」「うふふ、私の友達は凄いよ?でも、なっちゃんがそう言うなら、そうなるかもsれないね」負けず凄いの私は「絶対そうよ」と胸を振りました。それから私はおばちゃんのベッドの端っこに腰をかけて、荻原くんと出来なかった「ぼくらの七日間戦争」の話をしました。あれに出てくる大人達は頭が悪すいぎない?と私が言うと、おばあちゃんは笑いな頭のいい大人より頭の悪い大人の方がよっぽど多いし、頭のいい大人がいい大人とは限らないと言いました。物語のお話はとても楽しい。本当はこんな風に南さんの物語についてもお話ししたいのに、そう考えていると、いつの間にか私が帰らなければならない時間をベッドの横に置いてある時計が教えてくれました。私が立ち上がると、おばあちゃんはこれからまたお昼寝をすると言って横になりました。尻尾の短い彼女を連れて、おばあちゃんの邪魔をしないよう、静かに部屋の出口まで歩きます。本当は、そのまま寝室を出てしまうはずだったのですが。269足を、止めました。「ねえ、おばあちゃん」不安になったのです。「おばあちゃんは、いなくなったりしないわよね?」おばあちゃんから返事はありませんでした。その代わり、おばあちゃんの気持ちのよさそうな寝息が聞こえてきて、私は邪魔をしないよう、口をチャックを締めて、黒い友達と一緒に木の家を大人しく出ていったのです。それからも、私は何度かあのクリーム色のアパートに行ったのですが、やっぱりアバズレさんはもう、そこにはいませんでした。アバズレさんがいなくなってから、私の放課後の行き先は二つだけになってしまいました。丘の上のおばあちゃんの家と、それから。「僕、オセロあんまり強くないんだけど」「じゃあ、先の番を譲ってあげるわ」私は学校が終わると、尻尾の短い彼女を誘って桐生くんの家に行くようになりました。最初の日、オセロを持って出向いた私に桐生くんは驚きましたが、桐生くんの母さんは喜んで私にオレンジジュースを出してくれました。数日も続けて行くと、桐生くんも段々と驚かなくなってくれて、私達は仲良くオセロをしたり一緒に絵を描いたりしました。どっちが上手いかというと、二つの競技を点数にしたらきっと合わせて同点になるはずです。私が桐生くんの家にいる間、ちっちゃい友達はいつも外で持っていました。彼女は人見知りなのです。そして人見知りなのは、桐生くんも、一度、私は彼をおばあちゃんの家へと誘ったのですが、彼は困った顔で固まってしまいました。「では、桐生くんも桐生くんのお母さんもまた明日まで、ごきげんよう」別れる時、毎日の決まった挨拶、笑顔の二人に手を振ってから私は黒い友達と一緒に、いつもの丘へと歩くのです。「しっあわーせは、あーるーいーてこーないー」「ナーナー」「もうすぐ夏休みよ。あなたは何をするの?」「ナー」「何も、考えてないなんて呑気ね。私はプールに行きたいわ。友達も出来たんだし。せっかくだか人間以外も入れるプールを探しましょう」271ばつの悪い顔をする彼女。もしかすると、彼女は水が苦手なのかもしれません。「大丈夫よ。私も二十五メートル泳げないわ。ま、どうしても行きたくないなら別の場所に三人で行きましょう。人生って夏休みみたいなものよ」「ナー」「なんでも出来るわ。素敵な過ごし方を深さなきゃ。これはちょっと単純すぎるかしら?」そんなことを言っていると、いつもすぐにおばあちゃんの家に着きます。私達はいつからかずっと貼られている入れ口の振り紙を見て、いつも通りに中に入ります。木の家の中はいつも通りとても静かで、物音一つ聞こえないけれど、私達はおばあちゃんを渡す必要はありません。このところおばあちゃんは、いつも寝室のベッドで寝ています。私が部屋に入ってきたところに気がつくこともあれば、気づかずにそのまま寝てしまっている時もあります。私は、おばあちゃんが寝ている時は無理矢理起こしたりはしません。部屋の床に座って本を読んだり、壁にかかったあの絵を見ていたり、小さな友達と遊んでいたりします。おばあちゃ

「また、同じ夢を見ていた」住野よる ,ページ 246(第9.3)
246学校について、教室に近づくと、桐生くんは私の服のところをちょびっと掴みました。まさか女の子のお尻を触りにきたわけじゃないだろうから、何も言いませんでした。それに、桐生くんの気持ちはwたしにも分かったからでうs。分かったからこそ、私は、胸を振りました。まだアバズレさんやひとみ先生のようにふくらんではいないけれど、その胸を精一杯振りました。怖いっていう思いに、うなだれてしまっては相手の思うつぼなのです。そういう時こそ、胸を張って、たとえ嘘でも、強いふりをした方がいいのです。それは、前にお父さんと夜の道を歩いた時に教えてもらったことです。私が先に、桐生くんが後に、教室の後ろのドアから入ると、まるで時間が止まった見たいに教室の誰もがこっちにめを向けたまま固まってしまいました。でもそれも3秒くらいのこと、すぐにそのストップは再生に変わって、皆が私達から目を逸らしてざわざとし始めました。ただ一人、笑顔で私達の方を見てくれていたのは、当然、247「はい、皆授業中よ、静かにしてね。小柳さんと桐生くん、ちょうどよかった。少し遅刻だけど、まだ授業は始まったばかりだから、安心して」私は、お嬢様みたいにスカとの両端をつまんで人み先生に膝を折って挨拶をしました。きっとひとみ繊維には「メルシー」と聞こえていたでしょう。行ってないけれど。桐生くんは必ずかしそうに、困ったように、ひとみ先生に頭を下げてから自分の席に座りました。あ、そういえば、「先生、今日の教科書全部忘れたから、桐生くんに見せてもらいます」私が大きな声で言うと、教室はまたざわざわしt、でもひとみ先生は「明日からは気をつくてね」と私が机を桐生くんの方に動かすことを許しくれました。私は、今日は学校に来ないつもりだったので初めから何も持ってきていなかったのです。二人で後の棚にランドセルを置いて、早速授業を受ける準備が出来ました。今は一時間目が始まって15分が経ったところ。今日の一時間目は国語。ちょうどいいんじゃない?そう思っておくった桐生へのウインクは、俯いている彼に気づいてもらえず空に消えていきました。今日の国語の授業も、もちろん幸せについて。もうすぐ来る、この授業の最後の発表のために、前回の授業で読んだ幸せについての短い話のことを、ペアで話し合います。248桐生くんはそのお話を読んでいないので、まずは私がそのお話について説明をしなくちゃいけない。そう、思っていたのですが、桐生くんはそのお話を読んでいました。ひとみ先生が家に持ってきてくれたプリントを、部屋できちんと読んでいたのです。いつもよりもっともっと控え目な桐生くんと、私はそのお話について話し合いました。足りないものが足りるようになるのが幸せだとか、もし足りなくてもそれで満足出来るって思いこめば幸せなのかも、とか、まあ桐生くんは俯いてたのでほとんど私が言ったことです。私達が話し合ってる最中にも、クラスの子達がこちらをちちちら見ているのがわかりました。無視する壁にきにするなんて、頭のお菓子いことだと思います。そんな中、ひとみ先生が私達のところにやってきました。先生は、話し合い中、色んなペアのところを回っているのです。ひとみ先生が来て、まずはしていなかった朝の挨拶をしました。「おはようございます。ひとみ先生」「うん、おはよう。桐生くんも」桐生くんは、俯いたまま小さいな声で、「おはようございます」と言いました。別に怖かっているわけではありません。彼もひとみ先生に会いたがっていたのですから。こういう時の気持ちはこう言います。気まずい。249気まずい時は私にだってあります。授業参観の前、お母さんと喧嘩した時なんてまさにそれでした。だから知っています。気まずい状況っていうのは、いつかは自分で解決しなくちゃいけないってことを。私は、ひとみ先生に見えないように桐生くんの手を握りました。私の勇気を、少しでも分けてあげられれば、そう思ったのです。だけど、そんなことは必要ありませんでした。桐生くんは、私の手を一回ぎゅっと握ってから離しました。そして、ひとみ先生に何かを訊かれる前に、顔を上げたのです。「せ、先生、幸せがなんなのか、授業参観の時に言ったのとは、べ、別のことが、見つかりました」たどたどしく大きな声をはいえない発表。私はただ彼を心の中で応援しました。つまり桐生くんのことをずっと考えていました。これがアバズレさんの見つけた幸せ。じゃあ、桐生くんの幸せは何?そんなの私も桐生くんもずっと前から知っています。その時、私は、それが決めて桐生くんの口から言われるのを誇らしく思いました。だって、彼のファンはまだきっとこのクラスに私だけから。そういうのってあるでしょう?「へえ、どんなこと?」250ひとみ先生は桐生くんの突然の発表に驚いたかもしれません。でも、そんな声を一切せずに、とても優しい顔のまま、桐生くんに訊きました。ひとみ先生が好きな子なら、なんでも話してしまいそうになる顔です。桐生くんは、ひとみ先生のその顔をじっと見たまま唇をぐにぐにとさせました。気がつくと、クラスの子達がこっちを見ています。私は今まで桐生くんのことなんて気に欠けもしなかった癖に、と思うのと一緒に、ちょうどいいわとも思いました。桐生くんの本音を皆に聞かせるチャンスがやってきたのです。さあ、言ってやりなさい。「ぼ、僕が幸せな時は、絵を。。。」ところが、桐生くんの言葉は、途中で止まってしまいました。ひとみ先生は優しい顔のまま、桐生くんを持っていますが、私は大きく目を開いて彼の方を見ました。まさか、ここまできて怖気づいたんじゃないでしょうねと、もしかすると彼を責めるような目をしてしまっていたかもしれません。だから、この時のことを私は反省しなくちゃいけません。私は桐生くんのことを勘違いしていた。味方だったことは本当だけれど、やっぱり少しだけまだ彼を弱い子だと思っていたのです。そのことを、あやまらなければなりません。おばあちゃんの言葉を思い出します。251ひょっとしたらその子はなっちゃんが思うよりも弱っちくないかもしれない。言葉を一度切った桐生くんは、息を何度が吸ったり吐いたりした後、一度唇を噛んでから、こんなことを、胸を振って言ったのです。「僕の、幸せな」「うん」「僕の絵を好きだって言ってくれる友達が、隣の席に座っていることです」まったく、人生とはオセロみたいなものです。黒い嫌なことがあれば、白いよいこともある?そうじゃないわ。だって一枚の白で、私の黒い気持ちは一気に裏返るのよ。とても、とてもいい日は、その場面を見ていない大切な人にそのことを伝えたくて仕方がなくなってしまいます。だから私は学校が終わると、桐生くんとの挨拶もそこそこに走って家に帰って、ランドセルもそのまま、尻尾のちぎれた彼女と会って、そしていつものクリーム色の建物へと行くことにしました。「しあわせは!あっるっいってこないー」「なー?」252いつもよりずっと気分よく歌っていると、黒い友達は一緒に歌ってはくれず変な顔をしました。「何よ」「ナー」「いいでしょ、たまには。本当にいつもだったらいいんだけど、たまにね、すっごくいい日っていうのがあるのよ。あなたにだってあるでしょ?」「ナー」彼女は気のなさそうな返事をしました。もしかすると、今日は彼女にとっていい日ではなかったのかもれません。もしそうなら、私のいい気分を分けてあげましょう。「だーかーら、あーるーていーくーんーだねー!」「。。。ナーナーナー」呆れた顔で、やれやれと首をすぐめながらも、結局は私と歌いたい彼女。何よ、大人ぶっちゃってと私は思いましたが、素直じゃないところが男の子の心をくすぐるのかもしれません。私が彼女から考えてもらうことがあるとしたら男の子の心を操る方法かしら。そんなことを考えながら堤防を歩きました。253空を青く、草は緑で、土は茶色。人が歩きやすいように作れた少し柔らかい道は赤茶色。風は透明で、人は、その人自身の色。色々なものに色々な色がついていて、私はその中のどれもが好きです。だけれどもが好きです。だけれどやっぱり、堤防からクリーム色が見えた時、私の心は一番に弾んでしまうのです。私は頭の中で、あばずれさんにお話しすることの順番を考えました。まずはもちろんアバズレさんにお礼を言わなければなりません。今日、私がこんなにもいい気分でいられるのは、アバズレさんのおかけなのですから。それからは、今日あったことを朝から順に話します。大切じゃない部分は簡単に、大切な部分な少々大げさに。大切な部分に繋がる大切じゃない部分は、大切な部分を盛り上げるためにもったいぶって。桐生くんが今日みたいなことをする子じゃないことはもう一度強く言っておいた方が、驚きが増えるもしれません。だけど、桐生くんがそんなことをする勇気があるんじゃないかと、おばあちゃんだけが見抜いていたことを話すのもアクセントとしてともいいと思います。私はわくわくとしていました。それはもう、ココアの粉を熱いミルクが溶かしていくのを見るよりもずっと、ココアの匂いが香り立つのを嗅ぐよりもずっとです。254ココアととても合いそうな、ケーキみたいなクリーム色の建物。その階段の横にまで辿り着き、私のワクワクも最高潮になって、茶色くなった階段に私が一歩を踏み出した時いつもと違うことがありました。尻尾のちぎれた彼女が、階段をのぼろうとしなかったのです。「どうしたの?」訊いても、彼女は答えませんでした。「ミルクいらないの?」と訊いても何も答えませんでした。もしかして怪我でもして階段を登れないのかと、私が持ちあげようとすると彼女は私の手からするりと逃げてしまいました。「変な子、じゃあそこで持ってて」「ナー」やっと答えた友達の声は、小さめでした。どうしたというのでしょう。まあ猫には猫の、気分がよくない日というのがあるのかもしれません。階段を登りたくない日、そんな日もあるのでしょう。私は、友達のことを気にかけながら、やっぱり気持ちはアバズレさんにするお話の内容に向いていました。アバズレさんの家の前まで来て、あらかたお話の進め方を決めてから、私はチャイムに手を伸ばします。255ピンポーンと軽いチャイムの音が中から聞こえて、そこで、私は「あら?」と思いました。上を見ると、アバズレさんの家の表札にあった、失礼だけどとても綺麗じゃない文字で書かれた名前が消えていました。描き直すのかしら?前もアバズレさんに言いましたが、私はとても字が綺麗なので、よかったら私に書かせて欲しいものだわ、とそう思いました。アバズレさんは中から中なか出てきませんでした。なのでもう一回、私がチャイムを鳴らすと、中から物音がしました。もしかすると、アバズレさんは今起きたのかもしれません。相変わらず、お寝坊さんね。私はしばらくくすくすと笑っていました。でも、アバズレさんは出てきませんでした。いるはずなのに、そう思って私はドアをノックしました。それから元気に「こーんにーちはー!」とドアに向かって挨拶までしました。すると、少し時間はかかりましたが、鍵の開く音がして、ドアノブが回りました。友達とその日初めて会うの時、例えば今日が特別にいい日ではなくても、私はいつもどきどきわく枠としてしまいます。それ、なのに、私のわくわくは一気に霧となってしまいました。思いもかけないことが、起こりました。256アバズレさんの家から出てきたのは、優しくて綺麗なアバズレさんではなかったのです。きっと、アバズレさんと同じくらいの歳の男の人でした。私とそのお兄さんは向かい合って、同じ顔をしていたと思います。驚いていたのです。優しそうなそのお兄さんは目を大きく開いて、それからその目をきょろきょろとさせました。だからきっと、相手が誰なのかはじめに気が付いてたのは私なのだとと思いました。「もしかして、アバズレさんの恋人さん?」あれだけ綺麗なアバズレさん。特別な人がいたって不思議は一つもありません。もしそうなら私は挨拶をしなくちゃいいけないと思いました。「初めまして、私は小柳なのか。アバズレさんの友達なの」私は丁

「また、同じ夢を見ていた」住野よる ,ページ 233(第9.2)
人生とは、綺麗な色をしたお菓子と一緒です。234どうやってそれが出来あがったので、わからないものもある。桐生くんは、まだ何も言ってくれませんでした。でも彼の気持ちと行動が私の声を止めて、私の心の中の悪魔をまた海の底に沈めてくれたのです。鍵が、外れる音がしました。それから、丸いドアノブがゆっくりと回るのが、はっきりと見えました。部屋の中の窓が開いていたからでしょうか、顔に強い風が吹きつけて前髪が舞いあがり、私は思わず目を瞑ってしまいました。次に目を開けた時、私の目の前には桐生くんがいて、彼の後ろ、部屋の中では吹いた風によってたくさんの紙達が踊っていました。少し顔が伸びたかしら。桐生くんの顔を見た私がそう思っていると、部屋の中で踊っていた紙が一枚、飛んできて私の顔を覆いました。息が出来なくて、慌てて顔からひっぺがしたそれを見て、きっと私は、アバズレさんに負けないくらいの笑顔を浮かべていたことでしょう。でもそんな私とはうちに、ドアを開けた桐生くんは、ドアのところでうずくまってとても悲しそうな顔をしていました。ひょっとすると、目も少し濡れていたかもしれません。私は再会を喜ぶ間もなく、聞きました。「どうしたの?」235すると、桐生くんはどうして今そんなことを言うのか、よくわからないことを言いました。「ごめん、なさい」最近、私はよく誰かに謝られます。本当に謝ってほしい人達は一人も謝ってくれないのに。「どうして謝るの?」前に大嫌いって言ったことかしら。それなら、気にしてないっていうのは嘘だけど、私もいくじなしてって言ったもの。おあいこです。桐生くんは、私の目をじっと見ていました。「ぼ、僕の。。。」「桐生くんの?」「桐生くんの?」「僕のせいで、小柳さんが無視されてるんでしょ?」「そうじゃないわよ」私はすぐに首を振りました。桐生くんのしなんかじゃないわ。クラスの子達が馬鹿すぎるの、何が正しいかも分からないんだから」236「でも、本当なんだ」桐生くんは、私のめをじっと見ながら、涙を流しました。これも、最近よくあることです。「何が?」「僕の、お父さん、泥棒を慕ってこと。。。」「。。。」ええ、知っていました。桐生くんが言ったこと。それでも、私は首を横に振ります。桐生くんにとって、それがどれだけ、どれだけ悲しいことだったのか。私は想像します。私は精一杯伸ばした想像の腕が届いているのかも分からないし、届いていないとして、あとどれだけ伸ばせば届くのかも、全然わかりません。だけどそれでも私は、堂々と首を横に振るのです。「だったして、それが、なんのよ」私は、桐生くんを薄くつもりで彼の目を見ます。彼は間違っているから。「桐生くんのお父さんがいけないことをしたからって、桐生くんのお父さんが私に優しく挨拶をしてくれたことは、変わらないわ。毎日会うはずのうちのクラスの子達よりずっとね。ましてや、そのことは私が無視されていることの理由でも、私が学校に行かないことの理由でもないの。もちろん、桐生くんが悪く言われる理由にもならない。だって私達は、桐生くんのお父さんを真ん中に狭んで話しているんじゃないもの」237(4:45)そう、これまでに起こった全ての悪いこと、桐生くんは一つも悪くない。「悪いのは、それを話からに人達よ。うちのクラスの子達だけじゃない。私が学校に行かないのは、その人達のせい」だから、桐生くんが悲しんだり泣いたりする必要はどこにもないのよ。そういうつもりで言ったのに、やっぱり、人生とはコーヒーカップに乗った彼見たいなもので、自分が行きたい方向とは逆の方に歩いてしまうこともある見たいでした。桐生くんは、泣くのをやめてくれるどころか、ポロポロと涙をこぼしてしまったのです。これはきっと、私の言葉のせいです。だけれど、私の言葉のどこが桐生くんを悲しませでしまったのか、私にはわかりませんでした。分からなカッタから、彼にどんな言葉をかければ悲しくなくなってくれるのかもわかりませんでした。だから、よじよじと桐生くんに近づいて、私は彼が床についていた手に手重ねたのです。アバズレさんが私にそうしてくれた時、心が静かになっていくのを感じたから。桐生くんは驚いた顔をしました。でも、すぐにあの時の私みたいに、彼は私の手をぎっと握ってくれました。238(6:22)私は桐生くんが泣き止むまで、ずっと静かに彼の手を握っておくつもりでした。だけど、そうすることは出来ませんでした。桐生くんは泣いたままでした。泣いたまま、私が想像もしていなかったことを、言いました。「小柳さん。。。一緒に。。。学校に、行こう?」「はあ?」いくら何でもしつこすぎる桐生くんの提案に、ついつい呆れ切った声を出してしまいました。目の前の桐生くんがビクッとしたのを見て、あらいけないわ、と呆れた顔を引き込めたのも束の間、私は気がづきました。「今、一緒にって言ったの?」「。。。。うん」ぎゅうっと桐生に握れて、少し手が痛かったのですが、私は驚いてそんな痛さはどこかに忘れてしまいました。「どう、して?」私の心からの質問に、桐生くんは唇をぐにぐにと動かします。きっと、自分の心にぴったりと合った言葉を頭の中から探しているのでしょう。私にはそれが分かって、だから彼の言葉をいつまででも持つことが出来ました。239(7:58)「嘘を。。。ついたんだ」やがて彼は言いました。「嘘をついちゃった、んだ。また、から変われるかもしれないのが、怖くて。ひとみ先生に、嘘を。だから、そのことを謝って、本当のことを言いたい」涙は止めっていませんでした。なのに、私はこの時ほど強い桐生くんの目を見たことがありませんでした。私は、桐生くんがそんなにも勇気を詰め込んだ目を出来るって知らなくて、だからその理由が早く知れたくて仕事がありませんでした。「本当のことって、何?」「。。。幸せって何か」途端、私の頭に一つの場面が浮かびました。声も、光景も、鮮明に。それは、桐生くんが何かを言っている場面ではなく、私が桐生くんだけに聞こえるように話しかけた場面。あの授業参観の日、たった一言。いくじなしっ。やっぱり嘘だったのね。それが分かっても、私の心には悲しさも呆れもありませんでした。「他の人は、どうでもいい。でも、ひとみ先生と、それから、小柳さんには」240(9:55)私は、嬉しかった。「そうね。。。それにひとみ先生に謝らなきゃいけないことはもう一つあると思うわ」「。。。え?」「ひとみ繊維、桐生くんに会いに行ったのに会えなかったって、悲しんでした。そうして、これは私のミスでもあるけれど、ひとみ先生が伝えてって言ってた。先生は桐生くんのことをいつでも持ってるって」前に来た時はすぐに帰っちゃったから、伝えるのを忘れていたこと。伝えると、桐生くんはまたぽろぽろと泣いてしまいました。それでも、もう彼の目の輝きが涙なんかに負けることは、なかったのです。「。。。ひとみ先生に会いたい」それは、私も同じでした。「でも、いいの?」「。。。」「学校には、桐生くんをからかったりする、馬鹿な子達がいるのわ」それに私を無視したりするような」前までなら、私は桐生くんが彼らと喧嘩さえしてくれればいいと思っていました。でも、桐生くんの戦い方はそうじゃないのかも知れないとアバズレさんに教えられました。そしてさっき、私はそのことを自分の目でも確かめたのです。241桐生くんは、私の言葉に少しだけ肩を震わしました。だけれど彼は、その後でしっかりと私の目を見て、自分の肩にふりかかってきた悪魔のローブを、自らの力でひきはがしました。「すごく、嫌だけど、でも、大丈夫な、気がする」「。。。」「小柳さんが味方でいてくれるなら、からかわれても、馬鹿にされても」「。。。。」私も、どうしてかわかりません。どうしてかは全然わからなかったのですが、私はその時、ほっとしたという理由で泣いてしまいそうになりました。人は悲しい時に泣くものなのに。私は、ようやく、あの時の桐生くんの大嫌いが嘘だったと分かって、ほっとして泣いてしまいそうになったのです。でも、涙は流しませんでした。だって、悲しくないのになくなんて変だもの。代わりに、私は桐生くんの目を見てしっかと頷いたのです。「ええ、私、桐生くんの敵だったことなんて一度だってないわ」242(13:16)桐生くんは、また二粒、涙を流しました。不思議でした。桐生くんの涙の理由は、変な気がしたのです。桐生くんは私の手をまだぎゅうっと握って、言いました」「。。。小柳さんも、学校に行った方がいいと思うんだ」「それは、どうして?今日、彼が何度も私に登校を進める理由を、やっと聞くことが出来ました。「小柳さんは、僕と違って、勉強も出来るし、賢いし、強いし、きっと、将来凄い人になると思うんだ。。。だから。僕みたいに学校を休んだじゃダメだと思う」褒められると、私は嬉しくなります。でも、褒められたことよりも、もっと嬉しいことを桐生くんは言ってくれました。「だから、一緒に、学校に行こう。。。僕も、小柳さんの味方だから。。。」ああ。ああもう、この時の気持ちを、私はこれからどれだけ時間が経ったって、きっと正しく言葉にすることは出来ないのです。私が南さんと同い年になっても、アバズレさんと同い年になっても、おばあちゃんと同い年になっても、きっときっときっと、この時、私の心に拡がったものの匂いや味や名前を当たることなんて出来ないのです。黒は一つの染みも作らずに、だけれど一面が白いわけでもなく、この世界にこんなものがこれまでにあったのかどうかもわからない、もしかすることの時新しくことの世界にその色は生まれたんじゃないかと思うほどの、そんな素敵な色が私の心に塗られたのです。243この色が何色なのか、説明できない私は、やっぱりいつもの通りにしか言えません。人生とは、私の味方みたいなものなのです。「光だけあれば、まあ十分」「。。。。え?」「いえ、いいわ。桐生くんがそこまでいうんだったら、私、学校に言ってあげてもいいわよ。桐生くんが、味方でいてくれるんでしょ」桐生くんはまだ少し泣いていました。その顔を見るのは、嬉しいものです。だから私も、笑いました。嬉しくて、そしたら桐生くんも笑ってくれました。「そうと決まったら、早く準備しなさい!私達、今、大遅刻よ」「う、うん!」涙を乱暴に袖で拭いた桐生くん桐生は慌てて立ち上がり、自分の部屋のドアを閉めました。きっと、パジャマのままだったから着替えるのでしょう。残された私も、立ち上がって桐生くんの準備が出来たらすぐにでも出発出来るようにておきます。大人しく待っていようそう思ったのですが、桐生くんのお母さんに学校に行くことを’伝えておこうと思いました。もしかしたら学校に電話してくれて、私達は遅刻じゃなくなるかも知れません。244(17:28)ドアの奥の桐生くんに声をかけてから、私は廊下を歩いて一階に下りる階段に向かいました。と、私は階段に続く廊下の角を曲がったところで、可愛くない悲鳴をあげてしまいました。「ぎゃっ」驚いて、私はその場で尻もちをついたのです。目の前には、桐生くんのお母さんがいました。桐生くんのお母さんは、隠れる見たいに階段の前でしゃがんで、泣いていました。最近、皆泣いてばっかりね、流行っているのかしら。それともあくびみたいにうつっちゃうの?私がそう思っていると、尻もちをついた私の、さっきまで桐生くんの手をを握ってた手を、今度は桐生くんのお母さんの手を握りました。「小柳さん、ありがとう」もしかすると、桐生くんのお母さんも桐生くんが部屋から出てくれるのを見るのは久しぶりなのかも知れないと思いました。だから、私は素直に「ええ」と言ったのですが、桐生くんのお母さんは変なことを言いました。「本当なら、私が言ってあげなきゃいけなかった]245(18:52)どういう意味なんだろう。それを考えていると、桐生くんの部屋のドアが開く音がしました。そっちを見ると、桐生くんはいつもよく見る服でランドセルを背負っていました。準備は万端ね、そう思って私が立ち上がると桐生くんのお母さんは先に階段を下りていって

「また、同じ夢を見ていた」住野よる ,ページ 215(第9.1)
第9よく晴れたその日、私はいつもの通りに家を出たけれど、いつもの通りには学校に行きませんでした。私はいい子、嘘はつきません。だから私はその朝、お母さんに行ってきますはいったけれど、どこに行ってくれるとは言いませんでした。そう言うのをかしこいと言います。もちろん私には学校に行くよりもよっぽど大事な用事があったから、学校に行かなかったのですが、本当のことを言うと、私はこれからずっと学校に行く必要に行かない必要はないかもしれないと思っていました。勉強は、アバズレさんに習えばいい。給食は食べなくても、おばあちゃんのお菓子で我慢する。ひとみ先生には時々手紙を書こう。義務教育なんて行って小学校には絶対に行かなきゃいけないなんていうけど、必要がない場合はどうなるのでしょうか。そういえば、前に映画で飛び級と言うものがあることを知りました。私はかしこいから、飛び級が使えるかもしれません。いやもう、アバズレさんの言うように、賢くなることが全てじゃないなら、その目的のために学校に行っていた私には、もうどの学校もいらないのかもしれません。なんてことを考えていると、いつの目的地に辿り着いていました。今日学校ではなくここにきることに、私は一つの迷いもありませんでした。今日は前に来た時は違います。まず持って、隣に友達を連れていません。それに、今はまだ朝。そして一番の違いは、もう私には彼を責める気なんてどこにもないということです。私は前に来た時と同じように、チャイムを何度か押しました。少しして聞こえてきた子も、前と同じ、元気のなさそうな女の人の声。その声に、前に来た時は元気に挨拶をしました。でも、今日はそれようりも先に、することがあるのです。私は、相手にきちんと気持ちが伝わるように、心を込めて、言いました。「桐生くんのクラスマイトの小柳なおかです。この前は、ごめんんさい」私は、相手に見えていなくてもそこで頭を下げました。謝る時とお礼を言う時は、心の全てを込めなくちゃいけない。それは、賢くても賢くなくても変わりません。私の心が、桐生くんのお母さんに伝わったのでしょう。桐生くんのお母さんは、前と同じようにとても優しい声で、「ちょっと待っててね」と言ってくれました。217(3:13)やがてでて来た桐生くんのお母さんに、私はもう一度、頭を下げました。「おはようございます。この間は、ごめんなさい」それは、この前桐生くんに行くじなしと言ったことと同じくらい、私の本当の気持ちでした。「おはよう。ううん。小柳さんが謝ることなんてないわ」桐生くんのお母さんは、首の横に振ってくれました。でも、そんなことはありません。私にはたくさんの謝りたいことがあるのです。「この前は、せっかく来たのにちゃんと帰りの挨拶もしなくて、それに桐生くんにあんなことも言っちゃって、ごめんなさい」「いいのよ。謝らなきゃいけないのは光の方。せっかく小柳さんが来てくれたのに。部屋から出てもこのないで。小柳さんがくれたノート、すごく丁寧に書けてた。ちゃんと光に渡したわ。今日は、学校に行く前に寄ってくれたのね」桐生くんのお母さんは、前にあんた失礼をした私を本当に許してくれている見たいでした。でも、優しいお母さんの言っていることは少しだけ間違っていたので、私は今日来た理由をちゃんと伝えます。218(4:41)「桐生くんと話したいことがあって来たの。味方になるとか、戦うとか、学校に行くとか、そんなことじゃない、もっと大切なことよ」「大切なこと?」桐生くんのお母さんは優しいです。だから私に言わなかったけど、私が桐生くんに話があると言った時の顔は、まるで物語の中に出てくれるお城を守る門番のようでした。ようするに、私は警戒していたのです。当然のことです。前の私は、失礼なだけじゃなく、桐生くんを傷つけもしたのですから。でも、そんなことで締めてしまうなら、私はここに来ていません。今日、私はどうしても桐生くんと会って話がしたいのです。許してもらうため、私がすることといったら、一つしかありませんでした。正直に、どうしてここに来たのか、何を話したいのか、どうしてそう思ったのか、そしてどうなりたいのか、その全部の私の心を一つの嘘もなく、お話しすることしかできませんでした。犬の散歩をしている人や、私と同じ小学校に行く子達が家の前を通るの中、私は分かってもらいたい一心で、桐生くんのお母さんに説明をしました。心からの想いというものは、きちんと相手に伝わるものなのだと信じています。だからきっと私からの「いくじなし」と桐生くんにそのまま伝わってしまったのでしょう。219(6:28)不安もありました。だけど、信じていた通り、私は、心を桐生くんのお母さんにもきちんと伝えることが出来たみたいでした。桐生くんのお母さんは、私をこの前と同じように家の中に入れてくれました。でも、前の時と違ってどうして桐生くんのお母さんの目が少し濡れているのかはわかりませんでした。大人の涙の理由は、かしこい私が考えてもよくわかりません。それに、大抵の場合訊いても教えてくれないのです。桐生くんのお母さんも、あばずれさんも、南さんも。桐生くんの家で私は前と同じようにオレンジュジュースを出してもらいました。それを一口だけ飲んで、私は2階への階段を登ります。桐生くんのお母さんにはついてきてもらいませんでした。単に必要がないと思ったからです。桐生くんのお母さんも、そっちの方がいいかもしれないと言ってくれました。階段を登る途中、私は全くと言っていいほど緊張していませんでした。前に来た時の方が緊張していたくらいです。今日は、まるでアバズレさんの家に続く階段を登るような気分でした。この一歩一歩が、何に続いているのか、例えば幸せへと続いていくもなのかはわかりません。でも、誰かのことを真剣に考えることが幸せだとアバズレさんは言いました。私は、人のことには賢くない。分かっています。220(8:23)だから、皆のことを好きになったり考えたりすることは出来ません。だから、私はたった一人だけのことを考えることにしました。そうしてここに来た今の私は、きっと幸せなのです。私は、歌いました。「しっあわせはー。あーるいーてこーない、だーかーら、歩いていくんだね」一緒に歌ってくれる人はいません。尻尾のちちぎれた彼女も、アバズレさんも、南さんも、おばあちゃんもここにはいません。一人で歌っても楽しいけど、やっぱり歌っていうのは誰かと一緒に歌った方が楽しいわ。だったら、一緒に歌ってくれる人を、見つけるしかないのです。一つのドアの前に立って、私はそこをコンコンとノックしました。ノックをしたのがお母さんじゃないことは、もうばれています。「桐生くん、ごきげんよう。最初に言いたいことがあるの。この前はごめんさい」私はドアの前でお辞儀をしました。もちろん相手には見えていません。桐生くんからの返事もありませんでした。私は、桐生くんが訊いてくれていると信じて、息を吸います。「桐生くんに謝りたかったのは、本当の気持ちよ。だけど、今日はそのためにきたんじゃないのもっともっと、大切な話をしに来たのよ」221(10:09)背中のランドセルを床に下ろして私はドアの向かいの壁に背中をつけて座りました。そして、ランドセルの中から、一冊のノートを取り出します。私は一つの教料ごとに一つのノートを使っています。算数なら算数のノート。料理なら料理のノート。今、私が取り出したのは、国語のノートです。まだ、桐生くんの声は聞こえません。「さ、桐生くん、話し合いを始めましょう」ノートを聞くと、そこには私と桐生くんのこれまでの話し合いの記録が書かれています。「問題、幸せとは何か」そうです。今日、私は学校に行くとか、敵とか味方とか、勇気があるとかないとかではなく、その話を、その話だけを桐生くんとした来たのです。どうしてって理由を聞かれたら、その話を、その話だけを桐生くんとした来たのです。どうしてて理由を訊かれたら、きっと私はこう答えるでしょう。私は一緒に幸せを見つけられることが、友達や味方を言うことなんだと思ったからです。昨日の夜、私ははじっと考えました。味方とは何か、そうし思いついたのです。アバズレさんはわたhしのことを考えて幸せになってくれた、私はアバズレさんといることが幸せ。南さんは私といて幸せになるって約束をしてくれた、私は南さんn物語を読んで幸せな気分になった。おばあちゃんは、私が来ることが幸せだと言ってくれた、私は、おばあちゃんのお菓子を食べながら本の話をすると幸せ。222だから私は、桐生くんとも一緒に幸せを見つけたったのです。それが、味方になるって言うことだと思ったのです。ちょうどよく、桐生くんは私の授業でのペアでした。話し合いに必要な材料は、うちの冷蔵庫nよりもノートによく揃っています。「じゃあま復習から始めましょう。今までの私達の考えを読むわね。幸せとは何か、最初の話し合いの時にいつ幸せを感じるかを話し合ったわ。クッキーにアイスをのせた時、おばあちゃんのおはぎを食べた時、お母さんの作ったお菓子を食べた時、本を読んでいる時、友達と歌を歌っている時、夕食がハンバーグだった時、お父さんとお母さんが早く帰ってきた時、家族で旅行に行った時、好きなアイスを選べる時」私は、わざと一つだけ書いてあったことをいいませんでした。「次の授業でしたのは、幸せじゃないと感じる時はいつか、だったわね。ゴキブリを見た時、給食が納豆だった時、桐生くんはわかめのサラダが出た時って言ってたけど、私は反対したわ。わかめって美味しいのよ」桐生くんの部屋からは、何も聞こえません。223「幸せじゃないことをいくつか出しあった後、私達はちょっと違うことも話したわ。幸せじゃないって言うことは、幸せの反対で、じゃあ幸せじゃないことの反対のことが起れば幸せなのかってこと。でもきっとそうじゃないって結論に至ったわ。納豆が給食に出てこないだけじゃ幸せを感じないもの。桐生くんもわかめが出てこないだけで幸せにはならないって言ってたわ。せめて、そこにからあげが着いてこなくちゃ」桐生くんは、何もいいません。「その後、何度か授業があって、授業参観があったわね。あの時の発表で、私はお父さんとお母さんが来てくれたことだって言ったわ。あの時の気持ちは嘘じゃないけれど、やっぱりそれだけじゃ幸せのことを説明できないと思うの。桐生くんが発表したことは、あれって本当に思ったことじゃないでしょ?」「。。。」「あの後の授業での反省会で、どうしてそれが幸せだと思ったのかって言うのを話し合った時、桐生くん、答えられないかったもの。でも、別に今は桐生くんが嘘をついたことについて話したわけじゃないから、どんどん進みましょう」「。。。。」「じゃあ、ここからは桐生くんが学校に来ていなかった時の話よ。私、ひとみ先生と代わりにペアを組んで、話し合いを続けたの。桐生くんがいた時とやり方はほとんど変わらないけど、今度は幸せを感じる時、なんで幸せを感じるか考えたの、私は」224「どうして」なんの、前触れもなく、私の言葉を遮って聞こえてきた桐生くんの声は、私の耳がよくなかったなら聞こえなかっただろうと思うほど、小さなものでした。声が聞こえてきたことに、驚きはしません。桐生くんは、優しい。きっと、クラスメイトを無視するなんて酷いことは出来ないって、私は知っていました。「どうして?ひとみ先生とペアを組んだこと?それはうちのクラスの人数が偶数だからよ。よかったわ。桐生以外に誰も休んでなくて」「。。。違う」桐生くんの言葉の前には、たくさんの空白がありました。今度も深呼吸をしているのだと私は思いました。深呼吸は必要です。心に隙間を作るために。違う、その言葉の続きを私はいつまでも持ちました。扉の何こうから、桐生くんの静かな息が聞こえてくれるみたいでした。もう一度言います。桐生くんは優しい。だから、持っていれば必ず、応えてくれると、私は信じていました。「。。。ひとみ先生の、こと、じゃなくて。。。小柳さん」225ほら。「私?」私が首を傾げたこと、ドア

「また、同じ夢を見ていた」住野よる ,ページ 197(第8)
私は、つい顔をあげてアバズレさんの顔を見てしまいました。涙と鼻水でそれはそれは不細工な顔を、見たかったのです。「それからの日々は本当に楽しかった。友達なんて、いなかったから。きっと、もっと早くこうして誰かを好きになっているば良かったんだって、気がついた。だけど、過去はもう戻ってこない」時間は戻ってこない。私は、そう行った南さんのことを思い出しました。「私はね、お嬢ちゃんがどんな人間になっていくのか、楽しみだ。だけど、心配もしてる。そうしてか分かる?」198私は首を横に振りました。「お嬢ちゃんが、その子にそっくりだから。お嬢ちゃんは、その子みたいにあ人生を歩いちゃいけないんだ。お嬢ちゃんは、幸せになるなくちゃいけない。だから、誰とも関わりを時たないなんて言っちゃ駄目だ」私は、アバズレさんの言うことの意味を考えながら、もう一度アバズレさんの手をぐっと握り返しました。私がその握る力に込めた気持ちは、迷い、です。私はまるで迷惑の中に入れられた気分になっていました。私はかしこいから、アバズレさんの言っていることの意味はわかっていました。でも、意味が分かることと、それを本当に出来るのかは別の話です。なぜなら私は、本当に今日、もうこれ以上、私は傷つける人達の誰とも会いたくないと思ってしまったのですから。それに、もし私がその考えを変えても、アバズレさんやおばあちゃん以外の誰が私と仲良くしてくれるのでしょうか。荻原くんにも桐生くんにもいやわれた私に、行き先なんておありません。私は、私に似ている「その子」の話をもっと聞きたくなりました。199(3:00)「そのこも、本が好きだったのね」「ん、ああ、お嬢ちゃんと一緒だよ。本が大好きで、ずっと本を読んでた。一度は物語を書く人間になろうかと思ったんだけど、読んでくれる人が周りにいなくて、いつの間にか忘れた」「お父さんとお母さんは?」「二人仲良く、元気で暮らしてるはずだ。もうずっと会ってない。前に一度、家に帰ろうかと思って家に行ったんだ。だけど、チャイムを押せなかった。会うのが、怖かっただと思う」「本のことを話せる友達や、一緒にアイスを食べる友達や、尻尾の短い友達は、いなかったの?」「うん、いなかった。だから、誰も間違ってるって言ってくれなかったんだ」「じゃあ、私みたいに決まった口癖はあった?」土砂降りの雨みたいな、不躾な私の質問にもアバズレさんは一つ一つ、きちんと答えてくれました。それが嬉しくて、私はまた質問を重ねてしまうのです。「口癖か」。アバズレさんは、遠い日のことを頑張って思い出すように、窓の外に目を向けました。私の目は、アバズレさんの顔にだけ、向いています。200(4:37)アバズレさんは指をあごに当てて、私のためにきちんと考えてくれました。「口癖、うん、いつも言ってることがあった。どうして今まで忘れたんだろってくらい。うん、その子の口癖は。。。ってあれ?」アバズレさんは、窓の外に向けていた目を私に向けて、まぶたをしぱしぱと何度も、瞬かせました。その目が瞬きをやめると今度はまぶたが千切れてしまうんじゃないかってくらいに聞いて、一緒に、アバズレさんの口も大きく聞きました。「どうしたの?」「私の。。。子どもの頃の口癖、人生とは、だ」アバズレさんはあまりに驚いたせいでしょう、ゲームの約束みたいだった、「その子」と呼ぶことも忘れてしまった見たいでした。私も、驚きました。「私と、同じよ」アバズレさんは、震える唇で言いました。「子どもの頃、漫画の「ピーナッツ」が好きだった。日本語に訳されたやつをよく読んでて、そこで、主人公のチャーリーが言うんだ。人生とは、アイスクリーム見たいなものだって」「舐めることを学ぶなきゃ。。。」201「そう、そうだ。もしかしてお嬢ちゃんも」驚きという心の力に任せて、私は何度も首を縦を振りました。「私も、チャーリーの台詞が好きなの。とても賢くて、魅力的なジョック」「なんて、緑だ。。。」縁、アバズレさんはそう言いました。運命や、奇跡じゃなくて、縁という言葉を使うアバズレさんは、やっぱり素敵だと思いました。縁という字は知っています。緑という漢字にとてもよく似ているのは、生き物がいつか死んで土に帰って、そこに緑色の草花が生え、それを食べて他の生き物が生きていく、そういう不思議な繋がりを指すからなのではないかと私は思っています。だとするなら、私とアバズレさんが出会ったのは、やっぱり緑なのだと、思います。私は、緑という言葉に手を合わせて感謝します。もちろん合わせる手は、アバズレさんと。言わなくてもアバズレさんは私の気持ちをわかってくれた見たいでした。彼女は、にっこりと笑って、私の手の半を包み込んでくれました。「やっぱり、お嬢ちゃん。誰とも関わらないんて、駄目なんだ。人と関われば、こういう素敵な出会いがある」203(802)私は、荻原くんの顔を思い出します。思い出すだけで、私の心は、また黒色に染まっていくようでした。「無視、されたわ」「そっか、てっきり嫌いって言われたのは、その子にかと思ってた」「違うわ。嫌いって言われたのは、前に話した、学校に来なくなったこ子よ。あれから、その子の家に行ったの。伝えたかったのよ、私はあなたの味方よって。だでど、その子は私が思ってたよりもずっといくじゃなしだったの。だからそれを言ったら、その子に意地悪をする子達よりも、私のことが一番悪いって言われちゃった」「そう。。。それはお嬢ちゃんが悪いな」思ってもみなかった、アバズレさんの答えに、私は口から出るはずの言葉を頭の中に忘れきてしまいました。どうして?どうして、私が悪いの?私は、助けてあげようとしたのよ。思うけど口から出ない言葉。それをわかってくれたのかはわからないけど、アバズレさんは私の頭を撫でました。「そんで私も悪かった。お嬢ちゃんにヘントの出し方を間違ったな。お嬢ちゃんは賢いけど、私と同じで人に関してはそんなにかしこくない」アバズレさんは意地悪にひひっと笑ったけど、アバズレさんと一緒だという一言で嫌な気にはなりませんでした。204(11:53)じゃあ、賢くない私にアバズレさんは何を教えてくれるのでしょう。そう考えていると、アバズレさんは今までのお話とまるで関係のない質問をしてきました。「お嬢ちゃんは、給食で嫌いな食べ物はある?」私はアバズレさんが今どうしてそれを聞きたいのかわかりませんでした。でも、アバズレさんからの質問を私が無視するわけありません。「納豆が嫌い。あれは、変な匂いがするもの」「あー、私も嫌いだった」「だけど給食って残しちゃいけないのよ」「そうそう。体にいいからね、納豆は食べなきゃいけない。じゃあさ、お嬢ちゃん。お嬢ちゃんがその納豆を、今、勇気を出して食べようって思ってる時に先生から、さっさ食べなさい!って怒られたら、どんな気分になる?」「私の先生はそんなことはしないけど、気に入らないわね。怒っちゃうかも、そして納豆をもっと食べたくなくなるわ」アバズレさんは、こくりと頷きました。「お嬢ちゃんが、学校に来ないその子にしたのは、それと同じなんじゃないかな」205(13:17)「。。。。」経験はありません、話にも聞いたことがありません。でも、きっと雷に体を打たれたらこんな漢字なのだわ、と私は本当にそう思いました。それくらい、私の頭は壁を打った時よりも衝撃を感じて、話tしの手足は七五三ですっと正座をした時よりも痺れたのです。そして、心の中の黒色が、パチパチと音を出しはじめました。「そうか、そうだったのね」一緒に気がついたのは、私がした自分勝手すぎること。「戦おうとしてたのかもしれないんだわ」「ああ、そうかもしれない。もしかしたら本当のいくじなしなのかもしれないけど、でも、それなら、お嬢ちゃんに怒ったりしないんじゃないかな。その子は、お嬢ちゃんに何かを伝えたかったんだ。無視するんじゃなく、何かを」やっぱり、アバズレさんは私なんかよりもずっとずっとかしこい。それは、私が思ってもいない買ったことでした。私は決めつけていたのです。彼はいくじなしで弱くて、戦うことなんて絶対に出来ないって。もしかしたら彼は、もう少しで戦おうとしていたかもしれないのに。「それに、言い返すことだけが戦うことだなんて限らない。彼にとって戦うってことは、我慢しながら、いつか周りの皆を見返すような、絵を描くことなのかも」206(15:14)私は、彼がどれだけ馬鹿にされて絵を隠しても、絵をかくのをやめようとしていないことを思い出します。「それは、お嬢ちゃんとは戦い方が違うのかもしれない。だけど、お嬢ちゃんもその子も、きっと同じだ。私も一緒。悔しいと思うことも悲しいと思うこともある。そんなの本当は嫌だし、それに、本当は味方が欲しい。嫌いって言っちゃたのも、きっと彼は後悔してる。お嬢ちゃんは他の子より賢い。でも、他の子達もちゃんと考えてるんだ」それはアバズレさんが前にくれたヒントでした。皆違う、でも皆同じ。「私、どうすればいいの?」「お嬢ちゃんが、落ち込んだ時、どうして欲しいか考えらばいい。それを少しだけ、その子に合わせて考えれれば完璧。お嬢ちゃんは、落ち込んだ時、誰かにそのことを怒られたい?」「いいえ、横にいてくれたり、話を聞いてほしい。その後は一緒に甘いものを食べて、遊んだりしたい。」「そう思うなら、そうすればいい」私は、頷こうとしました。でも、たった一つ残った心配が私の首の動きを止めたのでうす。207「もし、本当に嫌われてたら」言うと、アバズレさんは私の頭をもう一度撫でてくれました。「そんなことないと思うけど、でも、もし万が一そうだったなら、私が慰めてあげる。それからまた一緒にどうすれか考えよう」「。。。。」「大丈夫さ、お嬢ちゃんには勇気があるんだろ?」アバズレさんはそう言って、私の背中を叩きました。その一発は、まるで前にテレビで見たバイクのエンジンを動かすた目にすれキックと似ていました。アバズレさんの手の半からの力が私の体の中のエンジンに、火をつけたように感じたのです。「そうね、やってみるわ。私、言ったのよ」「なんて?」「自分から動かなきゃ始まらないって、桐生くんに言ったんだもの。だから、やるわ。ねえ、アバズレさん。。。。」私の言葉が止まったのは、誰かに手で口を押さえれたからでも、苦いものを飲まされて声が出なくなったからでもありませんでした。「アバズレさん?」208(18:14)さっきまでの笑顔とはまるで違う、アバズレさんの顔を見てしまったからです。その瞬間、部屋の中なのに、風が吹いたような気がしました。アバズレさんは、また何かに驚いた顔をしていました。でも、その度合いが、まるで今までと違ったのです。どうにかこうにか、それをたとえるとするなら、そう、誰かと口癖が一緒だったことなんて全て忘れてしまうみたいな。宇宙人と魔法使いと地底人を一緒に見てしまった見たいな。まるで、雷に打たれた見たいな。そんな顔をしていたのです。私はその顔をどこかで見たことがあります。「どうしたの?」当然、私は訊きます。アバズレさんは、まるで私がモンスターに変身しちゃったのを見てしまったような顔のまま、一言、喉の奥から引っ振り出してきた見たいな声で咳きました。「桐生、くん。。。」「ええ、そうよ、絵描きの桐生くん」私の言葉を受け取った途端でした。もしかして私の言葉は大きな大きな花束になってしまったのかもしれないと思いました。テレビで見た、大きな花束を貰ってプロポーズを受けた女の人と、アバズレさんが、同じ顔をしたから。「どうしたの?」209(20:10)私はもう一度訊きました。でも、アバズレさんはその質問には答えてくれませんでした。「もしかして。。。なのか?」当たり前の質問、私は、「ええ」と頷きます。驚き、それが収まらない顔をしたまま、アバズレさんは突然、目に涙をいっぱいにためていました。大人の涙ほど子どもを驚課すものはありません。なので私は驚きました。どうしてアバズレさんが泣いているのか、210(22:40) そうして、こうも言いました。「ごめんな、ごめん

「また、同じ夢を見ていた」住野よる ,ページ 182(第8)
第8次の日、宣言通り桐生くんは学校に来ていませんでした。私は、まだ心の中に昨日っ入ってきた真っ黒を残したまま、どうにかこうに学校に行きました。桐生くんがもしきていたら、学校に来いと言った私は絶対に休んでは駄目と思ったからです。私の心は黒いままで、どうかこの黒い何かが休から出ていきますようにと願ったのに、その黒い全ていなくなってはくれませんでした。私は、学校から帰りたくて仕方がありませんでした。早く友達に会いたい。それだけを願っていました。アブズレさんに、おばあちゃんに、尻尾のちぎれた彼女に、会いたたい。そういえば、ねえ、みなみさんはどこに行っちゃったの?183 (1:16)社会の授業中、私は会えなくなった友達のことを思い出して急にまた、泣きそうになってしまいました。だから私は授業の間の休み時間に図書室に行くことにしました。図書室に行けば、本の匂いが、本を閉じ込めている宝箱のような匂いが、私を慰めてくれると思ったのです。私のそのたくらみは、少しだけ成功しました。黒いものは相変わらず私の中にいましたが、暴れるのを止めて私の涙を目の中に封じ込める努力の邪魔をしてくることもなくなりました。これなら、どうにかこの黒いものを放課後まで飼い慣らすことが出来る。そうすれば、いつも通りアバズレさんの家に行ってアイスを食べ、おばあちゃんの家に行ってお菓子を食べられる。そうして、桐生くんのことなんか忘れてしまえばいい。嫌なことなんて忘れてしまえばいい。そう思ったのです。でも、そう思えたのは少し間だけでした。私はこの心の黒いものを晴らすのに、もっといい方法を見つけてしまったのです。それは、図書室を出たところでした。少し先の廊下を赤いている、彼を見つけたのです。私は、彼の背中に近づいて、迷わず声をかけました。184「ごきげんよう、荻原くん」荻原くんは、私の挨拶にとても驚いた様子で肩を震わせました。私は、彼が振り返るのを持ちながら、頭の中で荻原くんと話す内容について考えました。私は最近、「ぼくらの7日間戦争」を読んだわ。荻原くんは何を読んだのかしら。そんなことを考えました。私は、もしかするとクラスにたった一人かもれない、私のことをいやいじゃない人と楽しいお話すすることで、心を少しでも元気に出来たらと、願ったのです。それだけのことを願ったのに。人生とは、風邪を引いた時に熱をはかるみたいなものなのですね。大体いつも、想像したよりひどい。私は誰かに荻原くんの名前を呼びました。たのに、荻原くんはまったくこちらを振り向きません。それどころか、私のよびかけに答えず、少し早足になって教室のある方向に歩きはじめました。もしかしたらきちんと聞こえてんかったのかもしれないわ、驚いたのは別のことに驚いたのかも、そう思って、もう一度、声をかけました。「ねえ、荻原くん」「。。。」185(4:39)彼は、答えませんでした。そして、止まりもしませんでした。おかしい。私はもう一度、呼びかけました。「荻原くん?」彼はやっぱり、振り向きませんでした。それからは、何度も何度も荻原くんの名前を後から呼びました。少しずつ私の声は大きくなっていっていたんでしょう。教室に書く頃、私の声はもう、昨日の桐生くんと同じような叫び声になっていました。「荻原くん!」荻原くんは、私に答えることなく、席に着いて教科書の準備をしていました。子供、そして小学生の私は、薄々感づいていました。でも、それを認めたくなかった。だけれど、私の願いが届かないことは、クラスの男子達がにやにや汚い笑顔を浮かべながら私をみていたことで、わかってしまったのです。無視、そういう名前の、この世界で一番頭が悪く、愚かな、いじめ。私は今まで、そんなの気にしなければいい、そう思っていました。だけれど、今、私の心はさっきまでよりさらに深い黒に覆われてます。私の心は、沈み込みました。こんなに正しい自分がいじめられているということに。そして、荻原くんがそんなバカなことに加わっているということに。186(6:30)これは後からしれました。、だから今の私には関係のないことですが、あの日、スーパーで万引きをして捕まった人が桐生くんのお父さんだったこと、証拠もないのに言いふらしたのは、荻原くんだったそうです。でも、今の私にはそんなことはどうでもいい。私はただ、荻原くんに、私を取り巻く世界に、裏切られた思いで滅茶苦茶にされていました。その日、私はその時間から、アバズレさんの家に行くまでのことを何も覚えていません。気がつくと私は、本当に気が付くと私はあばずれんさんのいえのチャイムを鳴らしていました。ここまでどうやって来たのかも覚えていません。足元に尻尾の短い彼女もいません。いつも間にかアバズレさんの家のチャイムに指を伸ばしていました。中からはあばずれんの「はーい」という眠そうで柔らかい声がしました。そこで、一回。少しの時間を置いて、ガチャリ、ドアが開いて見えたアバズレさんの顔で、2回。私をみたアバズレさんが、私の顔を見ても何も訊かず、「入んな」と言ってくれたので、3回。私はアバズレんに促されるままに靴を脱いで、部屋の中に入って、部屋の隅っこでと膝を抱えてそこに顔をうずめました。187(8:31)もうとっくに見られているのに、自分がかわいそうでなくなんていうのは、まるで賢くない気がして、私は、一人小さな三角形になりました。アバズレさんは、部屋に入ってからも何も訊きませんでした。ただ、冷蔵庫が聞く音がして、それからわた部屋しの近くの近いテープルに、何かが置かれる音がしました。「今日見つけて、珍しいと思って、買ってきたんだ。食べな」私は、アバズレさんが買ってきてくれたそれがなんなのかも水に首を横に振りました。私が熱っていると、アバズレんさんがまた立ち上がる音と、コーヒーの匂いが伝われってきました。どっちも、私が好きなもの。だけど、今は何も見たくありません。アバズレさんは呆れているが、怒っているのかもしれない。そんなことも考えました。突然、家に来た子どもは泣いていて、何も喋ろうともしない、失礼この上ないガキなのですから。アバズレさんは、コーヒーを入れるとまた同じ場所に座ったみたいでした。二人とも熱っているから、部屋の中には、クーラーの動く音しか聞こえません。でも、それもちょっとの間のこと。他の音が聞こえてきたのは、すぐでした。188(10:28)「しっあわっせはー、あーるいーてこーない、だーかーらあるいーていくんだねー」綺麗な歌声、私にはまだ出せない、高い中に低さの雑じった、まるで赤と青を美してく塗り分けた絵みたいな、そんなアバズレさんの歌声が聞こえて来ました。私を元気つけようと誘ってくれているのかもしれない。そう思ったけれど、歌いたくなかった私は歌うことができませんでした。私が黙り込んでいると、一番をきちんと歌い切ったアバズレさんは突然、こんなことを言いました。「幸せとは何か」ぴくっ、私の耳が動いたことはアバズレさんにばれたでしょうか。私がもっと深く顔を膝にうずめると、アバズレさんはそんなことは気にしていないみたいに話を続けました。「考えたんだ。お嬢ちゃんの話を聞いてから、ずっと」「。。。」「今日、その答えがわかった」私は、思わず顔を上げてしまいました。でも、笑顔のアバズレさんと目が合いそうになって、すぐに顔をもう一度伏せました。味は苦手だけど、香ばしいが素敵なコーヒーの匂い。アバズレさんの使う香水やお化粧のきらびやかな匂い。そして、アバズレさんが見つけたという幸せの答えというものが、私をくすぐります。189(12:28)部屋があまりに静かだったから、私のくすぐったさが、伝わってしまったのかもしれなません。アバズレさんは、コーヒーを一口こくりと飲んでから、私が訊かなくても続きを話してくれました。「これは私の答えだ。だから、お嬢ちゃんの考えとは違うと思う。だけど、もしかしたら、何かのヒントになるかもしれないから、お嬢ちゃんに話しとこうと思うんだ」アバズレんは、私の相槌を持ちませんでした。すうっと息を吸ってから、こういいmした。「幸せとは、誰かのことを真剣に考えられるということだ」「。。。。」「今日、買い物をしてた。明日の朝ご飯を買ったり、飲み物を買ったり、切れていたシャンプを買ったり。それは、毎日続く日常で、特別でもなんでもない出来事だ。パンを買って、牛乳を買って、リンスを買って、もう買い忘れたものは何もないかな、そう思った時に、そういえば今日、お嬢ちゃんは来るかな、来た時のためにおやつを買っておこう、この前は何を一緒に食べたっけ、今度は何を一緒に食べよう、お嬢ちゃんが来て、喜んでくれればいいな。気がついたら、私はお嬢ちゃんのことをずっと考えてた」190「。。。」「気がづいて、驚いた。もう、ずっと、誰かのことを真剣に考えたことなんてなんかった。誰かを喜ばせたいとも、誰かと一緒にいたいとも、私は思わなくなってた。諦めてたんだな、私は、ずっと、なかったから分かった。人は、誰かのことを真剣に考えると、こんなにも心が満たされるんだって」「。。。」「私はね、お嬢ちゃん。嫌なことも、苦しいことも、諦めてしまう大人になっちゃったんだ。前は誤魔化してしまったけど、私は、幸せじゃなかった。幸せの形がどんななのかも、もう忘れちゃってたからだ。だけどね、私は、今日やっと思い出した。幸せの形を」「。。。」「お嬢ちゃんのおかげで、私は幸せの形を思い出せたんだ。ありがとう」アバズレさんが那智上がったのが、音でわかりました。ところどころが軋む床。アバズレさんが動くと、ネグミの泣き声みたいな音を鳴らします。ネズミの声は、だんだんと私に近づいて来ました。そして、私の横で止まると、アバズレさんは私の隣に座りました。アバズレさんの柔らかな体温が、届いてくる。そんな距離で。「これで私の勝手な話は終わり、亜rが頭。聞いてくれて。大人の話はつまんないよね。なのに静かに聞けるお嬢ちゃんはさすが。よし、私のつまない話を聞いてくれたお返しだ」191(16:52)アバズレさんは、私が膝を結んでいる両手の上に綺麗な指を重ねました。「お返しに、もし、お嬢ちゃんがしたい話があるなら、いつでも、いつまででも、聞くよ」また、泣くかもしれない。私はそう思いました。でも、泣きませんでした。アバズレさんの言葉、嬉しかった。優しさに溢れてて、でもそれが全然べたつかなくて、やっぱり私はこんな大人になりたいと思いました。それに、アバズレさんは私のおかげで幸せになれたと思いました。こんな嬉しことが、友達としてこれ以上が、あるのでしょうか。こんなにも、嬉ししのだから、私は優しくてはしゃぐか、してもよかったのだと思います。でも出来ませんでした。理由は、アバズレさんの幸せについての考えを、信じられなかったからです。私は、しわくちゃになった声を、この部屋に来て初めて出しました。「考えたわ」「ん?」「一生懸命考えたのよ!でも無駄だった!」192(18:38)つい、出てしまった大きな声、私は優しいアバズレさんに申し訳ないと思って、本当の心からの「ごめんなさい」を伝えました。でも、大きな声以外の反感を、訂正はしませんでした。「ちゃんとちゃんとちゃんと、考えたの、ずっとずっとずっと、考えてたの。アバズレさん言うみたいに、考えた。クラスメイトのこと、こんなに考えることなんてないくらい。だけど、そのせいで無視されるようになった。嫌いって言われた。何も、幸せじゃない」「。。。そっか」「もう、私は、誰とも関わらずに生きていくわ」」「それは駄目」アバズレさんの言葉は私を叱りつけている、そう思いました。大人として、学校の先生達みたいに。大人達はいつも言うの、有責や絆がこの世界で一番大事だって。だから私はそれの反対を言ったことを的外れに怒られるのだと思いました。私は、失望しました。それは、友達にすることじゃないから。でも、アバズレさんの次の一言で、彼女は私を叱っているのではないと、分かりました。アバズレさんは触っていた私の手をぎゅっと握りました。そして、あり

「また、同じ夢を見ていた」住野よる ,ページ 164(第7)
第7次の日、朝の会が終わってから私はまたひとみ先生を呼び止めました。そして、昨日決めたことを、きちんと先生に発表したのです。「ひとみ繊維が桐生くんの家に持っていってるプリント、今日は私が持っていくわ。彼に伝えなきゃいけないことがあるから、それと一緒に」私の提案にひとみ先生は飲んだような顔をしました。それはそうでしょう。先生は、桐生くんが学校に来なくなった理由が、少しは私にあると思っているのですから。先生はそう言わないけど、私知ってます。165(00:47)だけど、先生がそう思っていたとしても、私はここで諦める気はありませんでした。「ひとみ先生は言ったでしょ?桐生くんの味方になれって。正義の味方は、自分のいるところに来てくれないからって、味方をやめたりしないと思う。弱い人のところに来てくれるのよ」それから「もちろん悪はクラスの馬鹿な子達」と付け加えました。ひとみ先生は、まだの悩んでいるようでした。私はもし先生がこの提案を許してくれなかったら、どうしようかも考えていました。私は、大好きなひとみ先生の言うことは出来るだけ聞きたいと考えています。だから、もし、ひとみ先生が許してくれななかったら、桐生くんの家に勝手にいくことにします。大人の言うことが正しいは限らない、そう言ったのは先生だから、ひとみ先生が悩んだあとに決めたことは、先生が私をいじて決めてくれたのだとわかるものでした。「分かった、今日のプリントは小柳さんに任せる」「きちんと、役目を果たすわ」「ええ、だけど、みつだけ、先生と約束してほしいことがあるの」166(2:19)ひとみ先生は真面目な顔をして、皆を三つ立てました。私が好きな方の、先生の真面目な顔です。今はきっと、私と桐生くんのことを心から考えてくれているのでしょう。「一つ目、もし、桐生くんに会えたら、先生がいつでも持ってるって伝えほしいの」私は驚きました。「会えるなかったの?」「うん、まだ会いえたくないって」「どこまでいくじなしなのよ」私が言うと、二つ目の皆を先生が折りました。「二つ目が、それ。桐生くんを責めちゃ駄目。味方になってあげるっていうのは、攻撃したりすることじゃないわ。だから、絶対に無理矢理、学校に来なさいなんて言っちゃ駄目」先生の言うことは納得が出来ました。悪い子を叱るのも正義の味方の役目です。でも、桐生くんはいくじゃしだけれど今のところ悪い子はありませんだから、攻撃しては駄目なのです。「最後は?」「うん、三つ目はね、クラスのい子達を悪いなんて言わないで。皆も小柳さんと同じくらい、桐生くんのことを心配してるわ」167(3:49)その言葉を聞いて、私は思いました。ああ、先生はやっぱり的外れ。最後の約束にだけ、頷かなかったこと、先生は気がついたでしょうか、教室に帰って私は、クラスで騒いでいる子達を見回してみました。クラスの子達は、まるで桐生くんが最初からこのクラスにいなかったみたいに、いつもと同じく何も考えていない顔をして、この時間を過ごしていました。誰一人、桐生くんのことについて話したり、桐生くんのことについて先生に何か訊いていたような子はいなかったのです。そう、誰一人。だから、先生の言ったこと三つ目だけは嘘です。絶対に嘘。それが嬉ししいことなのか、悲しいことなのかはわかりませんが、子どもである私の勘違いや間違いでないことは、そのひすぐに証明されることになりました。昼休み、私は、呆れてものも言えなくなりました。「なんだよ、お前、あんた泥棒の子どものためにそんなことやってんのかよ。お前、桐生のこと好きなのか」馬鹿な顔を引っ提げて、ニャニャしながら馬鹿な男子が言ってきたのは、私が昼休みに自分のノートを紙に書き写している時でした。馬鹿な男子の言う通り、それは桐生くんにあげるためのものでした。どうせ家に行くのだから、私の綺麗な字で授業のことも教えてあげましょう、と考えたのです。168(5:42)私は、本当の馬鹿を相手になく仕掛けた日本語をどうにか口の中に戻して、溜息と一緒に質問に答えてあげました。「ええ、少なくともあなた達よりは桐生くんの方が好きよ。彼、弱っちいけど、絵を描くのが上手いもの」「あんなも描いてるから、弱くなるんだよ」それはそうかもしれない。おばあちゃんの話を思い出してそう思いましたが、馬鹿な人が一つもっと漏らしいことを言ったからと言って、それまでの百の間違いが許されるわけではありません。私は、無視してノートの書写しを続けました。私が無限しているのが気に入れなかったのでしょうか、馬鹿な男子はさも、ありもしないプライド、傷付けれたような顔をして「無視してんじゃなえよ!」と言いました。それでもまだ私が無視をすると、男子は乱暴に私が文字を書いていた紙を取り上げ、腕をあげてそれをクラスの子達に見せびらかしました。「こいつ桐生のこと好きらしぜ!」男子の大きな声を聞いて、クラスの中にいた子達がザワザワとこっちをみました。馬鹿な男子はそれで自分が優位なったつもりなのか、勝ち誇こた目でこちらをみました。馬鹿、ここに極まります。私は馬鹿な男子に自分の馬鹿さ加減を教えるため、大きな大きな溜息をつきました。169「自分が馬鹿だって、皆に見せびらかしたいのは分かったから、返しなさい」私が立ち上がって、馬鹿な男子の手から紙を取り返そうとすると、男子はひらりと体をひねって私の手から紙を逃がしました。この時、この場面を見て、どちらが悪いか、1秒でも考えれば誰しもが分かったはずでしょう。だから本当なら、クラスの皆は、馬鹿な男子が紙を私に返すよう説得できたはずです。なのに、皆はそうしなかった。桐生くんが読んでいて、隣に座っている私がいつも彼のために戦っているのも見ているはずのに、それをしなかった。だから、もう一度溜息をついて、馬鹿は男子に、こう質問しました。「返さないのね?」男子は無視をしました。私は、溜息とは逆に、これから話す言葉の量に町どいいだけの空気を胸に溜めます。先生と約束しました。味方を責めちゃいけない、と。170(8:54)「人から勝手に撮ったものを返さないなんて、あんた泥棒ね」つまり敵なら、どれだけ、責めたっていいのです。馬鹿な男子は、顔を真っ赤にして私を睨みました。「泥棒、の言葉の意味を知ってるかしら?知ってるわよね、何度も言ってるものね。泥棒って、人のものを勝手に取る人のことを言うのよ?じゃあ、あなたも泥棒じゃない。しかも桐生くんのお父さんが泥棒をしたってことは、私、みてないからほんんとうかどうかわからないけど、あんたが泥棒だっていうのは本当よ。だって、ほら、私のものを勝手に取ったじゃない」男子の顔は、どんどん赤くなっていきます。このまま行くと爆発しちゃうんじゃないかしら。だけど、私の言いたいことはまだ終わっていません。だから、もし爆発したなら、謝りましょう。「泥棒は悪いことだわ。そうでしょ?そう思ったから、桐生くんを責めたんでしょ?そうね、じゃあ、また、あなたの言ってたことを採用するとしましょう。そうしたとして、もし、桐生くんのお父さんが泥棒という理由で桐生くんが泥棒になるのだとしたら、ああ、あんたの家族、みーんな泥棒ね。ひどい家族!あんたのお父さんもお母さんも皆、泥棒。おじいちゃんもおばあちゃんも?本人じゃなくても、関係があることが悪いことだとしたら、もしかしたらあんたの友達だって泥棒かも、いや、もしかしたら同じ教室の中にいるだけで泥棒になっちゃうのかしら。そしたら私も泥棒なのかも、そんなの嫌よ、私はあんたと違って」171 (10:35)「うるせえ!」馬鹿な男子の金切り声が、私の耳に届いた瞬間、私の目には別のものが届いていました。遠ざかっていく男子、近くなる自分の身長,勝手に見上げた天井。いきなりのことで私が自分の状況に気が付くのには、少しの時間がいりました。呆然としていると、少しずつ左の肩に受けた衝撃と、右の二の腕の痛みが私の頭に届いて、私はやっと自分が突きとばさゃんも、あばずれさん倒れたことを知りました。横では、私が倒れる時にひっかかったのでしょう、椅子が私と一緒に倒れています。見てすぐにわかる。それは、乱暴、暴力。しては行けないと教えられていること。私が立ち上がって男子に注意しようと思ったことろで、私の頭にこつんと何かが当たりました。丸まったそれを拾って、拡げて見ると、それは私が桐生くんのために書いたノートの写しでした。「皆、お前の、ことなんか嫌いなんだよ」男子は、私のものを取って、壊して、暴力までふるって、その上でそんなことを言いました。172(12:06)こんなシーンを見て、私の方が悪いなんて言う人がいたら、その人はきっと頭がおかしい。私は、誰かがきっと味方をしてくれるはずだ思いました。なのに、いつまで座っていても、私の手を取ってくれる人も、私を慰めてくれる人もこのクラスにはいませんでした。先生の言ったことは、やっぱり嘘だったのです。馬鹿な男子が最後に言ったことは、あながち嘘ではないのかもしれません。だから私は、心をすぐに伝えたい私は、思ったことをクラスの皆に聞こえるように、だけれど、あくまでかしこく、叫んだりせず、はっきりと伝えました。「皆、泥棒よ」私の言葉の余韻が残るのを防ぐ見たいに、昼休みが終わるチャイムが、その時鳴りました。帰りの会の後、ひとみ先生から桐生くんに渡す分のプリントを貰った私は、今日は先生の隣の席のしんたろう先生かお菓子を貰ったりせず、さっさと学校を出て行きました。途中すれ違ったクラスメイト達とは、誰とも挨拶をしませんでした。代わりに私の家の近く毛皮の友達と持ち合わせて、私は桐生くんの家へと向かいます。173桐生くんの家のある場所は知っていました。前に道で会って、家はどこなのか聞いたことがあります。大体の位置がわかっているのだから、彼は表札を見ればいいはずです。同じような形の一軒家がたくさん並んだ場所で、家の前に「桐生」と書かれた家は一軒しかありませんでした。桐生という苗字をどう漢字で書くのか、前に字の形がかっこいいと思ったことがあるので覚えていました。「ま、小柳の方がかっこいいけれどね」私はそうひとり言いながら、緊張したりせずに桐生くんの家のチャイムを鳴らしました。チャイムを鳴らしてから、1分くらい持ってみたけれど、誰かが出てくれる様子はありませんでした。私は2回目を鳴らします。ところが2回目も同じ結果でした。私は、桐生くんがいないとは考えませんでした。私でさえ、風邪をひいて休んだ時には少しよくなってからもなんだか学校に行っている人達と会いたくなくて外に出なかったのに、桐生くんにそんな勇気があるわけがないのです。もしかしたら私とも会わない気かしら。そう思って、3度目を鳴らして、次の1分を何をして時とうか、そう思った時でした。やっとチャイムに炊いているマイクから、声が聞こえてきたのです。174(15:31)「はい」元気がなさそうではありましたが、それは授業参観の時に桐生くんと話しているのを聞いた桐生くんのお母さんのものだとわかりました。「こんにちは!私、桐生くんのクラスマイトで、プリントを届けに来たの!」「ああ、ありがとう、ちょっと待ってね」言われた通り、いい子にして持っていると間もなく桐生くんのお母さんが玄関のドアから出てきてくれました。私は、「ちょっと待ってて」と足元で自分の手を舐めていいる友達に行ってから、ちゃんと桐生くんのお母さんに頭を下げます。「こんにちは!」「あなたは、小柳さんね。光の隣の席の」桐生くんのお母さんはお話したこともないのに、私のことを知ってくれていたようでした。なぜかはわからないけど、嬉しいことです。光というのは、桐生くんの名前です。桐生光。こんなに先生が持ってきてくれるんだけど、今日は小柳さんなのね。ありがとう」「いつもはひとみ先生が持ってきてくれるんだけど、今日は小柳さんなのね。ありがとう」「ええ、私が先生に頼んだのよ。桐生くんに用事があったから」用事、その言葉を聞いて桐生くんのお母さんの顔は、今日の朝のひとみ先生と同じ顔になりました。桐生く

「また、同じ夢を見ていた」住野よる ,ページ 150ー164(第6)
「150・151」次の日、私とアバズレさんの願いが通じたのでしょう、空は太陽さんの光をまくべんなく地球に配っていました。濡れた土も、小学校が終わる頃には固まって、私のお気に入りの靴も、尻尾のちぎれた毛皮のコートも汚れることはありませんでした。丘のしたの公園から、石の坂をのぼっていきます。晴れることはうれししいのですが、毎日どんどん暑くなっていて、私は全身から汗を流してひから日てしまうんじゃないかと心配します。おばちゃんの家までの道がし縮んでしまうような魔法を使おうとしたのですが、魔法を使えないことをすぐに思い出しました。山の中は日陰が多く、コンクリートの道よりも、小さな彼女には心地よいようで元気一杯に坂をのぼっていきます。やっとの思い出おばあちゃんの家に着いて、私はいつもの通りにすぐ扉をノックしようとしました。でも、そこで扉に紙が貼ってあるとい気がつきました。私は、字が読めない元気いっぱいな友達のために、その紙に書いてあったことを声に出して読みます。「鍵は開いているから、好きに入っていいよ。なっちゃんへ」私は、金色の瞳を持つ彼女と顔を見合わせてから出来た扉のドアノブに手をかけました。手紙の通り、扉に鍵はかかっていませんでした。「おじゃまします」お家に挨拶をしながら入ると、中はとても静かでした。いつもなら、おばあちゃんがお菓子を焼いている音や、甘い匂いをすぐに感じることが出来るのですが、今日はそれがありませんでした。「おばあちゃんいないのかしら?」152「ナー」彼女の足を玄関に置いてある濡れタオルで拭いてあげて、一緒に家に上がります。けれど、やっぱり私達の息遣いと足音以外には何も聞こえないみたいでした。まず私は、日当たりのとてもいい居間に行きました。おばあちゃんはここで座ってお茶を飲んでいたり本を読んでいることがとても多いからです。でも、そこにおばあちゃんはいませんでした。おばあちゃんがいないだけど、そこはいつもよりもとても広く見えます。広い場所は好きです。なのに不思議です、その居間の広さはとても私の気持ちをざわざわとさせるのです。ざわざわはあまり気持ちが良くないので、次に私達は家の一番奥にあるキッチンに行くことにしました。もしかすると、今日のおばあちゃんは音と匂いのしない料理をしているのかも知れないと思ったのです。だけど、そんなことはありませんでした。よく整理されたキッチンは誰もいなくて、その広さと静けさはまた私の心をざわざわとさせました。どうやら、おばあちゃんはいないみたいです。お買いもののにでも行っているのかもしれません。私とちっちゃな彼女もう一度顔を見合わせて、最初から約束していたみたいに居間に続く廊下に一緒に出ていきました。153 (3:55)お日さまの光が入りにくい廊下は晴くて、私は1秒でも早く通り坂けてしまいたかったのですが、こういう時に走ると怖いものに追い掛けられるというお話を前に読んだことがあったので、一歩一歩、私なんか追い掛けても楽しくないわよと唱えがら廊下を進んでいきました。居間に行くまでの間にはいくつかの部屋の前を通ります。でも、ほとんどの部屋は空っぽです。ただダンスや机が置いてあるだけで、人の気配がしない空っぽの部屋です。元々はおばあちゃんの家族が住んでいた場所だったのだそうです。中身は、家族と一緒に出ていってしまい、外側だけが残ったそうです。空っぽじゃない部屋は、おばあちゃんの寝屋だけです。その部屋には何度か入ったことがありました。そこにはおばあちゃんのベッドと、本棚が置いてあって、そこで私は本を見せてもらったことがあるのです。おばあちゃんの寝屋の前も迷いなく通り過ぎようとして、私はふっと足を止めました。可視化したらおばあちゃんはベッドで寝ているのかも知れないと思ったからです。私は晴い廊下の色に紛れている彼女に声をかけて、おばあちゃんの寝屋のガラス戸をノックしてから開けました。だけど、やっぱりそこにもおばあちゃんはいませんでした。だから、本当ならすぐにその部屋を出て温かい日差しの振り注ぐ居間にいくはずでした。154(5:45)たのに、私がその部屋で立ったまま動けなくなったのには、特別な料理がありました。私は、寝室の中に入って、閉まっていたカーテンを開けます。ほどよい光が部屋の中に入ってきて、部屋の中のものの色がはっきりすると、私が見つけたそれの色も一つ一つが命を持ったようでした。それは壁にかかっていいました。私は、一歩、また一歩とそれに近づきます。その数秒、私は小さいな友達のことはもちろん、もしかするとおばあちゃんのことも忘れていたかもしれません。「きれい」「綺麗」という漢字も書けない子どもである私のその一言には、私が心に思い描いたものの全てがこもっていました。いや、本当は心の中でだけ咳いたつもりだったのに、この世界に漏れてきてしまったのです。それは、絵でした。いくつもの色が折り重なった、美しい、絵でした。じっと見えていたら、その絵の中に吸い込まれてしまいそうなくらいの力が溢れていて、私は目を離すことが出来ませんでした。もしかすると、私は本当に少しの間、その絵の中に入っていたのかもしれません。「なっちゃん」、そう声をかけられるまで、いつの間にか横に立っていたおばあちゃんに気がづきませんでした。「155」(7:48)いつもなら、突然声をかけられたりしたら私は跳び上がって驚くはずなのに、私はゆっくりとおばあちゃんの方を見ることができました。「この絵、どうしたの?」私は、おばあちゃんに訊きました。前にこの部屋に入った時には、こんな絵はなかったははずです。「前に、友達が描いてくれた絵。ずっと2階の仕事部屋に飾っていたんだけど、あんまり仕事部屋を使ってないから、下ろしてきたんだよ」おばあちゃんがなんの仕事をしていたのか、そういえば聞いたことがなくて、訊いてみようかと思ったけれど、いまはそれよりも目の前の絵のかたが気になりました。「どうすれば、こんな絵を描けるの」それは疑問ではありませんでした。後から知ったのですが、この時の私の溜息と一緒に出た咳きはこう呼ばれるそうです。感嘆。「おばあちゃんには、凄い才能を持った友達がいるのね」才能、まさしくそうだとおまいました。なぜなら私には、これからどれだけ練習したとしても、決してこんな素晴らしい絵を描ける自分を想像出来なかったからです。お姫様になった自分や、社長になった自分は想像出来るのにです。この魔法のような絵はきっと、特別な手を持った人にし描けないのだた思いました。確信しました。156(9:49)たのに、おばあちゃんはゆっくりと首を横に振ったのです。「才能、だけじゃない。これを描いた彼と、同じくらいの才能を持った人はたくさんじゃないけれど、他にもいるの」「そう」私には信じられませんでした。こんな絵を描ける人が、この世界に何人もいるなんて。それは、この世界に魔法使いが何人もいると言われるよりもずっとびっくりすることでした。「思ったよりもいるんだよ、才能がある人っていうのはね。でも、才能があるだけじゃ、こんなに素敵な絵は描けない」「じゃあ、何?努力?」「それも必要、だけど、もっと大事なことがあるの。おばあちゃんはね、この絵を描いた彼よりも、絵を描くことが好きな人を見たことがない。なっちゃんよりずっと長く生きてて、たくさんの人を会っても、あの人よりずっと絵のことを考える人には、会ったことがないの」157(11:34)「好きっていう気持ちが、こんな素晴らしな絵を作るの?」「ああ、大好きなことに、一生懸命になれる人だけが、本当に素敵なものを作れるんだよ」私は、ちゃんと思いで汗ないけれど、だから南さんのお話を読んだ私はあんなに感動したのね、と思いました。そして誰かさんに聞かせてあげたいわも思いました。「好きで、才能もあるのに、すいなことを恥ずかしがってるようじゃ駄目よね」「友達に、そういう子がいるのかい?」「友達じゃないわ。だけど、その子も絵を描くの、ただ、それをとても恥ずかしがっているよ。ねえ、おばちゃん、この絵を描いた人は今、どうしているの?」「家族と一緒に外国で暮らしているわ」「そうなんだ、私ね、もしかしたらこの絵をを描いた人は、おばあちゃんの愛人なのかも知れないと思ったの」私は絵から目を離すことが出来ませんでした、だからおばあちゃんがどんな顔をしているのかはわからなかったけど、返ってきたおばあちゃんの声は私とのお話を楽しんでくれれいるというのがよくわかりました。「どうして?」「だって、ここに、ラブって描いてあるわ」158(13:20)私は絵の右下、端っこを指さします。英語の読めない私にだって、それくらいはわかります。そこには確かに、英語でラブと、「あれ?」「うふふふっ、なっちゃん、それは、ラブじゃないんだ。らぶはエル、オー、ブイ、イー。それはエル、アイ、ブイ、イー。リブって読むんだよ。生きるって、意味だ」絵の間近まで寄ってみると、おばあちゃんの言う通りそこにはLIVEと書かれていました。そして、意味はわかりませんが、その後に、エム、イー、とも。「リブ、何?」「リブ、ミー、ミーは私をって意味。だから、私を生かしてって意味になる。文法は間違ってるけどね。それは作者のサインなんだよ。そういうジョックさ」英語のことがわからない私にはそのジョックが分からず、ただ首を傾げるしかありませんでした。「やっぱり人生はダイエットみたいなものね」「努力が結果に出る」「うん、ムチムチじゃちゃんと楽しめないのよ。ファッションも、ジョックも」「なるほど、無知無知」159(15:30)「そ、もっと、賢くならなきゃ」「なれるよ、なっちゃんなら。さて、じゃあ、お勉強と同じくらい大切なことをしましょうか。なっちゃんにお仕事を頼んでもいい?「お仕事?、なあに?」私が訊くとおばあちゃんはいたずらっこみたいに笑い、もったいぶって、それを私の顔の前に持ちあげました。それが何に使う道具なのか知っている私の顔は喜び色に塗られていたと思います。「氷を削るお仕事。夏に食べるかき氷は、算数の宿題くらい大事、じゃない」「その通りね」おばあちゃんはさっきまで、2階に閉まっていたかき氷機を捜していたのでした。どうりで、いくら一階を捜しても見つからないはずです。素敵な絵の匂いを鼻の奥に残しながら、私達は涼しい居間に移動してそこでがかき氷を作ることにしました。おばあちゃんの家にある大きな冷蔵庫の下の段から四角い氷をでして、それを私が一生懸命に削ります。おばあちゃんはシロップを用意して、尻尾の短い彼女はかき氷を見るのが初めてなのでしょうか、楽しそうに私の周りをぐるぐると回って、途中で目を回してぼてっと尻もちをついていました。160(17:14)たっぷり出来た雪みたいな細かい氷に、私は真っ赤なシロップをかけました。かき氷はどの味も好きだけど、今日はいごの気分。おばあちゃんもそう見たいで、私とおばあちゃんは二人でベロを真っ赤にしました。金色の瞳の彼女はと言うと、せっかくシロップをかけてあげたのにどうやら何もかけてない部分の方がお気に召した見たいで、それなら氷でいいじゃない、と四角い氷をお皿に乗せてあげるとそれを夢中で舐め続けていました。もしかしたら彼女のことだから、ペロに色がつくことをはしたないと思っているのかもしれません。かき氷を食べながら、私は最近あったことを全ておばあちゃんに話しました。アバズレさんに言われたことも。私は、もしかしたらおばあちゃんなら答えをくれるかも知れないと思いました。でも、おばあちゃんも、あばずれさんと同じことを言いました。「んー、そうだね、やっぱりそれはなっちゃんが自分で考えなきゃいけないかな」「うん、わかってるわ、だから、おばあちゃんからヒントを貰いに来たのよ」「ヒントから」おばちゃんはかき氷の後、お服を壊さないように入れたお茶を飲みながら考えてくれました。私も、おばあちゃんからどんなへんとを貰えばいいか、何も考えてなさそうに日陰で眠っている彼女の横で考えます。161(19:07)先に考えついた

「また、同じ夢を見ていた」住野よる ,ページ 133−150(第6)
133数日間、学校に来なかった桐生くんのせいでペアがいなくなった私は、幸せとは何かの時間、ひとみ先生とペアを組みました。それは私にとって全然嫌なことではなく、むしろ楽しいことだったのですが、やっぱり私は桐生くんを取り巻く噂の正体が気になって仕方がありませんでした。なぜなら、もしああの噂が本当だとしたら、私はその場所を見たのかもしれないからです。それに、もう一度言いますが、私にはあの優しそうな桐生くんのお父さんさんがそんな悪いことをする人には見えませんでした。久しぶりに桐生くんが学校に来たのは、あの日から、週末を挟んで六ひ目のことでした。私がいつものように、ひとみ先生が来るぎりぎりの時間に図書室からクラスにとことこと移動していると、桐生くんが下の階段からのぼってくるのが見えました。「おはよう、桐生くん」桐生くんが私と同じ高さのところまで来るのを持ってから声をかけると、彼は私に気がついていなかったのでしょう、本当にその場で跳び上がるほどびくっと肩を震わせて、大きな目でこちらを見えした。「こ、こ、小柳さん」「久しぶり。バカンスにでも行っていたの?」そうならいい。私はそう思っていたのですが、桐生くんは俯いて何も答えませんでした。「気持ちは分かるわ」「。。。。」134「日本は暑いものね。私ももっと涼しいところに行きたい」桐生くんは少しだけ顔を上げて私の顔を見ましたが、やっぱり何も言いませんでした。私が教室に入ると、いつもの通り誰も何も言わなかったしこっちを見ることもしませんでした。でも、私の後ろから桐生くんが入ってくると、皆が自分達の話を止め、桐生くんを見たのです。皆の視線は、こんな季節なあのに冷たい風のように感じられました。このままだと弱っちい桐生くんは凍えしまうんじゃにかしら。心配でしたが、そうならなかったのは、すぐにひとみ先生が教室に入ってきたからです。さすがはひとみ先生。先生が大きな声で挨拶をしながら入ってきて、皆がそっちを見た隙に私達は自分の席に座りました。私は、ひとみ先生から桐生くんがどうして長く休んでいたのか、説明があるのだと思っていました。でもそんな話はなく、ひとみ先生はまるで桐生くんは一日も休んでいないのよ?という顔で朝の会をして、教室を出ていってしまいました。「ひとみ先生!」私は教室を出ていく先生の後を走って追いかけました。先生の名前を呼ぶと、先生はさっきの桐生くんみたいにはびっくりしませんでした。もしかしたら私が追いかけてくることを分かっていたのかもしれません。そして、私が質問したいことも。振り向いた先生は笑っていたけれど、私はその顔の奥に、大人が嫌な話をする時の真面目な顔を見たのです。135「どうしたの?小柳さん。次の算数の宿題の見直しは大丈夫?」「ええ、完璧よ。ねえ先生、教えてほしことがあるの」「何?」「桐生くんのことよ」言うと、ひとみせんせいは笑顔のまま自分の唇をむぎゅっと噛むで、わたhしを誰も使っていない端っこの教室の前へと連れて行きました。内緒の話は、嫌いじゃありません。ひとみ先生は、じゃがみ込んで私の身長に体を合わせ、いつもとはまるで違う少しな声で囁きました。これまで何も教えてくれなかったひとみ先生が、やっと何かを教えてくれることになったのです。私は、一生懸命を傾けます。「小柳さんは、学校に行きたくないって思ったことある?」「そんなの、毎日よ。だけれど、賢くなるために来ているの。ひとみせいいにも会えるし」私が正直に答えると、ひとみ先生は難しそうに笑いました。「そう、じゃあ、一番来たくない日は、例えば夏休みの後とか、月曜日だったりとか、しない?」136誰かに、週末や夏休みが終わった後、何度も魔法が使えればいいのにと願っているので、私はひとみ繊維に対して頷きました。すると先生も頷いてくれました。「そうでしょ、そういう時に学校に来るのは、凄く勇気と、心の力がいるの」「それに、甘いお菓子もね」「ねえ、そう。だから桐生くんは大切な用事があって学校を休んでいたんだけれど、今日久しぶりに学校に来たのは、凄く勇気と心の力がいることだったの。分かる?」「分かるわ」あのいくじなしの桐生くんなら、なおさらでしょう。私が頷くと、ひとみ先生は嬉しそうに微笑みました。「甘いお菓子は、先生が用意してあげられるかもしれない。でもね、桐生くんがこれからも今日の勇気と心の力を持っていられるためには、教室に味方がいるの。小柳さんには、桐生くんの味方でいてあげてほしいの」「私、桐生くんの敵になったことなんでないわ」「ええ、そうよね。だったら、そのままでいてあげればいい。いつもみたいに話しかけて、いつも見たいに隣に座って、いつも見たいに一緒に給食を食べればいい。出来る?」「出来るわよ。、それくらい。桐生くん、頷に角が生えたわけじゃないもの」137先生はくすりと笑いました。その顔は、私があの授業参観で発表した時の顔にすごくよく似ていました。「うん、小柳さんにお願いで来てよかった。もし、小柳さんが味方でいてあげても、桐生くんが幸そうだなって思ったら、先生にこっそり知らせて、桐生くんは、自分からは言いだせないかもしれないから」「いくじなしだものね」「そんなことない。今日来ることは、勇気のある子じゃないと出来ない」桐生くんに勇気がある。ひとみ先生が言った中でそのことにだけは納得がいきませんでしたが、私は頷いて、その場はひとみ先生と別れました。桐生くんの大切な用事というのはなんだったのだろう。私はそれを考えながら教室に帰りました。後で桐生くんに訊いてみることにします。ひとみせんせいはいつも通りに話しかけていいと言ったのだから、別にいいでしょう。教室に入ると、教室内ではやっぱり桐生くんの周りには冷ややかな空気が流れているようでした。私はその空気を割り開くように、俯いた桐生くんに近づきます。「失礼するわ」そう行って私は桐生くんの垂れた全髪を勝手にかきあげました。桐生くんはとてもびくりしたようでしたが、私はきちんと断りは入れたので、しっかりと彼のおでことを見ます。138「ひとみ先生があんまり真面目そうな顔をするから本当に角が生えたのかもと思ったのよ。生えてないならいいわ。突然ごめんさい」きちんと説明したのに、桐生くんはびっくりと不思議の混ざった目をやめませんでした。その顔はやっぱり、いつもの勇気のない桐生くんのままでした。私は、桐生くんの大切な用事について、帰る時に訊いてみることに決めました。私はいつも帰る時は一人だし、桐生くんも帰る時はいつも一人だからです。その時に少しだけ呼ぶとめて話を開けばいい。そう、つまり、ままならない。「おい、お前のお父ちゃん、泥棒したんだろ」「それは昼休みのことでした。給食の時間が終わってひとみ先生がいなくなり、クラス内が騒がしくなると、校庭に遊びに行く子達や、音楽室にピアノを弾きに行く子達とは別に、数人が桐生くんのところへと寄ってきたのです。その数人とは、あの馬鹿な男子達でした。(139)私は、飛んでくる泥水は自分の手で振り払う女の子です。だけれど、その時はまだ、ひとまず成り行きを見守ることにしました。桐生くんのお父さんの噂、本当でも嘘でも、きっとこれから桐生くんは嫌なことを言われると言う子はわかっていました。でももし、桐生くんに勇気があるなら、自分できちんと言い返せるだろうと考えたのです。だから、桐生くんの答えを聞くために、喧嘩するのを待ったのです。なのに、桐生くんはいつも通り俯くだけで何も答えませんでした。それはいけない。私は思いました。馬鹿というのは、相手が言い返さないと知ると、自分の方が強いと勘違いしてしまうくらい馬鹿なのですから。「うちのおかちゃんが言ってだぞ、桐生んとこのお父ちゃんが2丁目のスーパーで泥棒し警察に捕まったって」私は、桐生くんの横顔を見ながら考えました。やっぱり、噂では私が見たあれが、桐生くんのお父さんってことになってるんnだって。でも、まだ真実かはわかりません。桐生くんは何も言わず、誰の方も見ずに俯いていました。それが馬鹿にh機に入らなかったのかもしらません。「やっぱ、変な絵描いてるような奴の父ちゃんは悪い奴なんだな」140「。。。」「そういや、この前高橋の定規がなくなったの、お前のせいじゃねえのか」「。。。」「泥棒の子どもは泥棒なんだな、やっぱり。桐生のことみたいな家族に生まれなくでよかったぜ」ああ、持ってあげられなくてごめんなさい桐生くん、なんて、私は全て思いませんでした。「やっぱり、なんて馬鹿なのかしら」馬鹿な男子達の目が、いっせいに私に集まりました。「あれ?私、誰のことを馬鹿って呼んだのかいったかしら?自分達でわかっているのね」「ああ?」男子達、特に先頭の馬鹿が私のことを睨みつけます。ちっとも。怖くありません。そんなことよりも私は、桐生くんに対する一つの気持ちが大きくて、そっちが気になって、だから男子達への悪口は八つ当たりみたいなものでした。本当は大声で桐生くんに対して言いたかったのです。141この、いくじなしっ「泥棒の子どもが泥棒?なんの根拠もないわね。もしかしてあなたは泥棒っていうのを生き物の名前か何かだって思っているの?もしあなたのその考えを使うのなら、あんたのお父さんもあんたと同じで馬鹿だってことになるわね。だけど馬鹿じゃないわ。あなたみたいな馬鹿をちゃんと育てたんだもの。じゃあきっとあなたが勝手に馬鹿になったのね。こーんな馬鹿な子どもおを持って、お父さんとお母さんがかわいそう」男の子の顔はどんどんと真赤になっていきました。怒っているのです。反応まで馬鹿。だけど、まだその反応の方が、大切なものや大切な人の悪口を言われても怒れない桐生くんよりはマシだと思いました。私が桐生くんに対してそれを言わなかったのは、ひとみ先生と約束が私の口を止めたからです。馬鹿な男子達は、今にも何かを私に投げつけ的そうな様子でした。でも、私は彼らと違ってかしこいから、投げる言葉にまだまだだ手持ちがあります。「大体、桐生くんのお父さんが泥棒をしたって、ただの噂でしょ。噂をなんの考えもなく信じちゃうなんて、やっぱり馬鹿ね」「見たって奴が」「あんたがその目で見たんじゃないわよね。じゃあ、その人が見違えたのかもしれないわ、勘違いをしたのかもしれないわ」142「お前には関係ねえだろ」「あら、あなただって関係ないでしょ?それに、もし本当だったとしても」私があり余る言葉を口から溢れさせていた、その時でした。「やめてよ!」大きな声が、教室の中に響きました。私は、その大きな声を出したのが誰なのか、最初わかりませんでした。私の声じゃない。馬鹿な男子の声でもない。聞いたことのない、声。それが桐生くんのものだと気がついた頃、私と男子の間に座っていた桐生くんが、どうしてか、自分を攻撃する男子達ではなく、悲しそうな目で、私の方を見ていることにも気がつきました。つまりそう、桐生くんは、私に「やめてよ」と言ったのです。私がどうして桐生くんがそんなことを言うのかわからずにいると、桐生くんはその場で乱暴に立ち上がりました。椅子が倒れて、耳を塞ぎたくなる音が響きます。そして桐生くんは椅子の音が鳴り止まないうちに何も言わずに教室を出て行ってしまったのです。その後は私だけじゃなく、クラスの中の誰もが黙ってしまっていました。きっと、黒板や机や椅子も、黙ってしまっていました。それくらい、クラスの中は静かになりました。143昼休みが終わって、5時間目が来ても、桐生くんは教室に帰っては来ませんでした。帰りの絵が終わっても、桐生くんは帰ってきませんでした。私はひとみ先生に呼ばれ、昼休みにあったことを正直に話しました。私は桐生くんの代わりに喧嘩をしたのに、桐生くんが出ていく時に睨みつけていたのは私だったことも、正直に話しました。どうすればいいのかひとみ先生に相談すると、先生にこれから桐生くんと話してみるから、それからまた考えましょうと言って、私は帰されてしまいました。次の日、学校に行っても、桐生くんはいませんでした。その次の日も、次の日も。ある日、ま

「また、同じ夢を見ていた」住野よる ,ページ 118−133(第6)
第6もうなく本格的な夏が来る。そんな中、気温はどんどんと高くなって、私はアバスレさんと一緒に扇風機の風を浴びながら、アイスを食べていました。「不思議よね、扇風機の冷たい風を当てると、いつもより早くアイスが浴びける」「風が吹くとね、アイスにあったかい空気がどんどん送られるんだ」119「こんなに涼しい風なのに?」「お嬢ちゃんにとってはね。でも、アイスよりはあったかいだろう?」私はまぶたからめの玉が落ちてしまうんじゃん愛かと思くり感心しました。やっぱり、アブズレさんは私よりずっとずっとかしこいです。だけど、そんなアブズレさんでも、南さんがいなくなった秘密については、何もわからないようでした。だから南さんのことは、本当に不思議なことなのだと思いました。「人生とは、スイカみたいなものよね」「どういう意味だい」「ほとんどの部分は噛んで飲み込めるのに、食べてると口の中にちょっとだけ飲み込めない部分が残るの」「あはは、そうだね。だけど飲み込めなくてもどこかに埋めたら芽が出てくるかもしれない」「素敵」「ねえ、お嬢ちゃん、お服はいっぱい?」「全然、夏になったら食欲がなくなるってひとみ先生が言ってたけれど、それも不思議の一つだわ。私、暑い方がエネルギーを使うからたくさん食べなきゃって思うの」120「じゃあお嬢ちゃんに使いを頼む。スーパーでスイカの切った奴を買ってきてくれる?」「行ってくるわ!」私は振り切ってアブズレさんからお金を預かり、脱いでいた黄色い靴下を履きました。アバズレさんは、お仕事の化粧をするためにおうちで留守番です。アイスもだけれど、スイカも私の大好物。私は友達のアブズレさんが私と同じものを好きなことをとても嬉しく思いました。「もしかすると、幽霊だったりして」私が太陽の下に出る前に麦茶で体の中の水を増やしていると、アブズレさんが顔にクリームをつけながら言いました。「なんの話?」「南さんのことさ」幽霊、それは考えてもみなかった南さんの正体でした。私は南さんの顔を思い出してみます。「だけど、南さんは透けていなかったわ。足もあったし。どうちらかというと、幽霊というよりは、トトロの方がぴったりかも」121「あはは、そうか。じゃあ。お嬢ちゃんが子どもの間にきっとまた会えるね」誰かにそうかもしれないと、思いました。私は、南さんとまた会える日のことを本当に楽しみにしています。「行ってきまーす!」靴を履いて、ポケットにお金を入れて、外の日陰でごろごろしていた小さな友達と一緒に近くのスーパーに行くことにしました。外はとても暑くて、太陽さんだけじゃなく地面も壁も熱い空気を出しているのだから、私は麦茶の飲んできていおいてよカッタと思いました。あの麦茶がなかったら、スーパーに着くまでにちゅちゃいミイラになってしまっていたでしょう。夏に似合わない黒い毛皮を着た彼女は、日陰を深してそこを歩いていました。彼女は4本の足に、靴も何も履いていないのだから当然だと思います。仕方なく、日陰が当然ないところでは私が彼女を持ちあげて運んであげました。連ばれている途中、彼女はずっと「ナーナー」と歌っていました。私も、それに合わせて歌います。「しっあわせはー、あーるいーてこーない」「ナーナー」大きなスーパーの前に着くと、たくさんの人達が自動ドアから出たり入ったりしていて、私はまるで、スーパーがスイカを食べて種を吐いているみたいだと思いました。自動ドアの前に立つと、中からの冷たい風がスーパーの吐息みたいで、私はその心地よさにしばらくじっと立ち止まってしまい、少し人の邪魔になってしまいました。122「じゃあ、ここで持っててね」「ナー」彼女を座らせておくのにちょうどいい日陰には先的がいました。彼女よりも何度も体の大きな金色の犬が、首輪をつけられて座っていたのです。彼女は、彼を怖がることもなく隣にちょこんと座りました。彼女の存在に気がついた彼女を見て、彼女も彼も見て二人はしばらく見つめ合いました。あら、もしかして窓が始まったのかしら。悪女である彼女が真面目そうな彼を幸せにできるのか心配になりながら、私は二人の間を邪魔してはいけないと静かにスーパーの中に入ることにしました。スーパーに入るにあたって、まず私はいつものように警備員さんに挨拶をします。物語の門番見たいに扉の傍で構える警備員さんは、私の挨拶に敬礼で返してくれました。前は彼らのことを出張に来ている警察官なのだと思っていましたが、そうではなくのスーパーを専門で守る正義の味方だということを以前に魔法使いのように歳をとった警備員さんに教えてもらいました。123スーパーの中に入ると、私の小さな鼻にたくさんの匂いが同時に届きます。私は大きなスーパーがとても好きです。何度来ても、ここには見たことのないものや、食べたことのないものがたくさんあって、その中は私の大好きなもの埋まっています。図書室で素敵な本を探すのと、とても似た嬉しさを私は感じます。スイカは、すぐに見つかりました。丸い切っていないものと、三角の切ってあるものがあって、私はアバズレさんと二人分、切ってあるものをスーパーのかごの中に入れました。スイカが並べてある棚には、他に四角いスイカが売っていて、私は生まれて初めて見たそれにびっくりしました。それは買うのに必要なお金も丸いスイカに比べずっと多くて、やっぱりスイカも皆と違う方が価値があるのね、と納得しました。お目当てのスイカは見つかったけれど、私はスーパーの中を見て回ることにしました。友達の恋路の邪魔をしたくなかったのと、まだもう少し涼しい場所にいたカッタからです。魚を見て、野菜を見て、いつかはおばあちゃんのようになりたいと思ってお菓子の材料コーナーに置いてあったレシピのカードを順番に見ていると、突然、後ろから声をかけられました。「小柳さん」私はその知的な声に振り向きます。その時の私の顔は、今日の太陽のようになっていたことでしょう。124「あら、荻原くん。お買いもの」「私はスイカを書いた来たの、暑いもの」「うん、誰かにあついね。星の王子さま見たいに、どこか涼しい星に行きたいな」私は、さすがは荻原くんだと思いました。クラスで「星の王子さま」と読んでいるのなんて、私と荻原くんは以外にはいないでしょう。私は荻原くんと話すのは、少し前に私がバオバプの木について教えてあげて以来でした。学校では、荻原くんは大体いつも誰かと喋っているので、この機会に荻原くんの喋れるというのは私にとってとても嬉しいことでした。もう「しろい象の伝説」を読み終わっていた荻原くんと、私は物語についてしばらく話をしました。5分?十分?私はついアバズレさんの使いで来ていることを忘れてしまっていました。手元のスイカを見て本当の目的を思い出した私は、もの凄く名残惜しかったのですが、大好きなアブズレさんを待たせるわけにはいかないので、荻原くんとお別れすることにしました。私は荻原くんは友達ではありません。喋るのは時々だし、一緒にお弁当を食べたことも、一緒にお菓子を食べたこともない。それに荻原くんは私にだけ話かけるのではなく、クラスの誰にでもあんな感じなのです。もちろん桐生くんにも、だけれど、私は、なぜだか荻原くんと話しすることが、アバズレさんや南さんとお話をするくらい楽しみなのです。きっと荻原くんだけがクラスで私と同じくらい賢いからだと思います。125ぬるくなってしまったスイカを別のスイカと取り替えて、私はやっとレジに並びました。少し並んでからレジのお姉さんにスイカを渡し、お金を払うと、「お使い違いね」と言われました。別に全然違くなかったので「ありがとう、だけどそうでもないわ」と返してました。白いレジ袋を貰ってそれにスイカを詰め、さあてアバズレさんのおうちに帰ろう。そう思った時でした。私は飛び上がりました。突然聞こえた、大きな声にびっくりしてしまったのです。信じられません。まるで、前に読んだミステリー小説の中のような出来事が起こったのです。それはスーパーの出入り口の方でした。激しく大きな声が聞こえました。びっくりしてそちらに目をやると、警備員さん二人が、誰かを押さえ付けているのが見えました。その近くには、自分の顔を、まるで傷口を隠すみたいに押さえる他の警備員さん。大きな声は、床の三人が出していました。126「動くな!」「警備員さんの一人がそう呼ぶと、顔を地面に押し付けられた誰かが意味のわからない呼び声をすpーパーの中に響かせました。私は、何かはわからないけど、誰かを傷つけようとしているようなその声に、その場から動くことが出来なくなりました。何が起こっているの?全くわかrなくて、でもとても不安で、精一杯、私のちっちゃい頭で考えていると、私と一緒で立ち尽くしていた大人達が、「万引きかしら」と話していました。万引き、それが何かを私は知っています。泥棒です。あの人、泥棒をしたのが見つかったから捕まえられているのか。私は納得しました。納得はしたけれど、やっぱりしばらく動くことが出来ませんでした。私が動けるようになったのは、入り口の所でパシャパシャと携帯電話で写真を撮っていた人達が警備員さん達に注意を受けている頃でした。私はまだ携帯電話は持っていません。持っていたとしても、悪い人の写真なんて欲しくありません。顔は見えなかったけど、きっと怖い顔をしているに違いありません。スーパーの出入り口から、泥棒をした人どこかに連れて行かれ、スーパーの中は、まだザワザワとしていました。127人がで入り口から段々アリみたいに散っていて、私はその隙を見て外に出ることにしました。1秒でも早く、この怖いことがあった場所から脱げ出したかったのです。出る時、ちらりとみると、さっき戦にが起こっていたあたりに赤い点々が落ちていました。私はすぐに目を逸らして外に呼び出し、暑い空気の中で思いっきり深呼吸をしました。私は心に隙間を作るのに死でした。暑い空気は、心まで冷えていた私の休にちょうどよく住みこんでくれました。「ナー」下を見ると、小さな友達が一人で恨めしそうにこっちを見ていました。彼女といい関係になったはずの金色の犬は、もういません。「何よその目は。忘れてたわけじゃないわ。色々と大変だったのよ。さ、アバズレさんの所に戻りましょう」不満気な彼女を連れ、わたhしは出来る限りさっきの出来事を思い出さないようにしました。歌ったり、意味もなく彼女を運んだり、彼女にあの犬について訊いてみたりしました。だけど、私の心はずっともやもやとしたままでした。この気持ちは、ずっと前に家でお父さんとお母さんが大声で喧嘩をしていた時に感じたものと似ていました。私は、間違った事をする人を注意する勇気と正しい心を持っています。128あの誰かあが私の目の前で泥棒をしたのなら、きっと私は注意をしたでしょう。なのに、間違った事をした人が捕まえられるのを見ただけなのに、今こんなにももやもやとしているのはなぜ、なのか。私にはわかりませんでした。大変なものを見てしまった。そんな気持ちがあるのです。アバズレさんの家に着いてからもそのもやもやは続き、アバズレさんがスイカを冷やしてくれている間、私はそのもやもやについて訊くべきだったのかもしれません。だけど、私はあの時のお話をしたくありませんでした。言葉にして、あの光景や音を心の水面に浮かび上がらせたくありませんでした。だから、楽しかった話だけをすることにしました。「スーパーでクラスの子に会ったの。ちょっとお話ししたわ」「あ、お嬢ちゃんクラスで友達出来たんだ。よかったね。友達がいないって聞いて心配してた」「友達じゃないわ。大切なお話もしないし、持ち合わせをして選んだりもしないもの。それに友達ならアブズレさんや、あの子や、南さん、おばあちゃんもいるわ」「クラスの子達のことも友達って呼べばいいのに。私や、南さんや、おばあちゃんと呼ぶみたいに。そうしないのは、なんで?」「そんなの簡単。心と心の距離時るからよ」129アバズレさんは何かを言いかけた見たいに口を開きましたが、結局「そっか」と言って薄く笑っただけでした。でも、そ

「また、同じ夢を見ていた」住野よる ,ページ 108ー118(第5)
108給食が終わって、昼休み。掃除の時間の後、いつもなら馬鹿な男子達の騒がしい声が響くだけの教室には、通段はいない大人達がまるでちっちゃい鳥みたいな声を出していました。今日は、授業参観の日、特別なイベントの日だと分かってはいましたが、実際に来てみると、その居心地の悪さは私が思っていたよりも上の上で、私はとりあえず授業が始まるまでの時間、どうしていいか分からず、机に突っ伏していました。すると、私の体調が悪いと思ったのか、珍しく桐生くんが声をかけてきました。「こ、小柳さん、大丈夫?」「ええ、大丈夫よ。お気遣いありがとう」「小柳さんは、お父さんとお母さん、どっちが来てるの?」まったく、桐生くんたちたまに自分から口を開いたかと思えば、ろくなことを言いません。109「どっちも来てないわ。仕事が忙しくいの」「そ、そうなんだ」「桐生くんのところは、あのお父さんが来てるの?」「ううん、お父さんは仕事だから、お母さんが来てるんだ。あの日、堤防であった時はお父さんが休みだったんだよ」桐生くんがいつもよりもよく喋るのは、お母さんが来てくれるのが嬉しいからでしょうか。私は素直に、いいなと思いました。悔しくてお話を続けるのが嫌だったから、私は桐生くんに、桐生くんお父さんは公園と関係のあるお仕事をしているの?とは、気になったけど訊きませんでした。いよいよ授業が始まって、ひとみ先生が私達に挨拶をさせました。クラスの挨拶はいつもより少しだけ大きく、私以外の皆がお母さんやお父さんの前で振り切っているのが見え見えでした。ひとみ先生が「皆いつもより元気ね」と言ったので、私はやっぱりひとみ先生は的外れだわと思いました。今日の授業は、これまで考えてきた「幸せとは何か」の答えについて、途中までの考えを発表しあうものでした。クラスの一番前に座っている子から順番に立って、考えを発表していきます。110(2:58)私と桐生くんは、並んで後ろの方に座っているので、発表の順番も後ろの方。後ろに座っているから、たくさんの大人達がさえずりあうのがよく聞こえて、私はひとみ先生はどうして注意しないのかしらと思いました。私は、ひょっとしてもしかすると誰かの答えの中に私の幸せのヒントがあるかもしれないと思って、黙って発表を聞いていました。でも、そんなことはありませんでした。皆、おやつのことや、遊びのことなど、私が今までに思いついたけれども捨ててきたアイデアばかりを並べたてたのです。そんな中、一人だけ、ほんのことを言っていた荻原くんはさすがと思いました。段々と段々と、私の番が近づいてきて、ついに横の桐生くんの番になりました。桐生くんは絵のことを言うかしら、そう少しばかりの期待を向けていた私は馬鹿みたいでした。桐生くんは、おっかなびっくりその場で立ち上がり、快適た作文を持ちあげ、三つ前の子が言ったつまらないことと同じことを言ったのです。「いくじなしっ」座った桐生くんに私の声が届いたかは知りません。でも、彼は相変わらず何も言い返しませんでした。それで、私の番がやってきました。111私はゆっくりその場で立ち上がります。宿題でこの日の発表のためにきなさいと先生に渡された作文用紙。それを、読み間違わないようにしっかりと見ます。私の作文、その一文目には、そう、書かれています。別に、お母さんもお父さんも着ないから宿題をさぼったのではありません。私は、私の小さい頭でいっぱいいっぱい考えました。南さんがでした答えの意味を考えたり、南さんが泣いていたことをお見い出したりしました。でも、それでも私にはまだ私の心にすっぽりとはまりこむ形の答えが見つからなかったのです。嘘をつくのはいけないことです。だから私は、考えて考えてこういう発表を選んだのです。ひとみ先生の笑顔を見て、俯く桐生くんを見て、こちらを向く荻原くんを見て、私は作文を胸の高さまで上げて、読み上げます。読み上げ、ようとしたその時でした。誰か廊下を走る音が聞こえてきました。パタパタパタ。それは私達の履く上履きの足音ではありません。まったく、大人になると廊下を走っちゃいけないっていうことも忘れてしまうのかしら。私はそのパタパタを無視して、さっさと読み上げてしまうことにしました。112(6:41) でも、それは出来ませんでした。パタパタは私達の教室の前で止まり、あまつさえ教室の後ろドアを開けたのです。もう、誰よ、私の発表の邪魔をするのは。そう思ったのと同時でした。ひとみ先生が、廊下を走ってた悪い大人を注意するなじゃなく、とびっきりの笑顔を作って、こう言ったのです。「ちょうどよかった」何が、ちょうどよかったの?私が首を傾げると、ひとみ先生は教室の後ろに向けていたとびっきりの笑顔を、なぜだか私に向けたのです。私は思わずふり向いてしましました。振り返ってしまいました。そして、ひとみ先生と同じ顔になってしまった私は、こう、作文を読み上げたのです。「私の幸せは、ここに今、お父さんとお母さんがいてくれることです!」私は、アバズレさんと約束を破っていまいました。お父さんとお母さんにかしこい私を見せると言ったのに。私は、ただ、馬鹿な子どもおのようにその時その場で思ったことを言うことしか出来なかったのです。でも、その言葉には一つも嘘はありませんでした。その先を用意してなかったから、私の発表は誰よりも短いものになってしましまた。それなのに、ひとみ先生はとびっきりの笑顔のまま、私に拍手くれました。113「どうしても行きたいって、お父さんと話ししてね、午前中でお仕事切り上げてきちゃったの」その後、私達は久しぶりに家族三人でご飯を食べました。どこかのレストランに行こうと言われたのですが、私はお母さんの料理が食べたいと言いました。私のわがままを、お母さんは笑顔で許してくれました。とっても美味しい大きなコロッケを食べながら、私は、南さんにお礼を言わなくちゃいけないと思い、明日学校が終わったらすぐにあの屋上にちっちゃうな友達と行こうと、心の深い部分で決めました。次の日、学校が終わってから私はすぐに黒色の彼女と持ち合わせて、丘の方へと向かいました。いつもなら誰のところに行くかレストランのメニューを見るよりも迷って決めるのですが、今日は朝から南さんのところに行くと決めていました。丘の下の小さな公園では、いつものように私よりも小さな子ども達が走りまわっていました。いつもなら、お母さんと一緒に公園に来ている子達を羨ましく思ったかもあしれませんが、今日はそんなことはありません。私は、もうお母さ達と私の繋がりを知っているから。114(10:07)右の坂道と左の階段、私は自分で左の階段を選びます。私のおでこが階段をおぼる前から汗をかいているのは、元気一杯のお日様のせいだけではありません。私の頭が、南さんに会える楽しみでいっぱいだからです。一歩一歩階段を登っていく途中、今日は珍しく私達以外の人とすれ違いました。もしかすると、あの建物のもち主かしら。そうだったら私はいつも使わせてもらってるお礼を言わなければなりません。でもヒットしたら勝手に入っていることを怒られるかも、と思って私はスーツ姿のおじさんに「こんにちは」とだけ挨拶をしました。おじさんは不思議そうな顔をしていましたが、優しく「こんにちは」と返してくれました。大人はどうしてか、子どももに挨拶はきちんとするように考える癖に、挨拶をされると変な顔をする人がほとんどなのです。しばらく行くと、いつもの鉄の門がめてきました。普段は開いていることがはとんどですが、たまに誰かがチャックに来るのか、閉じている時もあります。今日は、閉じていました。そして、決めて見る様子がそこに広がっていました。鉄の門の奥には長く続く階段が見えていたははずなのに、今日はその階段が二人の大人の体で隠さわかいいいました。二人の前には、黒と黄色のしましまのテープが張られています。115どういうことかしら?私が、わからないことを素直に大人に訊こうとすると、二人のうちの一人、私のお父さんより年上に見えるおじちゃんが話しかけてきました。「お散歩中ごめんね、お嬢ちゃん。ここから先はいけないんだ」「そうなの?どうして?」「上の方で工事しててね。危ないからここで通行止めにしてるんだよ。」私は首を傾げました。「工事って、なんの?」「上の方に古い建物があってね、崩れると危ないから、もう壊しちゃってるんだ」上に、古い建物は一つしかありません。私は、思わず大きな声を出してしまいました。「だ、駄目よ」大人達は、驚いた顔をしました。「もしかして、お嬢ちゃん達の秘密基地だったのかな?でもね。あそこは本当にもう危ないんだ。遊んでたら、いつか下敷きになっちゃうかもしらない」秘密基地。その言葉は、私と南さんのあの場所の雰囲気にとてもしっくりとくる言葉でした。だから余計に、そんなぴったりの言葉を知ってしまった私は、その場所が壊されてしまうことが残念で仕方がありませんでした。何より、南さんの悲しむ顔を見たくないとそう思いました。116「ねえ、今日ここに高校生の女の人は来なかった?」「高校生?いいや、見てないな。おい、見たか?」おじちゃんが隣の若い男の人に訊くと、彼は首を横に振りました。「持ち合わせをしてたのかい?」「ええ、そう。ねえ。その工事っていうのは、あの建物を持っている人が決めたの?」「ん?ああ、そうだ」「それから、仕方がない。私は思いました。大切にするのも、壊すのも、持っている人が決めることだというのは子どもの私にも分かりました。出来ることなら、大切にしてほしかったけど、あったこともない私の言うことなんて、大人な間にてくれないでしょう。私は、とても、とても残念だったけど、あの建物、そして屋上を、諦めなければならないと知りました。「ねえ、お願いがあるんだけれど」私は優しそうな笑顔のおじゃちゃんに伝言を頼むことにしました。「なんだい?」「南さんという高校生の女の人が来たら、私はあの坂道をのぼった先の大きな家にいるって、伝えてほしいの」117(15:24)「ああ、約束しよう」私とおじちゃんは小指を結びあって約束をし、私は尻尾のちぎれた彼女と一緒に階段を下りて、おばあちゃんの家に行くことにしました。この日、私はおばあちゃんの家でお菓子を食べながら南さんを持ったのですが、帰る時間になっても、南さんは来ませんでした。次のひも次の日も、南さんは来なくて、おばあちゃんに南さんが来たら教えてほしいと言ったけれど、やっぱり私がいない時に、南さんは来ていないようでした。しばらくして、南さんと会っていたあの建物のある広場にいくと、そこには砂利が敷かれた地面以外には何もなくなっていて、私はとても寂しい気持ちを、まるでコーンスープにコーンが1粒も入っていなかった時のように味わいいました。結局、それ以来、南あんと私が会うことはありませんでした。不思議なことがいくつかありました。一つは、同じ町に住んでるはずなのに、南さんとすれ違うどころか、南さんと同じ制服を着た高校生の女の人を一人も見なかったことです。もう一つは、南さんから貰って、大切に机の中に入れておいたはずのあのハンカチがな具なっしまったこと。118どこを捜しても見つからず、私わ残念という言葉では足りないくらい残念な気持ちになりました。そして、最後の一つが一番不思議なことでした。私は南さんが書いていた物語がどんな話だったのか、一つも思い出すことが出来ななかったのです。あんなに惑動したはあずなのそうとしても、あんなに新しい世界を見たはずなのに、その満腹感は覚えているのに、いくら思いそうとしても、お話の内容を全く思い出すことが出来なかったのです。不思議なことは素敵なこと、物語を読んでそれを知っている私でも、南さんとの間に起こった不思議には何度も首を傾げました。それが、南さんと私の別れとなりました。 This is a public episode. 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「また、同じ夢を見ていた」住野よる ,ページ 90ー108
第5(90)家に帰りたくなかった私は、、放課後尻尾のちぎれた彼女だけを迎えに行って、ランドセルのままアバズレさんのとこrに行きました。いつもの川沿い、堤防の上を歩き四角いクリーム色のキーきみたいな建物を目指して歩きました。いつもみたいに私と彼女で歌ったりは、しませんでした。建物階段をのぼって、2階の端っこの部屋、いつものドアの前に立ち、チャイムを押します。部屋の中から聞こえるチャイムの音。中からそれ以外の音はしませんでした。そして、何度押してもアバズレさんが出てくれることはありませんでした。どうやら、今日はお留守のようです。仕方がありません。大人は忙しいのです。私達は来た道を途中まで引き返して、いつもの丘に向かいました。丘に下、桐生くんのお父さんがよくいた公園から左右に分かれるのぼり道、今日は、おばあちゃんの家に続く右の道を選びます。南さんのところへは昨日も行ったから、まずはおばあちゃんのところに行こうと思ったのです。今日の毛艶のいい彼女と私はおでこに汗を滲ませんがら、丘を登って行きます。友達に会ってお話をすれば、少しはこの心が暗れてくれるかもしれない。そう願いながら。だけれど、おばあちゃんの家で私の心がくられることはありませんでした。大きな木の家の大きなドアは、何度ノークしても声を返してくれることはなかったのです。私は溜息をついて、私より小さな友達を見下ろしました。92「大人達は皆、私を掘っておくのね」「ナー」こうなったら、私の知る大人達の中では、一番私に近い、南さんに会いに行くしかありません。丘を下り、今度は左手の階段をのぼっていきます。黒くて小さい彼女はいつも同じように元気に、軽やかにその体を弾ませました。でも、私の体は時間が経つことに、まるで体の中心に鉄のボールを一球ずつ入れられているたいに、重たくなっていくめを感じました。いつもの鉄の門を開け、更に階段をのぼって広場に出ると、冷たく大きな箱が、まるでそこにぽんと置いてあるだけのように今日も建っていました。箱の中に入って屋上まで行くと、南さんは私を持ってくれていました。私は、何も言われずに南さんの隣に座ります。尻尾のない彼女のここでの定位置は、南さんの膝の上です。そこで、私はやっと気がつ来ました。南さんの様子がいつもと違いました。少しだけ失礼して、南さんの前髪をそっと指でずらすと、奥の目は柔らかく閉じられていました。「南さん」93(4:14)声をかけると、南さんはキーきの箱を開ける時くらいそうっと目を開けました。私と片目だけ目が会うと、南さんは「おう」と言ったので、私も「ごきげんよう」と返しました。「ここは、お昼寝にはとてもいい場所みたいね」「。。また、同じ夢を見てた」「同じって、どんな夢?」「子供の頃の夢だ。よく見るんだ。学校は、楽しかったか?」「いいえ、全然」「だろうな。全然楽しそうな顔してねーもん」南さんはこっちを見ていないようでいて、実はその長い前髪の間から私をこっそり見ていてくれてあるようです。私は、私に元気がない話なんて、話題を変えることにしました。好きなことの話をすれば、私の顔も南さんに元気がないと気づかれないくらいには明るく咲いてくれると思ったのです。南さんの手首の傷がどんどん消えていくように、鉄の塊が消えていってくれると思ったのです。「私、考えてみたのよ」「どうして小学校が楽しくないのか、か?最初から楽しいとこじゃねええんだよ」「それはその通りだけど、違うわよ。私は考えたの、南さんの物語、どこか本を出している会社に見せてみるのはどうかしら?」94(5:51)南さんは、珍しくこっちをしっかりと向いて、ギョッとした顔をしました。「なんこと、いきなり何言ってんだよ」「南さんの物語をたくさんの人に読んで貰えない理由は、南さんの大切なノートに書いてあるからだって気がついたの。そのままじゃあ、ここに来ないと読めないじゃない。だったら、その物語を本にして貰えばいいのよ。そしたら、図書室に南さんの本が並ぶし、アブズレさんやおばあちゃんにも紹介できる」「誰だ、そのアバズレってのは」「私の友達よ」「変な友達もってんじゃねよ」「変じゃないわ。とても素敵な人のよ。季節を売るお仕事をしてるの、素敵でしょ?」南さんは口元を不思議そうに歪めて、「お前は変な奴に近寄るのが好きなのかよ」と言ったので、私は「かもね」と南さんの真似をした私の前をした南さんの真似をしました。「南さんのお仕事も素敵よ。南さんの物語を読んだらきっと本を作る会社の人達は南さんを放さないはずよ。そしたら、南さんは毎日物語を書くの。世界中の皆の心にもう一つの世界を作り続けるよのよ。マーク・トウェインやサン・テグジュペリみたいだ」95「あのな、ガキが簡単に言うけど」「そして物語は家でも書けるんだから、家族が出来て、子供もが生まれても、一緒に遊んだり、一緒に旅行したり、授業参観に行ったり出来て、その子を寂しからせることもない」ぽろりとこぼれた私の心の破片。南さんは、優しくそれを溜息で押し流してくれました。「簡単に言うな、ガキ」「ええ、難しいわ。素敵な物語を書くって。だから、素敵なお話を書ける南さんのことをもっと皆に知ってもらいたいの」南さんは、さっきよりもっと大きな溜息を吐きました。そして、怒っているとも、悲しんでいるとも言えるような声で、でもその感情を決して私に向けることなく、言いました。「いいか、私の書く話な素敵でも何でもないんだよ。私なんか、ただ文を書くのが好きなだけだ。世界には、私なんかより才能のあるや奴らがいっぱいいるんだ。それくらい、すぐに気がづく。私なんかに書く話は面白くもなんともない」南さんは、苦い虫を噛みつぶすように言いました。「私なんか、作家にはなれない」私は、子どもなりに南さんの言葉の意味を受け止めました。そして考えて、首を傾げました。96(9:17)南さんの言っていることはおかしいわ」「何がよ」「南さんはもう作家さんでしょ?」今度は南さんが首を傾げる番でしたが、私は南さんが不思議そうにする意味がわかりませんでした。「だって、作家っていう人達は、物語を読んだ人達の心に新しい世界を作るから作家っていうんでしょ?それから、私はまだ作家じゃないけど、南さんはもう作家よ。私の心の中に、それは素敵な世界を作ったもの」もちろん、お仕事というものがお金を稼ぐだめのもので、作家と呼ばれる人達が本を売ってお金をもらっていることは、子供の私も十分にわかっていました。だけれど私は本当に、作家という言葉が授業の名前だとは思っていなかったのです。物語を書いていることと本をうってお金を稼ぐことを、私はまるで関係のない活動だと思っていたのです。私にとって作家さんとは、本を売る人ではなく、物語を紡ぎ、人の心に世界を作る素敵な人達、ただそう思っていて、その中には南さんの名前がしっかりと並んでいました。だから、南さんのいうことはおかしいと思いました。南さんも、それをわかってくれたみたいです。キョトンとした南さんは、何度か息を吸ったり吐いたりをくり返して、それから口元で少しだけ笑いました。97「さっか」「そうよ。だから、もっと皆に読んでもらうために南さんの物語を本にしてもらいましょう」南さんは何も答えませんでした。その代わり、前をめてずっと柔らかい笑顔のままでいました。それで、南さんは私のアイデアを作ってくれるんだわと嬉しい気持ちになって、私もまた南さんと同じ表情になって、正面に拡がる空を見ました。でも、私の嬉しい気持ちは、長くは持ちませんでした。「幸せとは何か」私が正面の空に体を吸い込まれてしまいそうだなと思っていたら、南さんが突然言いました。「幸せとは何か、の答えは出たか?」聞かれて、私は忘れようとしていたことを思いでしてまって、目をコンクリートの床に向けました。「いいのよ、それはもう」「答えが見つかったのか?」98(12:27)「いいえ、でも、もう、いいの」「なんだそりゃ。あーあ、せっかく答えが見つかったのに」南さんの言葉に私は驚きました。そして、もういいと思ったはずだし、いったはずだったのに、南さんが見つけたという答えが気になって仕方なくなりました。「何、教えてほしい」「もういいんじゃないのかよ」「うん、もういいの、だけど、南さんの考えた答えが知りたいわ」南さんは、もったいぶったように私の目をじっと、前髪の奥の目で見て、それからやっぱり大事なことは私の方は見ず、ただ前の空を見ながら、ポツリと床に置くように言いました。「自分がここにいていいって、認めてもらえることだ」南さんの答えに、私は首を傾げます。「ここって、屋上?この物語の持ち主に認めてもらえたの?」「かもね」南さんは、南さんの真似をした私の真似をした南さんの真似をした私の真似をしました。南さんの幸せとは何かの答えの意味、それが私にはまだよくわかりませんでした。やっぱり自分の幸せの答えは、自分で見つけなくちゃいけないんだなと思いっました。99 (14:05)南さんと新しく読み始めた本のお話をしていると、空が歩くなり、風も冷たくなっていつの間にか遠くからチャイムの音が聞こえてきました。「おち、帰る時間だぞ、ガキ」南さんにそう言われても、私はいつものように立ち上がって、四本足の友達に声をかけることはしませんでした。「帰らなくていいのか?」「帰りたくないのよ」「親を心配させんな」「別にいいのよ」私の言葉に、南さんは薬と笑いました。「怒られたのか?」「怒られたんじゃないわ。喧嘩したのよ」南さんは、笑ったままこちらを向きました。面白くもなんともないのに失礼しちゃうわ、と少しだけ思いました。「いいか、ガキ。今から家に帰ると、お前のお母さんはいつもと同じように夜ご飯を用意してくれてる。いつもと同じ、美味しいご飯だそれを食べる時、一言だけ言うんだ。昨日はごめんねって」100「嫌よ」「強情な奴だ」「だって、私よりあっちの方が悪いもの」「喧嘩の理由なんてどうせくだらないもんだろ」南さんの言い方に、私は少しむっとしました。「くだらなくないわ。いっつもいっつも、お父さんもお母さんも、仕事だって言って私との約束を破るの」「仕事はお前が思うよりずっと大事なもんなんだ」「わかってるわよ、そう、子供よりずうっと仕事が大事なの」「何ことないよ」「じゃあ、どうしていっつも私と約束より仕事を優先するの?今回もそう。出張だから、授業参観に来られなくなったって」「え」私が言い終わるのと、南さんが何かを言いかけたのはほぼ同時でした。正面から強い風が一度吐きました。突然の風に、私は目を瞑ってしまいました。101(16:34)やがて風が私の長い髪を弄ぶのをやめ、私はゆっくりとまぶたを開いて、もう一度南さんの方を見ました。だった数秒。風が奪ったのは、たった数秒だったはずです。だから、そんな短い時間で何が起こったのか、すぐにはわかりませんでした。「南、さん」まるで、それは触ったら縮んでしまうオジギソウみたいでした。南さんの顔から、口元から、さっきまでの笑顔が完全に消え去っていました。前触れのない南さんの変化に、私は驚きます。「どうか、したの?」私がきちんと訊いたのに、南さんは、答えてくれませんでした。ただ、無言で首をふるふると横に振るだけ。なんでもない。そう言いたかったのでしょう。でも、それがなんでもなくないことくらい、子どもにでも分かりました。「ねえ、南さん」「おい、奈ノ花」南さんの声は震えていました。震える声で、私の名前を呼びました。南さんから、ガキ、以外の呼ばれ方をされたのは初めてで、私はおかしな感じがしました。どうして名前で呼ばれたのかも、南さんが増えている理由もわかりません。だから、もう一度訊きます。102(18:27)「どうしたの?」「奈ノ花。。。」つ、私と、約束しろ」南さんは、私の質問を無視しました。そしてまたも突然でした。南さんは私を体の正面に迎え、私の肩を掴みました。正面から見る南さんの全髪の奥の目は、今までに見たことがない色をしていました。「や、約束?」「約束。いや、私からの頼みでもいい。

「また、同じ夢を見ていた」住野よる ,ページ 77ー90
第4あの日から数日後、馬鹿な男子達に悪口を言ったり、弱虫な桐生くんを注意したり、荻原くんに宿なしハックの本を進めたりした後、このごろ毎日来ていた南さんのいる屋上で、私は空を見上げて、大変に満足な、まるで大きなハンバーグを食べきってしまったときのよりな満腹の息を吐きました。私がそうしている理由、南さんにはばれているしょうに、南さんはずっと前と見たまま手並みのいい友達の背中を撫でています。私は、この心の奥から行儀悪く溢れ出る気持ちをどう言葉にすればいいか精一杯考えてから、隣に座る南さんの方へと向きました。「人生とは、ヤギさんみたいなものね」「なんだよそりゃ」「素敵な物語を読むと思うの。私、この本を食べて生きていけるかもって」78「んなわけねえだろ」「ええ、でも私、今お腹いっぱいよ。すっごく素敵なお話を読んだから」私はこの興奮で体が爆発してしまわないか心配で、一度深呼吸し、それから息を吐きだすのと一緒にこっちを見てくれない南さんの名前を呼びました。「南さん!凄いわ!こんなお話を書けるなんて!本当に凄い」心から私は南さんへの尊敬を言葉にしました。前に言って私の秘密、私もいつか物語を書きたいと思っている。でも本当はもう一つ秘密があったのです。実は、私は何度か物語を書いてみようとしたことがありました。でも、試しに書いてみると、全然上手くいかなくて、かっこいいトムや宿なしハックのような登場人物をこの世界に生きだすことなんて全然出来なくて、私は凄く落ち込みました。それはもう、おばあちゃんの焼いたマフィンが半分しか喉を通らなくらい。私は、このままやせ細ってしまうんじゃないかとすら思いました。そんな経験のある私には、びっくりしてしまうような展開や、かっこい登場人物達を生み出す南さんは、テレビに出てくるどんな違い人よりも凄い人に思えたのです。私はどうやったらこんな物語が書けるのか教えてほしくて仕方がありませんでした。でも、南さんはどうしてか突然無口になってしまって、何を言っても「あっそ」としか答えてくれませんでした。79「私、このお話を皆にも読んでほしいわ」「やだよ。第一、読んでくれる人なんていない」「もったいないわよ。こんなに素晴らしい物語、たくさんの人に読んでもらわなくちゃ。人生とは昼休みみたいなものよ」「お弁当が美味しいねってか?」「時間が決まっているの、その時間の中で素敵なものに触れなきゃ。私は皆の四十五分でこの南さんのお話を読んでほしいわ」私は本当のことを言ったのに南さんは「お世辞はいいなだよ」と言って、私の手からノートを取り上げました。南さんは相変わらず、ノートを長くは持たせてくれません。本当は家に持って帰ってすぐに読み終わりた買った南さんの物語。屋上に来ないと読めないので、何日もかかってしまいました。私がジュースやアイスで汚してしまうと思っているのでしょうか。私は素敵が好きだから、そんなことはしません。「まあいいわ。私が南さんの一人目のファンね。次のお話もとっても楽しみにしてる」南さんはやっぱりこっちを見ずに手をひらひらと振って、突然空から何かが降ってきた見たいに上を向いて、こんなことを訊いてきました。80(4:52)「そういえば、幸せが何かの答えは見つかったのかよ」私の心にはまだまだだ南さんの物語が足跡を残していたけれど、人の話を無視しちゃいけないのはひとみ先生から習っていたので、私は南さんからの質問にきちんと答えます。「いいえ、色々思いつくことはあるのだけれど、皆をびっくりさせて先生に褒めてもらえるような答えはまだ思いつかないわね。実はあんまり時間がないのよ、今度の授業参観で考えの途中まででもいいから皆の前で発表しなくちゃいけないの」「へえ」南さんは、言葉を私に添わせるように相槌を打ってくれました。その相槌は私の体にすっとしみこんでいくようで、とても心地いい。南さんの膝の上の彼女は、お腹をくすぐられて、やっぱり気持ちよさそうにしています。「もし何か思いついたら考えてね」「簡単に思いつくかよそのあもん。でも、そうだな。最近はこうやってこの子の相手してる時はちょっとだけ、いつもより幸せ」自分が褒められていることが分かるや否や、尻尾の短い彼女は南さんの手を舐めて「ナー」と鳴きました。上目づかいは女の武器だなて、プレイガールのつもりかしら?小さな友人を睨め付けながら、私は南さんが幸せであることがうれししくなりました。81(6:58)私は、私の好きな人達は皆幸せになって、嫌いな人は皆いなくなればいいと思っているから。見ると、南さんの手首のかさぶたは、もう取れていました。私はその場で立ち上がり、青い空に手が届くように思い切り背伸びをしました。今は棚の高いところにあるコップも取れないほどに小さいけれど、いつかは校庭にあるバスケットゴールに手が届くほどにはなってやろうという背伸びです。私が立ち上がるのを見ると、小さいな彼女はこちらを見て名残惜しそうに南さんの膝の上から下りました。南さんはやっぱりこっちを見ません。「じゃあね、南さん。また来るわ。次のお話早く書いてね、楽しみにしてるから」「勝手にしろ」「そうだ!幸せが何かって答え、まだわからないけど、でも私は南さんの物語を読めて幸せだったわ」南さんは、また何も言わないで手をひらひらと振った、と、そう思ったのですが違いました。本当に小さい、子どもである私の声よりもずっと小さな声で言った言葉が、私の耳に風のように届きました。「ありがと」。南さんのいる屋上を気持ちのいい心いっぱいで離れた後、私は久しぶりにアバズレさんの家に向かうことにしました。久しぶり、と言っても何日か言ってなかっただけ。82(8:44)でもその何日かは、私とアブズレさんにとっては、いつもなら会わないはずのない日々なのです。アバズレさんも、やっぱり私と同じことを思ってくれていました。川沿いにあるケーキみたいなクルーム色の建物、そこにつてものようにいてくれたアバズレさんは、コーヒーを飲みんがら私を迎えてくれました。「久しぶりだね、お嬢ちゃん。元気にしてた?」「ええ、落ち込んだこともあったけど、私はとても元気よ」「そうか、お嬢ちゃんがキキでこの子はジジだったのか」「まだ残念ながら魔法は使えないの。だからどっちかっていうとチャーリーとスヌーピーね。女の子と男の子、猫と犬って違いはあるけれど」「いつか使えるようになるさ。ほら、入りな。今日はたまたまケーキと、それからミルクもある」「いただくわ!」アバズレさんの家でケーキを食べながら、私はここ数日どうしてアバズレさんのところに来られなかったのか、お話をしました。それから、南さんについて、アバズレさんに訊こうと思っていたことも、お話ししました。「南さんは頭がおかしくないわ。だって、素敵なお話を書けるんだもの。だけれど、がおかしくないのに、自分の体を切るなんて、不思議なことだと思ってしますわ。アバズレさんには、南さんがどうしてそんなことをするのか、分かる?」83(10:29)アバズレさんはショートケーキの最後のひとかけらを食べながら眉毛と眉毛の間に力を込めました。アバズレさんの眉毛は私のものと違って、シャキーンという音が鳴りそうな綺麗な形をしています。「んー、そういう人はたまに見る。んで、本人から理由も聞くんだ。血が見たいとか、好奇心とか、落ち着くとか」「南さんも落ち着くって言ってた」「うん、それで、お嬢ちゃんは納得出来た?」「全然よ。試しに自分の手首をつねってみたんだけど、ただ痛くて赤くなっただけだったわ」「そうだろう?、結局さ、やってる人にしかわからないんだと思う。でも、わからなくてもいいんだと思う。特にお嬢ちゃんはさ。お嬢ちゃんはその子の傷を見て、自分を傷つけるなんてやめてほしいと思っただろ?」「ええ、友達が痛い思いをするなんて嫌よ」「そうだ。もしお嬢ちゃんが、自分を傷つけて理由がわかったとして、もしそんなことを始めたら、84(11:49)私もやめてほしいって思う。だから、分かる必要なんてないと思う。前も言ったように、プリンの甘いに部分だけを好きでいられるのは、素敵なことだ」「だけど、だけどね。アバズレさん。私は、南さんの気持ちをわかりたい気持ちもあるの」「うん。そうだね」アバズレさんはまるで人み先生見たいに指を一本立てました。「お嬢ちゃん例えば今、私が頭の中で思い浮かべてる数字が分かる?」突然の不思議な質問に、私はじっとアバズレさんの目を見て頭の中を覗けないかと試してみました。でも、私にはまだ魔法は使えないので、アバズレさんの頭の中はいつまで経っても見えませんでした。「は、八?」「外れ。正解は二十四。ほらね。誰も魔法みたいに人の心を分かるなんて出来ないわけだ。だから、人には考えるっていう力がある。お嬢ちゃんはその友達のことを分かりたい。でているのか、そうして、少しずつ知ってあげればいい。分かる?」「ええ、凄くよく分かる」「やっぱり、お嬢ちゃんはかしこい」85(13:30)アバズレさんは私を褒めてくれましたが、違うと思いました。本当に賢いのは、すぐにとてもわかりやすい答えをくれたアバズレさんだと思います。私はアバズレさんのゆっくりとした動きを丁寧に丁寧に見てしまいます。熱いコーヒーをカップから飲む綺麗で賢いアバズレさんはやっぱり、私がなりたい未来の私にぴったりと当てはまりました。それに南さんのように物語が作れて、おばあちゃんのようにお菓子が焼ければ、私は完璧に素敵な大人になってしまうことでしょう。ついでに、魔法も使えるようになれば言うことなし。賢くて素敵なアバズレさんに、やっぱり私は今日もオセロで勝てませんでした。帰り際、アバズレさんが、「授業参観頑張って」と言ったので、「もちろん、かしこいところを見てもらうわ」と約束をしてから私は夕焼けの下、家に帰ることにしました。ミルクを飲んで上機嫌な彼女と川沿いの堤防の上を歩きながら、近くに迫った幸せについての発表会に向けて、夕焼けに相談をしました。もしかしたら、アバズレさんが言っていた、考える力は凄く大きなヒントかもしれません。と、もうすこしで堤防を下りる階段にたどり着くというその時。私は何も気にせず進もうとしていたので、道の前から来る彼の存在に、少しだけ気が付くのが遅れてしまいました。「あら、桐生くん。ごきげんよう」86(15:34)私が声をかけると、荻原くんは、「こ、小柳さん」と言って一緒に歩いていた大人の後ろに隠れました。私が連れていた尻尾の短い彼女も後ろに隠れ、この場所の人見知りの多さが面白くて、私はくすくすと笑ってしまいました。笑いながら、もう一つ嬉ししいことに気がつきました。私は、少し前からずっと気になっていたことの答えを知ることが出来たのです。「こんにちゃ」桐生くんと一緒に歩いていた男の人が優しい声をかけてきました。彼は、私が近頃何度も丘の下の公園で見かけていたその人でした。そう、どうしても思い出せなかった彼は、桐生くんのお父さんだったのです。一度だけ、運動会で見たことがあったのですが、その一回きりだったから思い出せなかったのでしょう。私は、喉に詰まったものが取れたような、とてもいい気持ちになれました。「こんにちゃ!」私は元気に、桐生くんのお父さんに挨拶を返します。まだお父さんの後ろに隠れている桐生くん。まるで私がいじめている見たいだからやめてほしものです。桐生くんのお父さんは、今日はいつも私が見るひどく落ち込んだ顔はしていませんでした。桐生くんのお父さんも、私のように色々あったけれど、今は元気なのでしょう。87(17:11)それは、父もいいことです。私と桐生くんのお父さんはありふれたお話をいくつかしました。「それじゃあ、また今度の授業参観で」そういう挨拶をしてから私お桐生くん親子はお別れをします。桐生くんは、最後に、「じゃ、じゃあね」というまで何も喋りはじませんでした。「あの子、あんなんだけれど、とえても素敵な絵を描くのよ」後から、小さい友達にそう教えてあげると、彼女は半信半疑なのか、首を頷げて、「ナー」と鳴きました。単に

「また、同じ夢を見ていた」住野よる ,ページ 61ー77
次の日から私は、とても難しい選択を迫られることになりました。「人生って、かき氷みたいなものよね。たくさん好きな味があるのに、全てを食べることは出きないの。お腹壊しちゃうもの」私は選ばなければなりませんでした。アバズレさんと、おばあちゃんと、南さ。全員のところに行って遊んでいてはお母さんとの約束の時間を過ぎてしまいます。だから、行ける場所は多くても二つ。それは、イチゴ味とレモン味の中から二つを遊ぶのと同じくらい難しい問題でした。「それでなんで、私のとこに来てんだよ」そう言いながら、むすっとした顔で南さんはペットボトルの麦茶を飲みました。「あら、昨日は勝手にしろって言ったわ」「学校の友達と遊んでろ」「学校に友達なんていないわ」「なんだよ、本当に一人ぼっちかよ」「それは違うわよ。ちゃんと友達はいる。この子も南さんも」「私は勝手に友達にすんな」ふんっと鼻を鳴らした南さんは空を見上げました。私も真似をすると空には島が飛んでいました。62次のひから私は、とても難しい選択を迫れることになりました。「人生って、かき氷みたいなものよね。たくさん好きなあんじがあるのに、全てを食べることは出来ないいの。お服壊しちゃうもの」私は選ばなければなりませんでした。アバズレさんと、おばあちゃんと南さん。全員のところに行って選んでいておお母さんとの適当の時間を過ぎてしまいます。だから、行ける場所は多くても二つ。それは、いちご味とレモン味とソーダ味の中から二つを選ぶのと同じくらい難しい問題でした。「それでなんで、私のとこに来てんだよ」そういいながら、むすっとした顔で南さんはペットボトルの麦茶を飲みました。「あら、昨日は勝手にしろって言ったわ」「学校の友達と遊んでろ」「学校に友達なんいないわ」「なんだよ、本当に一人ぼっちゃかよ」「それは違うわよ。ちゃんと友達はいる。この南さんも」「私は勝手に友達にすんな」ふんっと鼻を鳴らした南さんは空を見上げました。私も真似をするとそらは鳥が飛んでいました。63もしも翼があったら、ベッドで寝る時に大変そうだなと思いました。「南さんに会いに来たのは南さんのことを全然知らないからよ。私、もっと南さんのことを知れたいもの」「私のことなんか知らなくていいよ」「そんなことないわ。人生とは和風の朝ごはんみたいなものなのよ」「なんだそりゃ」「知る必要のないことなんてないの」南さんは少し考えてから、「味噌汁か」と言い、それから、「偉そうに」とも言いました。「偉くないわ。別に偉くなりたくもないし、それより、もっと賢くなりたい」「すでに偉そうな奴が偉くなりたくないってのは、お菓子お話だ」「偉くなったら、日曜日に家族でお出かけする時間も作れないんでしょ?そんなの偉くなる意味、ないわ」私はそれだけしか言いませんでした。なのに、「親のこと、言ってんのか?」南さんがそう言ったのには驚いてしまいました。さすがは高校生さんだと思います。だけど私はそれに頷くのがなんとなく嫌で、黙っていると南さんは体操座りになって膝を抱えてから「賢くなるのも別にいいことじゃないかも知れないよ」と言いました。64(3:19)「そんなことないわ。私、すっごく賢くなりたいの。物語だって、賢くならないと書けないでしょう?バオバブっていう名前の木があるなんて「星の王子さま」で初めて知ったわ。知る薔薇がいることもね」「んな薔薇あるか」「え、じゃあバオバブも本当はないの?」私はバオバブを生まれてまでみたことがないかったで不安になりました。でも、南さんはさすがは高校生さんです。「バオバブはあるよ。百年以上かけて育つ大きな木。地球上で一番大きって言われて、一番最初の木っていう言い伝えもある。それいバオバブで枝が根っこみたいな形をしてるんだけど、それは神様が嫉妬深いバオバブに怒ってさかさまにしちゃったんだって」「バオバぐが誰に嫉妬したの?」「自分よりスリムなやしの木や、果実を実イチジクらしい」私は、心の奥から感心しました。「すっごくユニークで素敵な話ね。やっぱりさすが、南さん」65「別に言い伝えがあるっていうだけだよ。私が作ったんでもなんでもない」「そうだけどそんな面白い話を知ってるのは、南さんが私よりずっとかしこいからだわ」。私も賢くなって、面白いお話をいっぱい知りたい」南さんは私にもバオバブにも興味なんてないというみたいに「ふうん」とだけ。でも、南さんが嫌な気持ちでないことはすぐにわかりました。私が他にも面白い言い伝えを聞いてみたくて南さんにお願いすると、彼女は色んなことを教えてくれたからです。いくつかしてくれた南さんのお話の中で一番素敵だなと思ったのは、英語で「薔薇の下で」というのは「秘密」という意味だというお話です。私はまだ英語を話せませんが、いつか大人になって話せるようになったら、きっと使ってみたいと思いました。今日は南さんの話に夢中になってしまいました。だから気が付いてたら、おばあちゃんの家に行くこともアブズレさんの家にいくこともすっかり忘れて、私は家に帰る時間を迎えてしまいました。次の日、私は朝から南さんと昨日のようなお話がしたかったのですが、どんなにつまらなくても学校には毎日行くことになっています。馬鹿な子は馬鹿なままだし、隣の席の桐生くんはこそこそと絵を隠すので、相変わらず学校はつまらないところだったけれど、一つだけいいことがありました。66(6:55)昼休み、私が一人で図書室にいると、そこに荻原くん(おぎわら)が来たのです。私は迷わず荻原くんに話しかけることにしました。なぜなら、昨日南さんに教えてもらったことを誰かに話したかったけれど、話す勝手が誰もいなかったからです。荻原君が図書室の端っこにいた私に気が付かずに出て行こうとしたところを、私はさも今ちょうど出ようとしていたような顔で追いかけました。「荻原くん」「あ、小柳さん。図書室にいたんだね、気づかなかった」「ええ、何を借りたの」私が彼の持っていた本を指さすと、彼は嬉ししそうにその表紙を見せてくれました。新しい本をてに取った時の嬉ししさを知っている私は荻原くんの表情の意味が全部わかりました。「白い家の伝説」ね、私も読んだわ」「うん、星の王子さま」と同じでフランスのお話って知って、読んでみたくなったんだ。」なるほど、さすがは荻原くんです。本の選び方も、そして私の話したいことへのレールを敷いてくれることも。私は、敷かれたレールに乗って、昨日南さんに教えてもらったバオバブの話や薔薇の話を、さも自分が最初から知っていたみたいに荻原君に話しました。67荻原君はいちいち驚いてくれました。こんな話を面白いと思うのはきっとクラスで私と荻原君くらいのものです。どうしてかというと、もちろんかしこいから。話しても話しても私は満足しませんでした。だけど、私と荻原くんの会話は突然終わりました。廊下の向こう側、私がほとんど話したことがないクラスの男子が荻原くんの名前を呼ぶと、彼はまるで私と話していたことなんて忘れてしまったように向こうへ行ってしまったのです。しょうがないことです。荻原君は賢いだけではなく、友達も多いのです。結局、話し足りなかったことは、つまらなくない放課後に発散することにしました。青空の下、コンクリートの床の上に座って、私は南さんに今日のことを話します。「色気づいてんな」「別にその男の子の髪は茶色じゃないわ」「そういう意味じゃなえよ」南さんは今日も口をへの字に無げていました。でも、別に怒っているわけではありません。私には少しずつ南さんのことが分かってきました。「そういえば、もうすぐ「ハックルベリー・フィンの冒険」読み終わるわ」「だったらなんなんだよ」68(9:54)「南さんの書いたお話が読めるってことよ。すっごく楽しみにしてるの」「そんなの知らないよ」機嫌が悪そうな南さんのお尻の下には、いつも同じ色のノートが狭まっています。きっと私が来るまでお話を書いていたのだと思います。「じゃあ、また来るわ」「勝手にしろ」南さんの「勝手にしろ」はアバズレさんの「またね、お嬢ちゃん」と同じ意味。私は南さんの背中に手を振りました。この日は、それからおばあちゃんの家に寄って南さんにしたのと同じ話をしました。とても、いい日でした。最初、国語の授業の時間を私は難しい気持ちで迎えます。楽しみなんだけれど、なんだかとても長いのぼり階段の前に立たされているような。つまりはファンタジーの世界で勇者が大きなドラゴンの前にたった時と同じような心なのだと思います。私はドラゴンや長い坂を見ても頑張って立ち向かえるタイプだけれど、中には身がすくんでしまう子もいます。隣の席の彼がそう「ねえ、今はどんな絵を描いてるの?」69(11:27)「え、いや、別に」そう答える桐生君(きりゅう)は今日も絵を描くことが幸せだとは自分から言いませんでした。桐生君がベアで大丈夫なのかしら、私は冒険をともにする仲間に不安を覚えはじめました。隣の席なので、桐生君と一緒に給食を食べて、それから私はやっぱり一人で図書室に行って、放課後、今日も南さんのところに行くことにしました。理由はきちんとありました。「冒険には仲間が多い方がいいもの」「ナー」尻尾のちぎれた彼女も南さんのことが好きなようでした。私達の見た目の全然違うけれど、人の趣味はとてもよくあうのです。いつもの屋上、私がきたことを見つけると南さんはぶっきらぼうに「また来たのか」と言いました。もちろんおばちゃんの「よく来たね」とおのじ意味です。私は体操座りの南さんの横に、同じ格好で座りました。「ごきげんよ、南さんはごきげん麗しゅう?」「なんそりゃ」とても上品に挨拶したのに南さんは私の言葉を口に含んで地面にぺっと吐き捨てるよううに返事をしました。70(13:10)でも、私にはもうばれています。それは、南さんがわざとそう聞こえるようにしているんだって。「別に麗しくないよ、雨降りそうだし」「天気予報を見たけれど、今日は雨は降らないって行ってたわ。10パーセントだって。九人はは雨が降らないって言ったけど、一人だけ雨が降れって言ったわけよね」九人に反対されるその一人ぼっちのことを考えると応援してあげたくもなるけれど、そう岩けにはい来ません。雨がふることの屋上で南さんに会えなくなってしまいます。「そういう意味じゃねええよ、天気予報のパーセントってのは」「え、そうなの?」「あれは、今日みたいな天気の日が昔に何日があって、そのうち何日雨が降ったがってことだ。つまり10パーセントっていうのは、今日みたいな日が例えば前に十日あって、そのうち一日だけ雨が降ったってこと。だから、一人だけ仲間外れにされてるわけじゃない」さすがは南さん、と私はまた感心しました。そして、冒険に出るのにぴったりな仲間を見つけたことに、とても嬉しくなりました。「私は勇者で、この子が妖精、南さんは森に住む賢者でいいかしら?」「何言ってんだお前」71(14:45)「今日はね、訊きたいことがあったのよ」私は早速切り出しました。好きなものは最初に食べちゃうタイプなのです。「物語のこと?」「それもあるけど、違うわ。私ね、今授業でとても難しい問題に取り組んでいるの」「算数とか?それくらい自分でやれよ、ガキ」「違うわよ。算数なら自分で解けるわ。でも、この問題なすごく難しいの。国語の授業でやってるんだけど、幸せとは何か?って問題よ」「幸せ。。。」「そう。南さんにとっての幸せ何かを聞きたいの。ヒントにするわ」南さんは、すぐには答えませんでした。足の上に乗った黒い彼女の頭を撫でながら、今日は曇り気味の空を見上げます。そして、少し経って口を開いた南さんから聞こえてきた声も、曇り気味でした。「幸せなんて、そんなもん分かんないよ」「物語を書いてる時は?幸せじゃない?」「書くのは楽しいけど、それが幸せかは分からない。幸せって、もっと満たされた状態だろ。こう、心がいい気持ちいっぱいになるような」72(16:13)南さんは幸せについて、とてもわかりやすく考えを教えてくれました。すぐにそんなことを言えるなんて、さすがは高校生さ

「また、同じ夢を見ていた」住野よる ,ページ 47−61
第3階段の終点近くに座っていた南さんと私は同時に悲鳴をあげ、尻尾のちぎれた彼女だけが嬉しい屋上にかけあがりました。48南さんはカッターをかちゃんと石の床に落とします。私は驚いてから、南さんとカッターと南さんの手首を身比べて、また驚きました。南さんの手首からは、赤い血が滴っていたのです。「なんてことしてるの!治療しなくちゃ!」「あ、あんた、何?」「ばんそうこう持ってるから、これ貼って病院行きましょう!」「ちょ、あのね、大丈夫だから騒がないでくれる」慌てる私に対して、南さんはもう落ち着いていました。彼から知ったことですが、さすがは高校生さんです。私は南さんのお願いを聞くため、ひとみ先生に教えてもらった方法でどうにか落ち着こうと思い、すっはっと息をよく吸い込んで吐きました。そうすると私の心に入った空気が隙間を作って、少し大きめのパジャマを着た時みたいに、気持ちがゆるりとするのです。すーはー。すーはー。すーはー。何度か深呼吸をして、気持ちがゆるゆるになった頃、私はやっと南さんにハンカチとばんそうこうを差し出すことに成功しました。すると南さんはしぶしぶ「持ってるよ」と言いながら、自分のハンカチで手首を拭きました。私は出したばんそうこうは、屋上の床に置かれたまま使われませんでした。49私は、口をへの字に曲げた南さんの手首を見ながら、思ったことを言いました。「頭おかしくなっちゃたの?」南さんはへの字をゆっくり動かして、退屈そうに答えました。「かもね」「なるほど、本当に頭がおかしくなると、自分の腕を切っちゃうのね、じゃあ私にはきっと無理。痛いのは嫌いだもの」「私だって嫌いだよ」「それなのに腕を切るなんて、やっぱり頭がおかしいわ」「うるさいな。さっさとどっか行け」私は南さんの言うことは聞かず、屋上に上がりました。尻尾のちぎれた彼女と南さんの横に座って、血が出た手首をそうっと観察します。南さんが嫌そうな顔をした気がしましたが、怪我をしてる人を放ってはおけません。その痛そうな切り傷は、見ていると自分にうつってしまいそうな気がして怖くて、私は顔を南さんの顔へと向けました。「何見てんだよ」50「腕よ、凄く痛そう」「子供はさっさと帰れ」「南さんはどうしてこんなところにいるの?」「関係ないいでしょ。って、その南ってのは何?」「名前、書いてあるじゃない。小学生でもそれくらい読めるわ」私は、南さんの紺色のスカートに刺繍してある文字を指差すしました。南さんの服は、制服と呼ばれるもので、その正方形みたいな規則正しさを、いつか私も着て見たいなと思っていました。けれど南さんは自分で自分のスカートを見て、なぜだか溜息をつきました。「どうしてたの?」「別に、どうもしない」「一人なの?」「。。。別にいいでしょ、一人でも。誰かと一緒にる必要はない」「確かに。それには私も同じ考えを持っているわ」「子どもの癖に違そうな喋り方」「違くないわ。まあでも、そこらの子ども達よりは、違いかも、本の素敵さを知っているもの」51 (5:02)「あんた。嫌われてんでしょ?」「かもね」私は南さんの真似事をしました。南さんはしかめっ面のまま、尻尾のちぎれた彼女を見ました。彼女も、南さんをを見つめて、首をかしげます。彼女きっと私と同じことを不思議に感じているのです。彼女は喋れないので、私は代表してそれを訊きます。「ねえ、南さん」「あ?」「どうして腕を切っていたの?」「。。。なんで、んなことを会ったばっかりのあんたに話さなくちゃいけないの?」「いいじゃない。私、言いふらしたりしないわよ」南さんはしかめっ面のまま、ぷいっと顔をそっぽこ向けました。だから、答えてくれないと思ったのだけれど、それは私の早とちりでした。ややあって、南さんは静かに答えてくれました。「別に、落ち着くの」「落ち着くっていうのは、息を吸って心に隙間を作ったり、木で造られたおうちで太陽の匂いをかぐことを言うのよ」52「それと同じように、私は落ち着くんだ」「おかしな話ね」「。。。ためしにやってみる?」南さんは、血がついて固まったカッターの刃をチキチキチキと出して私に」向けました。私は慌てて首を横に振ります。南さんはカッターをしまいながら少しだけ笑ったように見えました。本当は分かりません。南さんの目は、ほとんどが前髪で隠れていましたから。「私が本当にやばい奴だったらどうすんだ。あんたみたいなガキ、刺されるよ」「大丈夫よ。南さんからは、嫌な匂いがしないもの」「何が大丈夫なんだよ」嫌な大人の匂いがしないのよ」私は、大人じゃないからね」私は南さんの手首がやっぱり気になって、勇気を出して手を伸ばし、触ろうとしました。でも南さんはさっと手を引っ込めて膝を抱えてしまったので、私の手は空気に線を描きます。「53」「腕を切って落ち着く人がいるなんて、世界はまだまだだわからないことだらけ」「子どもの癖に違そうに」「ねえ、私、この場所があるんて知らないかったわ」「あっそ」「南さんはいつもここにいるの?」小さな友人が尻尾を揺らしながら屋上を歩きまわり始めたので、私も立ち上がって彼女の後ろを追いかけます。歩いてみると、思ったよりも屋上は広いことが分かりました。南さんの手首の血が見えるくらい近くに戻ってくると、南さんは「何うろちょろしてんだよ」と言った後「私も最近見つけた」と言いました。「ここで何をしているの?」小さな彼女を胸に抱え上げてくるくるまわっていると、胸元からうめき声が聞こえてきたので放してあげました。彼女は地面がなくなったようにふらふらしながら、南さんの足元でぽてんこけ、私はそれを見て笑います。「いじめるなよ」「いじめてないわ。遊んでるの」「南さんは黒い毛並みが気に入ったみたいで、彼女の背中をなでました。彼女が気持ちよさそうに可愛い声で鳴くのを聞いて、おべっかまで使えるなんてやっぱり彼女は悪い女だわ、と私は思いました。54(9:20)「それで、南さんは何をしているの?私だったから、こんな広い場所があるなら踊るかな?南さんもそう?「踊らねええよ、別に、座ってたり、空を見たりするだけ」「あとは腕を切ったりね。よく見たら、何本も切った痕があるじゃない。本当に死んじゃうわよ」私が指さすと、南さんは自分の腕を眺めて「ふう」と息を吐きました。どういう意味なのかは、分かりません。この話を続けていいのかも、分かりませんでした。南さんは、話をしたいようなしたくないような、そんな難しい顔をしていたのです。子どもの私が、きっとしたことのない顔だと思いました。私はしたい話はするし、したくない話はしません。私は、南さんのした顔についてアバズレさん達と話しあってみようと思いました。大人のことは、大人に訊きましょう。代わりに、実はもう一つお話ししたいことがあったので、私はそっちに目を向けることにしました。「ねえ、南さん」「んだ、うるさいなあ」(55、10:55)「私、実は南さんは絵を描いてるんじゃないかと思っているんだけど」「どうしたんだ、突然」私は、南さんが密かに体の陰に隠していたノートとペンを覗き込みました。私の言いたいことがわかったのか、南さんはすぐにノートとペンをお尻の下に敷いて、あんたが見たのは幻だよ、ノートなんてないよ、という顔をしましたが、私はそれが嘘だとわかるくらいかしこいので、南さんのお尻を指さしながら言いました。「なぜ、絵を描いている人はそれを隠すのかしら。うちのクラスにもいるのよ、とっても素敵なことなのに、絵を描いているのを知られるのが嫌な子が。どうして披露するのを嫌がるの?」「。。。。」しばらく、南さんは空を見上げて黙っていたしたが、黒い小さな彼女がモンシロチョウを追いかけだすと、また「ふう」と息を吐いて、言いました。「絵じゃない」南さんは少しだけ間を空けて、まるで勇気を振り絞るように、言いました。「文章を書いてる」「文章?日記を書いっているってこと?」(56)「違う。。。お話を、書いてる」「ええ。。。つごく素敵」一瞬、つぶれてしまうんじゃないかと心配になるくらいギュッと目をつぶった南さんは、私の心から飛び出た言葉に驚いた顔をしました。少し、私の声が大きすぎたのかもしれません。でも、南さんは私の雄たけび驚いたんじゃないとすぐに分かりました。南さんは、とても不思議なことに驚いていたのです。「笑わ、ないの?」彼女の言葉の意味が、私には分かりません。「笑う?笑うですって?私が?まだ面白いショックを読んでもないのに、笑えるわけないでしょう。もし物語を書いている人を笑うって意味だったら、私、本を読んでいる最中にお腹がよじれれて死んじゃうわ。南さんは、物語を書いている人を見たらそれだけで面白くて笑うの?」私の質問に、南さんは首をぶんぶんと右に左に振りました。揺れる前髪、初めて木ちゃんと覗いた南さんの目は、アブズレさんやおばあちゃんと同じでとても綺麗でした。「そんなわけない!」57、14:10南さんは、首を振るのをやめて私みたいに突然大きな声を出しました。私は驚いたりしません。こんなことに驚いていたら、私は自分にびっくりししすぎてやっぱり死んじゃうことでしょう。驚いたりしなカッタ私は、南さんにきちんと正直な今の気持ちをお願いしてみました。「ねえ。その物語を読ませて」その言葉にも、南さんは「えっ」と驚いた様子でした。物語があれば、それを読みたいと思うのはとて自然なことだけれど、私ぐらいの歳の子が普通そうじゃないのは知っているので、南さんの驚きは少しだけ分かりました。「私、さっきも言ったけれど、物語の素敵らしさを知っている歌詞こい子なのよ」「だから何だっていうの、嫌だよ」「どうして?あ、もしかして他に先的があるのかしら?」「そんなの、ないげど」「じゃあ、お願い。私に読ませてよ。私、物語の素晴らしさを知っているし、それに、実はね、私いつかは物語を自分で書いてみたいと思っているの」58私のお願いには、顔をぴくりとも動かしてくれなかった南さんが、私が打ち明けた秘密には唇の力を緩めてくれました。それから、口元に手を当てて、「うーん」と唸ってから、しょうがなくしょうがなくと言った漢字でしたが「なんで初対面のガキに」なんて言って、ついたは私にノートを渡してくれたのです。きっと南さんは知っているのでしょう。女の子の秘密は安くないってこと。誰にも言わなかった秘密。私はいつか出来あがった物語で皆を感動させて驚かせてあげようと企んでいたので、これを人に言ったのは初めてでした。その甲斐あって、私はた新し物語と出会うチャンスを手に入れることが出来ました。こういうのを取引っていいます。「あ、待って」「なんだよ」「すっかり忘れてたわ。私、今、宿なしハックの物語を読んでいるんだったわ」「ああ、私も子ども頃読んだ」「私ね、いつの物語を読んでいる途中で他の物語を読まないことにしているの。つの世界をめいっぱい味わいたから、そういう決まりごとおとをしているよ」「じゃあ返せよ」南さんは唇を尖らせて、ノートを取り上げてしまいました。その後小声で、気持ちはわかるけどな」と呟いて、そのノートをまたお尻の敷きました。まるで、誰かに見からないように隠した宝箱みたいに。その想像で、私はますます南さんの書いた物語が読みたくなりました。「59」「ハックはすぐ読み終わるわ!そしたら南さんの物語を読ませてね」「別に忘れくれていいよ」「いいえ、忘れない。人生とは冷蔵庫の中身みたいなものだもの」「んだ、そりゃ」「嫌いなピーマンのことは忘れても、大好きなケーキのことは絶対に忘れないの」「南さんは唇の端で息を抜くように笑って、それから、「偉そうなガキ」と言いました。私は悪口を言われている様n秋には全然なりませんでした。それから南さんは、ずっと私のことをガキと呼び続けました。それが子どもも乱暴にした言い方なのだとは知っていたけれど、南さんのガキのいう言葉には、アバズレさんの言うお様ちゃんや、おばあちゃんの言うなっちゃんと同じ、素敵な匂いがっまっていました。私は、南さんは私のことを友達だと認めてくれたのだと思いました。きっと南さんも

「また、同じ夢を見ていた」住野よる ,ページ 32-47
32小学校の靴箱で上靴を履いていると、朝から嫌な奴に会ってしまい、私の気持ちは色で言うと灰色になりました。こういう時はブルーっていうのかもしれないけど、青色は好きだから。「お、頭おかしくなったやつが来たぜ!」33校舎の方から聞こえてきたし知性のかけらもないその声に、私はこれみよがしに溜息を吐き、言ってやりました。「頭がおかしてくなった私よりテストの点が取れないあなた違わ、本当に頭が悪いのね。新発見」馬鹿なクラスメイト達数人の怒った顔で溜飲を下げておいて、私はこれ以降の会話を全て拒否します。あいつらに何を言われても無視していると、やがて「びびってんじゃなえ」とかなんとか、日本語を知れることを褒めてあげたくんあるようなことを言ってから去っていったので、やっと上靴を履き終わって校舎に足を踏み入れます。と、「おはよう、小柳さん」灰色な私のステップを、1つの声が後ろからひきとめました。クラスメイトに、私の表情は一転します。「あら、おはよう、荻原くん」「昨日あれ読み終わったよ。トム・ソーヤー。とっても面白かった」「あらそう。それは良かったわ。どこの場面が好き?」「ペンキの話かな。あと僕はトムがとてもかっこいいと思う」[1:43]34「誰かにトムは魅力的ね。頭も良くて」「ハックも好きだな」「宿なしハックね。そういえば、私これから」と、そこまで言いかけて、言葉を止めました。理由はおばあちゃんから聞いた話を独り占めしようとしたのではなく、荻原くんの後ろから男の子が走ってきて彼に軽くぶつかったからです。驚く荻原くんに、私は背中を向けます。彼は背中を見てはいないでしょう。荻原くんにぶつかってきた男の子は、彼ととても仲の良いクラスメイトで、仲が良いから男の特有のスキンシップで、彼にぶつかったのです、決していじめではありません。荻原くんが、いじめるわけもいじめられるわけもありません。彼には友達が多いから。対してクラスに友達のいない私は、こうして背を向けることを選びました。でも私も別にいじめられてるわけじゃありません。ただ、なぜだか荻原くん以外のクラスメイト達は私を苦手に思っているが、嫌いに思っているみたいなのです。一度も、皆にいじわるなんてしたことないのに。だから私は、荻原くんの友達を気づかって先に行ってしまうことにしました。男の子同士の友情に、女の子は入り込めないものなのです。「3:18」35教室に行く前に、私には寄るところがありました。図書室です。私の行っている小学校来るまでのあのうるさい時間を、私わ静かな図書室で過ごします。図書室に入ると、本達の持つ時別な匂いと、優しい図書室の先生が私を出迎えてくれます。私は、昨日おばあちゃんから聞いた「ハックルベリーファンの冒険」が置いてあるかを先生に訊きました。すると先生はとある本棚の前に私を案内してくれたので、そこからは自分で本を探します。「本が好きなら、探す時のドキドキする気持ちも楽しみたいでしょつ」と図書室の先生は前に言いました。その通りだと思います。私はすぐに「ハックルベリー・フィンの冒険」と見つけて、指の先が痺れるようなわくわくと一緒に手に取り、ライドサルを下ろして近くの席に座りました。最初のページを開く時の、他のどんなものにもたとえることの出来ないこの気持ちをきっとクラスで私と荻原くんしか知らないのでスカラ、もったいないことです。私は、宿なしハックの物語に、一人小さな一歩を踏み出しました。図書室は静かだし、いい匂いがするし、先生が優しいし、とてもいいところです。でもこの場所にも一つだけ行けないところがあります。それは本に夢中になりすぎてしまうというところです。36私は図書室の先生に声をかけられるまで、自分が小学校にいることを忘れてしまっていました。朝のチャイムが鳴るちょっと前、今日も先生に名前を飛ばれ、久しぶりにこの世界に戻ってきた私は「ハックるベリー・フィン冒険」を散りてランドサルに詰め、図書室の先生と本達に一時の別れの挨拶をしました。私は学校についたときよりも騒がしくなった廊下を歩いて、階段を一段ずつぼり、3段にある教室に向かいます。教室の前につくと、廊下を走る男子達がいたのでお互いに無視をし合ってから、教室に入りました。私が教室にきたことなんて誰も気にしません。私はいつもとおのじように一番後ろにある自分の席に一直線。ランドセルを置いて椅子に座ります。隣の席に座る桐生くんは、私の到着に気がつき膝の上のノートを慌てて閉じました。「おはおう、桐生くん」「お、おは、おはよう、小柳さん」彼はいたずらを怒られる時みたいな早口と一緒に、閉じたノートを机の中にしまいました。「何を描いてたの?」「な、なんでもないよ」「6:42」37「嘘です。隣の席の桐生くんが嘘をついているのを私は知っています。彼は絵を描いてのです。彼は授業中もよくノートに落書きをしています。上手く隠しているつもりなのかもしれないですが、隣に座っている私からは丸見えです。彼にはとても素敵なえを描く才能があるのでもっと周りに披露すればいいのにと思うけれど、彼はそれをしてません。大人しく絵を描いているのを、綺麗な男子達に揶揄われたことがあるからです。何度も、何度も。「桐生くん、人生って虫歯と一緒よ」「ど、どういう意味?」「嫌なら早めにやっつけなきゃ。今度絵を描いてるのを揶揄われたら、あいつらの顔に唾を吐きかけてやればいいわ」ランドセルを後ろの棚にしまって、もう一度椅子に座ってからそういうと、桐生くんは私の方を見ずに、「む、無理だよ」と小さな声で言いました。私が「そんな弱々しい態度じゃ駄目よ」と桐生くんにアドバしうをしたことろでチャイムが鳴り、同時にひとみ先生が教室に入ってきました。皆、ひとみ先生が大好きのので、先生が教室にいるだけで空気がぱっと明るくなります。「おはようございます」「8:18」38「おーはーよーーうーごーざーいます」クラス委員をやっている荻原くんの号令でひとみ先生に挨拶をして、今日も学校でのつまらない一日が始まりました。一時間目は算数、2時間目は社会で、3時間目に、昨日先生から私だけが聞いていた幸せについての授業がありました。私は「実は昨日から知っていたのよ」と自慢したくなりましたが、先生に内緒だと言われたので、授業のこともチョコレートのことも秘密に指定おきました。教科書に載っているお話を読んで、それからお話の主人公の気持ちなどを考えていると、幸せについて考える間もなく五十分はすぐに終わってしまいました。するとひとみ先生が今日は4時間目も3時間目の続きをすると発表しました。私は、たった五十分の授業では足りないわ、と思っていたのでひとみ先生のアイデアにとても納得しました。4時間目の授業では、早速それぞれの幸せについて考えることになりました。二人一組になって、自分が幸せに感じることを言い合い、集めてみるのです。私はペアは、隣の席の桐生くんでした。桐生くんは自分からはなかなか喋らないので、私が話し合いをリッドします。39「昨日ね、クッキーにアイスを乗せて食べたの、その時に、幸せを感じたわ」「へえ」「桐生くんは、何かあった?」「僕は、えっと、おばあちゃんの作ったおはぎが美味しかったよ」「確かにおばあちゃんの作るお菓子っていうのは美味しいわね」「うん。お母さんの作ってくれるお菓子も好きだけど、おばあちゃんのとは、種類が違って」「お母さんがお菓子を作ってくれるの?いいわね。私のお母さんは夜まで家にいないから」こんな風に私達は二人で色々なことを言い合い、ノートに書きました。作業は順調でだけ幸せのことについて喋っても、私が本のことについて言いも、桐生くんは絵を描くことについて何も言わなかったのです。不思議に思ったので訊いてみました。「絵を描いている時は、幸せじゃないの?」「え、ど、どうかな。好き、だけど」「じゃあそれも幸せの一つね」[11:17]40「で、でも、描いて、たら、馬鹿にされるから」「関係ないじゃない」思ったよりも大きな声が出てしまって、桐生くんだけじゃなく、クラス全体の空気が私に驚いた見たいで、自分も驚いてしまった私はこっちを見ていたひとみせんせいに「ごめんなさい、盛り上がっちゃったの」と言いました。ひとみ先生の「皆をびっくりさせないようにね」という優しい声でまた教室がわざわしはじめたのに紛れて、私は改めて「そんなの、関係ないわ」と桐生くんに言いました。そしてノートに、素敵な絵を描くこと、とメモをとりました。桐生くんは、うつむいて何も言いませんでした。4時間目が終わって、給食時間も終えて、私は昼休みを図書室で過ごししまた。朝よりは多少騒がしくなった図書室ですが、教室よりはよほどいちご居心地が良くて、宿たしハックとの冒険にのめりこむとができました。昼休みが終わるチャイムが鳴ると、掃除時間になるので教室に帰って方きをもちました。桐生くんも同じグループで、先に教室の掃除にとりかかっていました。私達が真面目に掃除をしていると、あの馬鹿な男子が運動場から帰ってきて「お前ら絵描いたり本ばっか読んでたり気持ち悪いんだよ」と頭が悪すぎることを言ったので、私は「気持ち悪いってあんたの顔って意味よ?知ってる?」と返してあげました。桐生くんにもいい返すように目で合図しましたが、彼はやっぱり何にも言いませんでした。415時間目も6時間目も終わって、やっと帰りの会の時間が来て、心持ちにしていた私は「ふう」と息をつきました。あとは先生と挨拶をして終わり。そう考えていたのですが、先生からとても重要なお知らせがありました。「再来週、授業参観があります。皆のお父さんやお母さんには前からお知らせてあったんだけど、皆のいつもの学校での様子を見てもらうとても大事な日だから。今から回すプリントをきちんとお父さんお母さんに渡してね。これは先生との約束です。皆、いい?」「はあい」という皆の声の後、前の席からプリントが回っていました。私はその内容を読んで、うきうきしながら鞄にしまいました。私は授業参観が好きです。私のとこてもかしこい様子をお父さんお母さんに見えてもらえるから。今度こそ学校が終わって、今日はひとみ先生に飛び出されることもなく、私はいつもと同じように一人で家に帰りました。そしていつもと同じようにランドセルを部屋に置いて家を出ようとして、大事なことを思い出しました。私は部屋に戻ってランドセルから授業参観のプリントを取り出し、リビングのテーブルの上に置いて、改めてお出かけをすることにしました。42マンションの外では、いつもように尻尾のちぎれた友達が持っていました。「ナー」と鳴く彼女に挨拶をして、大きく流れる川に向かって一緒に歩きます。堤防にのぼると、今日もまた気持ちのいい風が私の髪と彼女の短い尻尾を揺らします。とてもいい気分になった私達は、一緒に歌いました。まもなく、歌声と一緒にクリーム色のアパートに到着、いつものドアの前に立ってチャイムを鳴らします。一度め、何も聞こえてきません。2度目、ドアは聞きません。三度目、チャイムと一緒に彼女が足元で鳴きましたが、何も返ってはきませんでした。「どうやら、今日はアバズレさんいないみたい」「ナー」アブズレさんは忙しくてので、いないこともままあります。残念な気持ちは風に流し、私達は諦めて、来た時とは違うで戻ることにしました。もちろん帰宅するわけではありません。アパズレさんの家から向かう先は、いつも決まっています。私達は大きおうちや小さいおうちの間をまた歌いながら歩いて、間もなく私の住んでいる大きなマンションの前を通り過ぎ、いつもの道を通って裏手にある丘の方へと向かいます。道すがら、近所に住む人達にあっては挨拶をしたのですが、無愛想な彼女は短い尻尾をゆらゆらさせるだけで、つーんと顔を逸らしていました。43「あなた、人間相手ならまだしも、猫の世界でもそんなんじゃ嫌われるわよ」彼女はまるで聞こえていないかのように私の先を歩き、丘の入り口に着くやどんどんと木と木の間を登っていきました。そしていつもの広場、木で出来た大きな辿り着き

「また、同じ夢を見ていた」住野よる ,ページ 18-32
あれは、冷たい雨のひでした。、可愛いピンクの長靴履いて、綺麗な赤い傘さして。ひらひら黄色いカーパを着た私は、堤防のうえの小さなカエルを追いかけながら赤いでいました。緑色の小さなカエルはとても綺麗で、楽しそうに、規則正しく歩道の間を跳んでいくのでスカラ、ずっとみていることが出来ました。線のカエルをしばらく追いかけていると、いつの間にか私も一緒にジャンプをしていました。まるで二人で何かの特訓をしているようだなと思い、私は一人で笑いました。その間もカエルは一生懸命、特訓を重ねていました。きっとこのこは恥ずかしがり部屋で、人があまりいない雨のひ暗いしか特訓が出来ないんだわ。私は健気きに頑張るカエルを応援しました。19ところが、私の応援は聞こえなかったのか、それとも最初から特訓をしているつもりなんててなかったのか、ある時カエルはぴょんと草むらに跳んで言って、そのままいなくなってしまいました。私は別れを惜しみ、草むらの中に入っていったのですが、いくら長靴が泥だらけけになっても、カエルを見つけることはできませんでした。とても残念な気持ちになりましたが、仕方がありません。草むらをかき分け、河川敷まで下りできてしまっていんた私は、堤防の上へと戻ることにしました。でも、もしかしたらまた出会えるかもしれないと言う運命も捨てられず、下り的た時は違う道を進みます。彼女は、草むらの中でうずくまっていました。すぐに彼女に気がついた私は、水たまり尻尾が他の半分くらいしかありませんでした。大変だわ。私はそれだけを思いました。どうして彼女がそうなったのか、彼女が誰なのか、そう言うことは考えませんでした。私は傘を畳み、彼女をそっとた抱えて、おどろかさないようゆっくり堤防を登っていました。彼女の体の影らの膨らみ、静かな呼吸が伝わってきました。(2:45)20私は最初、彼女を家に連れて行こうと思いました。しかし帰っても誰もいいないことに気がつき、そのアイデアはゴミになってしまいました。一人では、怪我を治すことは出来せん。雨粒が顔に当たって冷たい。きっと彼女も寒がっていることでしょう。私は考えます。考えて、私は誰かに助けを求めることにしました。川とは反対側に堤防を下りて、近くに、あったクリーム色のアパートに走ります。少し乱暴に私が走っても、腕の中の彼女はまるで動きませんでした。アパートの一階、端っこの部屋から順番にチャイムを押していきます。最初の部屋は、誰も出てきませんでした。次も、次も、その次も、五件目でやっと出てきた女の人は、私を見るなりすぐにドアを閉めてしまいました。私は次々に部屋を訪ねていきました。だけど、留守にしている家がほとんどで、たまにドアを開けてくれる人がいても、話を聞いてくれようとする人はいませんでした。腕の中の彼女は、震えていました。2回までしかないアパートの最後に一軒。2階の端の部屋のチャイムを押す時、私の心臓がどんなに遠く動いてたかしれません。小さくなる呼吸のリズムには、自分の腕の中で誰かが消えてしまうかもしれないといと怖さがありました。中からチャイムの音がして、物音が聞こえ、まずは誰かがいることに安心しました。これまでに訪ねた部屋は、電気が浮いていても誰もいないというところがいくつかあったからです。4:4821足音は少しずつ玄関のドアの方に近づいてきて、鍵が開けられた音がして、ノブが回され、ついにドアが開くと同時に、私は読んで呼んでいました。「この子を助けて!」中から出てきた綺麗なお姉さんはびっくりした顔で数秒。その顔のまま私と腕の中の彼女を見比べました。私はお姉さんの目をじっと見ました。話をする時は人の目を見なくてはならないと、人み先生に教わっていたからです。するとお姉さんの目は、震える彼女の上で止まった後、これまで訪ねたどの部屋の人もしてくれなかったことをしてくれました。私の目を、ちゃんと見てくれたのです。「ちょっと待ってて」お姉さんは一度部屋の奥まで行って、タオルを持ってすぐに戻ってきてくれました。そして私の手から小さな命を受け取ると、タオルに包んで部屋で部屋の奥につれていきました。「お嬢ちゃんもカッパと靴脱いで中に入れな」とても優しい声で言われたので、私はほっとしてその場で眠ってしまいそうだったのですが(22)先にお礼を言わなくてはなりません。この優しいお姉さんの名前は何て言うんだろう、そう思っていた私の目に、ドアのすぐ横にある表札が映りました。私は、そこに黒いマジックで乱暴に書かれた文字を読みました。「アバズレ、さん?」とても不思議な、まるで日本人じゃないみたいな名前。もしかしたら外国の人なのかしら、そうは見えないけど。私は首をかくんとかしげました。「ほら、怖くないから早く入っておいで」私はお姉さんに呼ばれ、結局お礼を言う前にお風呂に押し込まれ、いつの間にかシャワーを浴びていました。お風呂場から出ると、私の濡れていた服の代わりに大人用のパジャマが用意されていて、柔らかいそれを着させてもらうことにしました。お姉さんは、尻尾のちぎれた彼女に包帯を巻いてあげていました。邪魔をしないよう、私はじっとお姉さんの手を見ていました。お姉さんの治療が終わって、やっとお礼を言うことが出来ました。「本当にありがとう」「いいんだ。お嬢ちゃんの服は洗濯機で乾燥させてるから、乾くまでいたらいい」「うん、えっと、アバズレ、さん?」(7:54)23私が名前を呼ぶと、お姉さんはキョトンしました。どうして私がお姉さんの名前を知っているのかと、びっくりしたのでしょう。「表の表札に書いてあったわ。アブズレさん、でいいのよね?」「私の名前?」「ええ」私が頷いてすぐ、アバズレさんはわっはっはと大笑いしました。それがどういう意味の笑いのか、私にはとんとわかりませんでした。でも、楽しそうなのはいいことなので、私も一緒に笑うことにしました。「あっはは、ああーうん、それでいいよ。それが私の名前だ」「外国の人なの」「いいや、日本人だよ」「へえ、珍しい名前ね」私が感心していると、アバズレさんはまた笑ました。「そうだ、アバズレさん。この子を助けてくれたお礼に表札の文字を書き直してあげるわ。あの字、失礼かもしれないけど、あまり上手をは言えないわね。私の字、とても綺麗なのよ」24私はそう提案したのだけれど、アバズレさんは首を優しく横に振りました。「んー、せっかくだけどお嬢ちゃんに書いてもらうはどのものじゃないんだ。自分で書いたわけでもないしね」「へえ、あれは誰が書いたの?」アバズレさんは、今度はうっすらと笑ながら、こう言いました。「さあ、誰だったか忘れたよ」こんなことがあって、私とアバズレさんと尻尾のちぎれたあのこは仲良くなりました。ひとみ先生は私に友達がいないと思っている見たいだけれど、私には立派な友達がいます。オセロをする友達も、一緒にお散歩をする友達も、そして、本のお話をする友達もちゃんといます。だから私は、学校に友達がいなくても、お父さんとお母さんが忙しくて全然遊んでくれなくても、寂しくなんてないのです。おばあちゃんと出会いは、アブズレさんや尻尾のちぎれたあの子とのように大変な出会いだったわけではありません。大変じゃないと言うのは、出会った時に私が悲しそうだったり苦しそうだったりの顔をしていなかったと言うことです。(10:37)25私の家の近くの丘、木々の間を登っていくと広場が現れて、そこに木で出来た大きな家があります。ある日、この家を見つけた私は、ここらへんでは珍しい木の家がとても素敵に思えて、ずっと見ていました。しばらくて、あまりにも静かなので誰も住んでいないのかしらと、思って玄関をノックすると、笑顔の素敵なおばあちゃんが出てきてくれました。その日から、私とおばあちゃんは友達になりました。今日もいつもと同じように、木で出来たおっきなお家は素敵生までした。。「おばあちゃんの作るお菓子はどうしていつもこんなに美味しいのかしら」「生きてきた時間分、どうやって作れば美味しくなるのかを知ってる。それだけ」おばあちゃんはなんでもないことのように、お茶を飲みながら言いました。私はおばあちゃんの作ったマドレーヌを食べながら、その美味しさの秘密を解き明かそうとします。尻尾のちぎれた彼女は、居間と原っぱに面した板張りの廊下で日向ぼっこをしています。低いテーブルの置いてある畳の部屋でマドレーヌをもぐもぐしながら、私は今日おばあちゃんとした買った話を切り出します。「おばあちゃんに教えてもらたた「星の王子さま」、学校の図書室にあったから読んでみたわ」26「面白かった?」「んー言葉は素敵だったけれど、私には難しかったわ」「そうかい。なっちゃんはやっぱり賢いね」「そう思ってたんだけど、まだまだね。ちょっともわからなかったんだもの」「わからなかったことをきちんとわかっているのが大事なのよ。わかってもいないのにわかっていると思い込んでるのが、一番よくない」「そういうものかしら」「わからないなりに、何か心に残ったことはあった?」「そうね、私には箱に入った大人し羊より、一緒に散歩をしてくれる猫の方が似合ってそう」おばあちゃんは優しく笑って、廊下で眠るあのこを見ました。「せっかくなっちゃんに褒められてるのに、幸せそうに寝ちゃって」「いいのよ、あの子すぐに調子に乗るんだから」彼女はちぎれた尻尾を揺らしてあくびをしました。私にもうつってはしたなく大きな口を開けてあくびをしてしまいます。あくびの拍子に思い出し、私はアブズレさんにしたのと同じ話をおばあちゃんにもしました。あの、学校での話です。27私がきちんと一から話すと、おばあちゃんはアブズレさんと同じように大笑いました。「そうかいそうかい。校庭も走るらされて、放課後に残されもして、そりゃあ大変だったね」「そうでもないわ。いえ、体育は嫌だったけど、残ったのは大変でもないの。ひとみみ先生のことは好きだから」「素敵な先生だね」「ええ、素敵な先生。ちょっと的外れだけどね。うふ、このやりとりアバズレさんともしたわ」「今日はオセロ勝てたのかい?」「一回だけよ。でも、その一回もたった二枚差だったもの。いつかオセロが強くなる日が来るのかしら」「くるさ、なっちゃんには先を見る力があるからね」ゲームにはその力が不可欠なんだよ」おばあちゃんのいうことは嘘じゃない、そうわかったので、とても嬉しくなりました。おばあちゃんの言葉や笑顔からは、お線香とは違ういい匂いがします。他の大人達とは違う、匂い。前にそのことをおばあちゃんに言うと、おばあちゃんは笑ながら「もう大人を卒業しちゃったからかな」と言いました。28「じゃあ、アバズレさんにも先を見る力があるのね」「どうかな。大人は子どもに違って過去を見る生き物だから」「でも、アバズレさんは私より強いわ」「生きてる時間が長いからね。どうやったら勝てるのか、なっちゃんよりもよく知ってるのさ」おばあちゃんは生きてきた時間のことをよく言います。誰かに、おばあちゃんは私がこれまでに行きた時間を7回も過ごしてるのだから、それくらいあれば私にだって美味しいマドレーヌが焼けるかもしれません。いつ目のマドレーヌを食べ終わり、お皿に乗った二つ目に手をおばそうとしたけど、結局何も取らずに手をひっこめました。今日はヤクルトもアイスも食べてりうのに、このマドレーヌを2個も食べてしまったら、お母さんの作った夜ごはんが食べられなくなってしまいます。マドレーヌのことを忘れるために、私は違うことに頭を使うことにしました。「おばあちゃん、今度学校で幸せについて考える授業があるのよ」「それは面白そうな授業だね」「そうなの。だけれど、とても難しいわ。いくつでも言っていいのならいいんだけど、授業の時間って、限られているし、クラスには私だけじゃないから」29「そうだね。きちんとまとめて、物事の真ん中をつく答えをしなくちゃいけない」「ひとみ先生をびっくりさせて、皆を納得させるような答えを見つけたいわ」私はひとみみ先生に褒めらる自分を想像し、得意になりました。つい調子に乗って、マドレーヌに