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「また、同じ夢を見ていた」住野よる ,ページ 246(第9.3)

「また、同じ夢を見ていた」住野よる ,ページ 246(第9.3)

One Straw Revolution

July 30, 202425m 15s

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Show Notes

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学校について、教室に近づくと、桐生くんは私の服のところをちょびっと掴みました。まさか女の子のお尻を触りにきたわけじゃないだろうから、何も言いませんでした。それに、桐生くんの気持ちはwたしにも分かったからでうs。

分かったからこそ、私は、胸を振りました。まだアバズレさんやひとみ先生のようにふくらんではいないけれど、その胸を精一杯振りました。怖いっていう思いに、うなだれてしまっては相手の思うつぼなのです。そういう時こそ、胸を張って、たとえ嘘でも、強いふりをした方がいいのです。それは、前にお父さんと夜の道を歩いた時に教えてもらったことです。

私が先に、桐生くんが後に、教室の後ろのドアから入ると、まるで時間が止まった見たいに教室の誰もがこっちにめを向けたまま固まってしまいました。でもそれも3秒くらいのこと、すぐにそのストップは再生に変わって、皆が私達から目を逸らしてざわざとし始めました。ただ一人、笑顔で私達の方を見てくれていたのは、当然、

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「はい、皆授業中よ、静かにしてね。小柳さんと桐生くん、ちょうどよかった。少し遅刻だけど、まだ授業は始まったばかりだから、安心して」

私は、お嬢様みたいにスカとの両端をつまんで人み先生に膝を折って挨拶をしました。きっとひとみ繊維には「メルシー」と聞こえていたでしょう。行ってないけれど。桐生くんは必ずかしそうに、困ったように、ひとみ先生に頭を下げてから自分の席に座りました。あ、そういえば、

「先生、今日の教科書全部忘れたから、桐生くんに見せてもらいます」

私が大きな声で言うと、教室はまたざわざわしt、でもひとみ先生は「明日からは気をつくてね」と私が机を桐生くんの方に動かすことを許しくれました。私は、今日は学校に来ないつもりだったので初めから何も持ってきていなかったのです。

二人で後の棚にランドセルを置いて、早速授業を受ける準備が出来ました。

今は一時間目が始まって15分が経ったところ。今日の一時間目は国語。ちょうどいいんじゃない?そう思っておくった桐生へのウインクは、俯いている彼に気づいてもらえず空に消えていきました。

今日の国語の授業も、もちろん幸せについて。もうすぐ来る、この授業の最後の発表のために、前回の授業で読んだ幸せについての短い話のことを、ペアで話し合います。

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桐生くんはそのお話を読んでいないので、まずは私がそのお話について説明をしなくちゃいけない。そう、思っていたのですが、桐生くんはそのお話を読んでいました。ひとみ先生が家に持ってきてくれたプリントを、部屋できちんと読んでいたのです。

いつもよりもっともっと控え目な桐生くんと、私はそのお話について話し合いました。足りないものが足りるようになるのが幸せだとか、もし足りなくてもそれで満足出来るって思いこめば幸せなのかも、とか、まあ桐生くんは俯いてたのでほとんど私が言ったことです。私達が話し合ってる最中にも、クラスの子達がこちらをちちちら見ているのがわかりました。無視する壁にきにするなんて、頭のお菓子いことだと思います。

そんな中、ひとみ先生が私達のところにやってきました。先生は、話し合い中、色んなペアのところを回っているのです。ひとみ先生が来て、まずはしていなかった朝の挨拶をしました。

「おはようございます。ひとみ先生」

「うん、おはよう。桐生くんも」

桐生くんは、俯いたまま小さいな声で、「おはようございます」と言いました。別に怖かっているわけではありません。彼もひとみ先生に会いたがっていたのですから。こういう時の気持ちはこう言います。気まずい。

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気まずい時は私にだってあります。授業参観の前、お母さんと喧嘩した時なんてまさにそれでした。だから知っています。気まずい状況っていうのは、いつかは自分で解決しなくちゃいけないってことを。

私は、ひとみ先生に見えないように桐生くんの手を握りました。私の勇気を、少しでも分けてあげられれば、そう思ったのです。だけど、そんなことは必要ありませんでした。桐生くんは、私の手を一回ぎゅっと握ってから離しました。そして、ひとみ先生に何かを訊かれる前に、顔を上げたのです。

「せ、先生、幸せがなんなのか、授業参観の時に言ったのとは、べ、別のことが、見つかりました」

たどたどしく大きな声をはいえない発表。私はただ彼を心の中で応援しました。つまり桐生くんのことをずっと考えていました。これがアバズレさんの見つけた幸せ。

じゃあ、桐生くんの幸せは何?そんなの私も桐生くんもずっと前から知っています。

その時、私は、それが決めて桐生くんの口から言われるのを誇らしく思いました。だって、彼のファンはまだきっとこのクラスに私だけから。そういうのってあるでしょう?

「へえ、どんなこと?」

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ひとみ先生は桐生くんの突然の発表に驚いたかもしれません。でも、そんな声を一切せずに、とても優しい顔のまま、桐生くんに訊きました。ひとみ先生が好きな子なら、なんでも話してしまいそうになる顔です。

桐生くんは、ひとみ先生のその顔をじっと見たまま唇をぐにぐにとさせました。気がつくと、クラスの子達がこっちを見ています。私は今まで桐生くんのことなんて気に欠けもしなかった癖に、と思うのと一緒に、ちょうどいいわとも思いました。桐生くんの本音を皆に聞かせるチャンスがやってきたのです。

さあ、言ってやりなさい。

「ぼ、僕が幸せな時は、絵を。。。」

ところが、桐生くんの言葉は、途中で止まってしまいました。ひとみ先生は優しい顔のまま、桐生くんを持っていますが、私は大きく目を開いて彼の方を見ました。まさか、ここまできて怖気づいたんじゃないでしょうねと、もしかすると彼を責めるような目をしてしまっていたかもしれません。

だから、この時のことを私は反省しなくちゃいけません。私は桐生くんのことを勘違いしていた。味方だったことは本当だけれど、やっぱり少しだけまだ彼を弱い子だと思っていたのです。そのことを、あやまらなければなりません。

おばあちゃんの言葉を思い出します。

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ひょっとしたらその子はなっちゃんが思うよりも弱っちくないかもしれない。

言葉を一度切った桐生くんは、息を何度が吸ったり吐いたりした後、一度唇を噛んでから、こんなことを、胸を振って言ったのです。

「僕の、幸せな」

「うん」

「僕の絵を好きだって言ってくれる友達が、隣の席に座っていることです」

まったく、人生とはオセロみたいなものです。

黒い嫌なことがあれば、白いよいこともある?そうじゃ

ないわ。

だって一枚の白で、私の黒い気持ちは一気に裏返るのよ。

とても、とてもいい日は、その場面を見ていない大切な人にそのことを伝えたくて仕方がなくなってしまいます。だから私は学校が終わると、桐生くんとの挨拶もそこそこに走って家に帰って、ランドセルもそのまま、尻尾のちぎれた彼女と会って、そしていつものクリーム色の建物へと行くことにしました。

「しあわせは!あっるっいってこないー」

「なー?」

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いつもよりずっと気分よく歌っていると、黒い友達は一緒に歌ってはくれず変な顔をしました。

「何よ」

「ナー」

「いいでしょ、たまには。本当にいつもだったらいいんだけど、たまにね、すっごくいい日っていうのがあるのよ。あなたにだってあるでしょ?」

「ナー」

彼女は気のなさそうな返事をしました。もしかすると、今日は彼女にとっていい日ではなかったのかもれません。もしそうなら、私のいい気分を分けてあげましょう。

「だーかーら、あーるーていーくーんーだねー!」

「。。。ナーナーナー」

呆れた顔で、やれやれと首をすぐめながらも、結局は私と歌いたい彼女。何よ、大人ぶっちゃってと私は思いましたが、素直じゃないところが男の子の心をくすぐるのかもしれません。

私が彼女から考えてもらうことがあるとしたら男の子の心を操る方法かしら。そんなことを考えながら堤防を歩きました。

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空を青く、草は緑で、土は茶色。人が歩きやすいように作れた少し柔らかい道は赤茶色。風は透明で、人は、その人自身の色。色々なものに色々な色がついていて、私はその中のどれもが好きです。

だけれどもが好きです。

だけれどやっぱり、堤防からクリーム色が見えた時、私の心は一番に弾んでしまうのです。

私は頭の中で、あばずれさんにお話しすることの順番を考えました。

まずはもちろんアバズレさんにお礼を言わなければなりません。今日、私がこんなにもいい気分でいられるのは、アバズレさんのおかけなのですから。それからは、今日あったことを朝から順に話します。大切じゃない部分は簡単に、大切な部分な少々大げさに。大切な部分に繋がる大切じゃない部分は、大切な部分を盛り上げるためにもったいぶって。桐生くんが今日みたいなことをする子じゃないことはもう一度強く言っておいた方が、驚きが増えるもしれません。

だけど、桐生くんがそんなことをする勇気があるんじゃないかと、おばあちゃんだけが見抜いていたことを話すのもアクセントとしてともいいと思います。

私はわくわくとしていました。それはもう、ココアの粉を熱いミルクが溶かしていくのを見るよりもずっと、ココアの匂いが香り立つのを嗅ぐよりもずっとです。

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ココアととても合いそうな、ケーキみたいなクリーム色の建物。その階段の横にまで辿り着き、私のワクワクも最高潮になって、茶色くなった階段に私が一歩を踏み出した時いつもと違うことがありました。

尻尾のちぎれた彼女が、階段をのぼろうとしなかったのです。

「どうしたの?」

訊いても、彼女は答えませんでした。「ミルクいらないの?」と訊いても何も答えませんでした。もしかして怪我でもして階段を登れないのかと、私が持ちあげようとすると彼女は私の手からするりと逃げてしまいました。

「変な子、じゃあそこで持ってて」

「ナー」

やっと答えた友達の声は、小さめでした。

どうしたというのでしょう。まあ猫には猫の、気分がよくない日というのがあるのかもしれません。階段を登りたくない日、そんな日もあるのでしょう。

私は、友達のことを気にかけながら、やっぱり気持ちはアバズレさんにするお話の内容に向いていました。アバズレさんの家の前まで来て、あらかたお話の進め方を決めてから、私はチャイムに手を伸ばします。

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ピンポーンと軽いチャイムの音が中から聞こえて、そこで、私は「あら?」と思いました。上を見ると、アバズレさんの家の表札にあった、失礼だけどとても綺麗じゃない文字で書かれた名前が消えていました。

描き直すのかしら?前もアバズレさんに言いましたが、私はとても字が綺麗なので、よかったら私に書かせて欲しいものだわ、とそう思いました。

アバズレさんは中から中なか出てきませんでした。なのでもう一回、私がチャイムを鳴らすと、中から物音がしました。もしかすると、アバズレさんは今起きたのかもしれません。相変わらず、お寝坊さんね。私はしばらくくすくすと笑っていました。でも、アバズレさんは出てきませんでした。

いるはずなのに、そう思って私はドアをノックしました。それから元気に「こーんにーちはー!」とドアに向かって挨拶までしました。

すると、少し時間はかかりましたが、鍵の開く音がして、ドアノブが回りました。友達とその日初めて会うの時、例えば今日が特別にいい日ではなくても、私はいつもどきどきわく枠としてしまいます。

それ、なのに、私のわくわくは一気に霧となってしまいました。

思いもかけないことが、起こりました。

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アバズレさんの家から出てきたのは、優しくて綺麗なアバズレさんではなかったのです。きっと、アバズレさんと同じくらいの歳の男の人でした。

私とそのお兄さんは向かい合って、同じ顔をしていたと思います。驚いていたのです。優しそうなそのお兄さんは目を大きく開いて、それからその目をきょろきょろとさせました。だからきっと、相手が誰なのかはじめに気が付いてたのは私なのだとと思いました。

「もしかして、アバズレさんの恋人さん?」

あれだけ綺麗なアバズレさん。特別な人がいたって不思議は一つもありません。もしそうなら私は挨拶をしなくちゃいいけないと思いました。

「初めまして、私は小柳なのか。アバズレさんの友達なの」

私は丁寧に自分紹介をしました。なのに、お兄さんと眉毛の間に皺を作って、とても不思議そうにしていました。

「アバズレさん、今日は留守?」

私の何も特別じゃない質問に、お兄さんは今度は首を傾げました。そしておかしなことを言ったのです。

「あの。。。なのか、ちゃん?」

「ええ、そうよ」

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「家を間違えてると思うよ。ここは僕んちで、その、アバズレ?って人はないな」

私は、もうちょっとで首がぐるんと一周してしまうかと思いました。

「そんなことないわ。お兄さんと私は初めて会うけれど、私はここに何度も来てるのよ。もしかしてアバズレさんと私を驚かそうとしているの?」

何かのサプライズもしれない。私はそう思ったのですが、違うようでした。お兄さんは困ったように笑いました。

「あんまりその言葉は使わないほうがいいよ。その、アバズレ、っていうの」

「アバズレさんはアバズレじゃないの」

「んー。まあ、どっちにしてもその人はここにはいないから、きっと君の勘違いだと思う。他の建物かもしれないし、もう一度確認して」

声が、大きくなったのは、きっと私の頭を一つの思い出が通っていったからです。

私の中で膨らんで行った、不安と呼べる黒いもののことなんて知らないでしょうお兄さんは、もっと困った顔をしました。

「昨日も僕いたけど、君は来なかったよ?」

「嘘よ!お兄さんはいなかったわ!アバズレさんと、会ったもの!」

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「んー、困ったな」

お兄さんはついに言葉で困ったと言いました。私は知っています。大人が子供相手に困ったと言う時は、どうやってこの子は黙らせればいいのかと考えている時なのです。

「そうだ、なのかちゃんは夢を見たんじゃないかな、その中にここと似てる建物が出てきた。僕も子供の時、夢に出て来た場所を何度も深したけど、見つからなかったことがある」

「夢。。。。」

いえ、そうじゃない。アバズレさんは確かにここにいたし、オセロだったした。プリンも食べた。手を握ってくれた。夢だったわけなんてない。

そう、心では思ったのに、絶対に違うとお兄さんに言い切れなかったのは、これもまた一つの思い出が頭を通り過ぎたからです。その名前は、南さん。

南さんとの不思議が、今のこの不思議な場面と重なって、でもそんな不思議なことが何度も起こるということを、私は私の賢さでは説明出来なかったのです。私のかしこさで説明するとしたら、三つの言葉でしか出来ない。それは、嘘か、魔法か、夢。

私はその中で、お兄さんの嘘だと考えたけど、でもお兄さんの様子は本当に困っているみたいで、嘘をついているようには目ませんでした。そういう匂いが、しなかったのです。

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私が言葉を返せないでいると、「ちょっと待ってて」と言って、部屋の奥にひっこnでいきました。そして帰ってきた時、その手のは一本の茶色いパピコが握られていました。

「はい、これ。今日は暑いから熱中症にならないようにね」

お兄さんがくれたパピコは、冷たくて気持ちがよかった。だけど私、は、それを見て知りました。この家に、本当にもうアバズレさんはいないのだということを。だって、アバズレさんの家の冷蔵庫にパピコが入っているはずがないから。

「1日で引越しなんて、無理よね」

「それは無理だろうな。それに、僕、ここにもう四年住んでる」

四年。それは、小学校である私にとっては途方もない長さでした。私は、わかりました。何もわからないけど、わかったのです。不思議が、また起こったことだけは。

お兄さんにパピコのお礼を言って、私はアバズレさんの家の前を離れることにしました。

お兄さんは優しく「じゃあね」と言ってくれました。

クリーム色の壁を伝って、階段を下りると、そこでは友達が持ってくれていました。私は気が付きます。

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「知ってたのね、アバズレさんが、いないこと」

彼女は、答えませんでした。その代わり、私の前を歩きだしました。その方向は、私達がもう何度も歩いた方向です。

私は彼女を追いかけました。私も、気持ちは一緒だったからです。南さん、アバズレさん。私の友達に続けて起こった不思議。二人どこに行ってしまったのか。分からないことを教えてもらうのには、私よりずっと長く生きた人に訊くのが一番です。なぜなら、私と同じ経験をしているかもしれないから。

歩いている途中、私は少し柔らかくなってきていたパピコの吸う部分を歯でちぎゃって食べてみることにしました。一口、二口、食べて、私は思いました。

「やっぱりちょっと苦いわ」

コーヒー味が苦手な私は、パピコの中身が溶けてから、それを通りかかったアリさんにあげてしまいました。



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