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Show Notes
第3
階段の終点近くに座っていた南さんと私は同時に悲鳴をあげ、尻尾のちぎれた彼女だけが嬉しい屋上にかけあがりました。
48
南さんはカッターをかちゃんと石の床に落とします。私は驚いてから、南さんとカッターと南さんの手首を身比べて、また驚きました。南さんの手首からは、赤い血が滴っていたのです。
「なんてことしてるの!治療しなくちゃ!」
「あ、あんた、何?」
「ばんそうこう持ってるから、これ貼って病院行きましょう!」
「ちょ、あのね、大丈夫だから騒がないでくれる」
慌てる私に対して、南さんはもう落ち着いていました。彼から知ったことですが、さすがは高校生さんです。
私は南さんのお願いを聞くため、ひとみ先生に教えてもらった方法でどうにか落ち着こうと思い、すっはっと息をよく吸い込んで吐きました。そうすると私の心に入った空気が隙間を作って、少し大きめのパジャマを着た時みたいに、気持ちがゆるりとするのです。
すーはー。すーはー。すーはー。
何度か深呼吸をして、気持ちがゆるゆるになった頃、私はやっと南さんにハンカチとばんそうこうを差し出すことに成功しました。すると南さんはしぶしぶ「持ってるよ」と言いながら、自分のハンカチで手首を拭きました。私は出したばんそうこうは、屋上の床に置かれたまま使われませんでした。
49
私は、口をへの字に曲げた南さんの手首を見ながら、思ったことを言いました。
「頭おかしくなっちゃたの?」
南さんはへの字をゆっくり動かして、退屈そうに答えました。
「かもね」
「なるほど、本当に頭がおかしくなると、自分の腕を切っちゃうのね、じゃあ私にはきっと無理。痛いのは嫌いだもの」
「私だって嫌いだよ」
「それなのに腕を切るなんて、やっぱり頭がおかしいわ」
「うるさいな。さっさとどっか行け」
私は南さんの言うことは聞かず、屋上に上がりました。
尻尾のちぎれた彼女と南さんの横に座って、血が出た手首をそうっと観察します。南さんが嫌そうな顔をした気がしましたが、怪我をしてる人を放ってはおけません。その痛そうな切り傷は、見ていると自分にうつってしまいそうな気がして怖くて、私は顔を南さんの顔へと向けました。
「何見てんだよ」
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「腕よ、凄く痛そう」
「子供はさっさと帰れ」
「南さんはどうしてこんなところにいるの?」
「関係ないいでしょ。って、その南ってのは何?」
「名前、書いてあるじゃない。小学生でもそれくらい読めるわ」
私は、南さんの紺色のスカートに刺繍してある文字を指差すしました。南さんの服は、制服と呼ばれるもので、その正方形みたいな規則正しさを、いつか私も着て見たいなと思っていました。
けれど南さんは自分で自分のスカートを見て、なぜだか溜息をつきました。
「どうしてたの?」
「別に、どうもしない」
「一人なの?」
「。。。別にいいでしょ、一人でも。誰かと一緒にる必要はない」
「確かに。それには私も同じ考えを持っているわ」
「子どもの癖に違そうな喋り方」
「違くないわ。まあでも、そこらの子ども達よりは、違いかも、本の素敵さを知っているもの」
51 (5:02)
「あんた。嫌われてんでしょ?」
「かもね」
私は南さんの真似事をしました。南さんはしかめっ面のまま、尻尾のちぎれた彼女を見ました。彼女も、南さんをを見つめて、首をかしげます。彼女きっと私と同じことを不思議に感じているのです。彼女は喋れないので、私は代表してそれを訊きます。
「ねえ、南さん」
「あ?」
「どうして腕を切っていたの?」
「。。。なんで、んなことを会ったばっかりのあんたに話さなくちゃいけないの?」
「いいじゃない。私、言いふらしたりしないわよ」
南さんはしかめっ面のまま、ぷいっと顔をそっぽこ向けました。だから、答えてくれないと思ったのだけれど、それは私の早とちりでした。
ややあって、南さんは静かに答えてくれました。
「別に、落ち着くの」
「落ち着くっていうのは、息を吸って心に隙間を作ったり、木で造られたおうちで太陽の匂いをかぐことを言うのよ」
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「それと同じように、私は落ち着くんだ」
「おかしな話ね」
「。。。ためしにやってみる?」
南さんは、血がついて固まったカッターの刃をチキチキチキと出して私に」向けました。私は慌てて首を横に振ります。
南さんはカッターをしまいながら少しだけ笑ったように見えました。本当は分かりません。南さんの目は、ほとんどが前髪で隠れていましたから。
「私が本当にやばい奴だったらどうすんだ。あんたみたいなガキ、刺されるよ」
「大丈夫よ。南さんからは、嫌な匂いがしないもの」
「何が大丈夫なんだよ」
嫌な大人の匂いがしないのよ」
私は、大人じゃないからね」
私は南さんの手首がやっぱり気になって、勇気を出して手を伸ばし、触ろうとしました。でも南さんはさっと手を引っ込めて膝を抱えてしまったので、私の手は空気に線を描きます。
「53」
「腕を切って落ち着く人がいるなんて、世界はまだまだだわからないことだらけ」
「子どもの癖に違そうに」
「ねえ、私、この場所があるんて知らないかったわ」
「あっそ」
「南さんはいつもここにいるの?」
小さな友人が尻尾を揺らしながら屋上を歩きまわり始めたので、私も立ち上がって彼女の後ろを追いかけます。歩いてみると、思ったよりも屋上は広いことが分かりました。南さんの手首の血が見えるくらい近くに戻ってくると、南さんは「何うろちょろしてんだよ」と言った後「私も最近見つけた」と言いました。
「ここで何をしているの?」
小さな彼女を胸に抱え上げてくるくるまわっていると、胸元からうめき声が聞こえてきたので放してあげました。彼女は地面がなくなったようにふらふらしながら、南さんの足元でぽてんこけ、私はそれを見て笑います。
「いじめるなよ」
「いじめてないわ。遊んでるの」
「南さんは黒い毛並みが気に入ったみたいで、彼女の背中をなでました。彼女が気持ちよさそうに可愛い声で鳴くのを聞いて、おべっかまで使えるなんてやっぱり彼女は悪い女だわ、と私は思いました。
54(9:20)
「それで、南さんは何をしているの?私だったから、こんな広い場所があるなら踊るかな?南さんもそう?
「踊らねええよ、別に、座ってたり、空を見たりするだけ」
「あとは腕を切ったりね。よく見たら、何本も切った痕があるじゃない。本当に死んじゃうわよ」
私が指さすと、南さんは自分の腕を眺めて「ふう」と息を吐きました。どういう意味なのかは、分かりません。この話を続けていいのかも、分かりませんでした。南さんは、話をしたいようなしたくないような、そんな難しい顔をしていたのです。子どもの私が、きっとしたことのない顔だと思いました。私はしたい話はするし、したくない話はしません。
私は、南さんのした顔についてアバズレさん達と話しあってみようと思いました。大人のことは、大人に訊きましょう。代わりに、実はもう一つお話ししたいことがあったので、私はそっちに目を向けることにしました。
「ねえ、南さん」
「んだ、うるさいなあ」
(55、10:55)
「私、実は南さんは絵を描いてるんじゃないかと思っているんだけど」
「どうしたんだ、突然」
私は、南さんが密かに体の陰に隠していたノートとペンを覗き込みました。私の言いたいことがわかったのか、南さんはすぐにノートとペンをお尻の下に敷いて、あんたが見たのは幻だよ、ノートなんてないよ、という顔をしましたが、私はそれが嘘だとわかるくらいかしこいので、南さんのお尻を指さしながら言いました。
「なぜ、絵を描いている人はそれを隠すのかしら。うちのクラスにもいるのよ、とっても素敵なことなのに、絵を描いているのを知られるのが嫌な子が。どうして披露するのを嫌がるの?」
「。。。。」
しばらく、南さんは空を見上げて黙っていたしたが、黒い小さな彼女がモンシロチョウを追いかけだすと、また「ふう」と息を吐いて、言いました。
「絵じゃない」
南さんは少しだけ間を空けて、まるで勇気を振り絞るように、言いました。
「文章を書いてる」
「文章?日記を書いっているってこと?」
(56)
「違う。。。お話を、書いてる」
「ええ。。。つごく素敵」
一瞬、つぶれてしまうんじゃないかと心配になるくらいギュッと目をつぶった南さんは、私の心から飛び出た言葉に驚いた顔をしました。少し、私の声が大きすぎたのかもしれません。
でも、南さんは私の雄たけび驚いたんじゃないとすぐに分かりました。南さんは、とても不思議なことに驚いていたのです。
「笑わ、ないの?」
彼女の言葉の意味が、私には分かりません。
「笑う?笑うですって?私が?まだ面白いショックを読んでもないのに、笑えるわけないでしょう。もし物語を書いている人を笑うって意味だったら、私、本を読んでいる最中にお腹がよじれれて死んじゃうわ。南さんは、物語を書いている人を見たらそれだけで面白くて笑うの?」
私の質問に、南さんは首をぶんぶんと右に左に振りました。揺れる前髪、初めて木ちゃんと覗いた南さんの目は、アブズレさんやおばあちゃんと同じでとても綺麗でした。
「そんなわけない!」
57、14:10
南さんは、首を振るのをやめて私みたいに突然大きな声を出しました。私は驚いたりしません。こんなことに驚いていたら、私は自分にびっくりししすぎてやっぱり死んじゃうことでしょう。
驚いたりしなカッタ私は、南さんにきちんと正直な今の気持ちをお願いしてみました。
「ねえ。その物語を読ませて」
その言葉にも、南さんは「えっ」と驚いた様子でした。物語があれば、それを読みたいと思うのはとて自然なことだけれど、私ぐらいの歳の子が普通そうじゃないのは知っているので、南さんの驚きは少しだけ分かりました。
「私、さっきも言ったけれど、物語の素敵らしさを知っている歌詞こい子なのよ」
「だから何だっていうの、嫌だよ」
「どうして?あ、もしかして他に先的があるのかしら?」
「そんなの、ないげど」
「じゃあ、お願い。私に読ませてよ。私、物語の素晴らしさを知っているし、それに、実はね、私いつかは物語を自分で書いてみたいと思っているの」
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私のお願いには、顔をぴくりとも動かしてくれなかった南さんが、私が打ち明けた秘密には唇の力を緩めてくれました。それから、口元に手を当てて、「うーん」と唸ってから、しょうがなくしょうがなくと言った漢字でしたが「なんで初対面のガキに」なんて言って、ついたは私にノートを渡してくれたのです。
きっと南さんは知っているのでしょう。女の子の秘密は安くないってこと。
誰にも言わなかった秘密。私はいつか出来あがった物語で皆を感動させて驚かせてあげようと企んでいたので、これを人に言ったのは初めてでした。その甲斐あって、私はた新し物語と出会うチャンスを手に入れることが出来ました。こういうのを取引っていいます。
「あ、待って」
「なんだよ」
「すっかり忘れてたわ。私、今、宿なしハックの物語を読んでいるんだったわ」
「ああ、私も子ども頃読んだ」
「私ね、いつの物語を読んでいる途中で他の物語を読まないことにしているの。つの世界をめいっぱい味わいたから、そういう決まりごとおとをしているよ」
「じゃあ返せよ」
南さんは唇を尖らせて、ノートを取り上げてしまいました。その後小声で、気持ちはわかるけどな」と呟いて、そのノートをまたお尻の敷きました。まるで、誰かに見からないように隠した宝箱みたいに。その想像で、私はますます南さんの書いた物語が読みたくなりました。
「59」
「ハックはすぐ読み終わるわ!そしたら南さんの物語を読ませてね」
「別に忘れくれていいよ」
「いいえ、忘れない。人生とは冷蔵庫の中身みたいなものだもの」
「んだ、そりゃ」
「嫌いなピーマンのことは忘れても、大好きなケーキのことは絶対に忘れないの」
「南さんは唇の端で息を抜くように笑って、それから、「偉そうなガキ」と言いました。
私は悪口を言われている様n秋には全然なりませんでした。それから南さんは、ずっと私のことをガキと呼び続けました。それが子どもも乱暴にした言い方なのだとは知っていたけれど、南さんのガキのいう言葉には、アバズレさんの言うお様ちゃんや、おばあちゃんの言うなっちゃんと同じ、素敵な匂いがっまっていました。
私は、南さんは私のことを友達だと認めてくれたのだと思いました。きっと南さんも私と同じで物語が大好きだったからでしょう。私は、世界中の人が物語を好きになれば、世界は平和になるかもしれないと思いました。こんなに楽しいことがあると知っていれば、人を傷つけたりしようなんで誰も思わないはずです。
60(19:41)
でも、そう思ったからこそ、南さんが自分の腕を傷つけることのい意味がよく分かりませんでした。
南さんは自分の腕を切ることについてはあんまり話してくれなかったから。でも、それ以外のこと、例えば本のことについてはしぶしぶな柄もきちんとお話をしてくれました。
南さんは私よりもたくさん本や物語のことを知っていました。でも、そんな南さんも「星の王子さま」をきちんとは話からなかったみたいで、私は高校生さんでもわからない問題を解けるおばあちゃんは凄いと思いました。南さんは、砂漠のキツネが好きだと言いました。
「じゃあ、また来るわね」
「来なくていい。でもまあ勝手にしたら、別にここは私の場所じゃないから」
「南さんの物語、楽しみにしているわ」
「知らん」
「もう腕を切っちゃ駄目よ」
南さんは何も答えず、私と尻尾のない彼女に向かって追い払うように右手を振りました。私は黙って夕焼け空を眺める南さんを明がら、友達と一緒に慎重に階段を下りていきました。
「61」21:11
今日、私の日常にまた、歩いてく場所が増えました。
「しっ合わせはー、歩いてこない。だーかーら、歩いてくんだね」
「ナーナー」
猫なで声を出す彼女と歌いながら山を下りていくと、小さな公園には、もう子ども違うはいませんでした。
その代わり、一人の大人が、まるで揺れていないプランこに、とても悲しそうな顔で座っていました。私はその人のことがとても気になりました。その人のことを、私はどこかでみたことがあるような気がして、でもそれが誰なのが全く思い出せないかったのです。
だけれど私は追いかけてくる時間と、置いていこうとする尻尾のない友達の方を気にして、その日はそのまま家に帰ってしまいました。
家に帰ると今日は珍しくお母さんの方が私より先に家についていました。 お母さんは私がテーブルの上に残したプリントと手帳お見比べ、私に授業参観についてのとても嬉しい報告をくれました。私はますます幸せについて本気で考えなくちゃいけないとやる気になりました。私はお母さんとの約束を大切な心の宝箱に入れて、柔らかいベッドの中に潜り込みました。
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