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Show Notes
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給食が終わって、昼休み。掃除の時間の後、いつもなら馬鹿な男子達の騒がしい声が響くだけの教室には、通段はいない大人達がまるでちっちゃい鳥みたいな声を出していました。
今日は、授業参観の日、特別なイベントの日だと分かってはいましたが、実際に来てみると、その居心地の悪さは私が思っていたよりも上の上で、私はとりあえず授業が始まるまでの時間、どうしていいか分からず、机に突っ伏していました。すると、私の体調が悪いと思ったのか、珍しく桐生くんが声をかけてきました。
「こ、小柳さん、大丈夫?」
「ええ、大丈夫よ。お気遣いありがとう」
「小柳さんは、お父さんとお母さん、どっちが来てるの?」
まったく、桐生くんたちたまに自分から口を開いたかと思えば、ろくなことを言いません。
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「どっちも来てないわ。仕事が忙しくいの」
「そ、そうなんだ」
「桐生くんのところは、あのお父さんが来てるの?」
「ううん、お父さんは仕事だから、お母さんが来てるんだ。あの日、堤防であった時はお父さんが休みだったんだよ」
桐生くんがいつもよりもよく喋るのは、お母さんが来てくれるのが嬉しいからでしょうか。私は素直に、いいなと思いました。悔しくてお話を続けるのが嫌だったから、私は桐生くんに、桐生くんお父さんは公園と関係のあるお仕事をしているの?とは、気になったけど訊きませんでした。
いよいよ授業が始まって、ひとみ先生が私達に挨拶をさせました。クラスの挨拶はいつもより少しだけ大きく、私以外の皆がお母さんやお父さんの前で振り切っているのが見え見えでした。ひとみ先生が「皆いつもより元気ね」と言ったので、私はやっぱりひとみ先生は的外れだわと思いました。
今日の授業は、これまで考えてきた「幸せとは何か」の答えについて、途中までの考えを発表しあうものでした。クラスの一番前に座っている子から順番に立って、考えを発表していきます。
110(2:58)
私と桐生くんは、並んで後ろの方に座っているので、発表の順番も後ろの方。後ろに座っているから、たくさんの大人達がさえずりあうのがよく聞こえて、私はひとみ先生はどうして注意しないのかしらと思いました。
私は、ひょっとしてもしかすると誰かの答えの中に私の幸せのヒントがあるかもしれないと思って、黙って発表を聞いていました。でも、そんなことはありませんでした。皆、おやつのことや、遊びのことなど、私が今までに思いついたけれども捨ててきたアイデアばかりを並べたてたのです。そんな中、一人だけ、ほんのことを言っていた荻原くんはさすがと思いました。
段々と段々と、私の番が近づいてきて、ついに横の桐生くんの番になりました。
桐生くんは絵のことを言うかしら、そう少しばかりの期待を向けていた私は馬鹿みたいでした。桐生くんは、おっかなびっくりその場で立ち上がり、快適た作文を持ちあげ、三つ前の子が言ったつまらないことと同じことを言ったのです。
「いくじなしっ」
座った桐生くんに私の声が届いたかは知りません。でも、彼は相変わらず何も言い返しませんでした。
それで、私の番がやってきました。
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私はゆっくりその場で立ち上がります。宿題でこの日の発表のためにきなさいと先生に渡された作文用紙。それを、読み間違わないようにしっかりと見ます。私の作文、その一文目には、そう、書かれています。
別に、お母さんもお父さんも着ないから宿題をさぼったのではありません。私は、私の小さい頭でいっぱいいっぱい考えました。南さんがでした答えの意味を考えたり、南さんが泣いていたことをお見い出したりしました。でも、それでも私にはまだ私の心にすっぽりとはまりこむ形の答えが見つからなかったのです。
嘘をつくのはいけないことです。だから私は、考えて考えてこういう発表を選んだのです。
ひとみ先生の笑顔を見て、俯く桐生くんを見て、こちらを向く荻原くんを見て、私は作文を胸の高さまで上げて、読み上げます。読み上げ、ようとしたその時でした。
誰か廊下を走る音が聞こえてきました。パタパタパタ。それは私達の履く上履きの足音ではありません。まったく、大人になると廊下を走っちゃいけないっていうことも忘れてしまうのかしら。私はそのパタパタを無視して、さっさと読み上げてしまうことにしました。
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でも、それは出来ませんでした。パタパタは私達の教室の前で止まり、あまつさえ教室の後ろドアを開けたのです。
もう、誰よ、私の発表の邪魔をするのは。
そう思ったのと同時でした。ひとみ先生が、廊下を走ってた悪い大人を注意するなじゃなく、とびっきりの笑顔を作って、こう言ったのです。
「ちょうどよかった」
何が、ちょうどよかったの?私が首を傾げると、ひとみ先生は教室の後ろに向けていたとびっきりの笑顔を、なぜだか私に向けたのです。
私は思わずふり向いてしましました。振り返ってしまいました。
そして、ひとみ先生と同じ顔になってしまった私は、こう、作文を読み上げたのです。
「私の幸せは、ここに今、お父さんとお母さんがいてくれることです!」
私は、アバズレさんと約束を破っていまいました。お父さんとお母さんにかしこい私を見せると言ったのに。私は、ただ、馬鹿な子どもおのようにその時その場で思ったことを言うことしか出来なかったのです。
でも、その言葉には一つも嘘はありませんでした。その先を用意してなかったから、私の発表は誰よりも短いものになってしましまた。それなのに、ひとみ先生はとびっきりの笑顔のまま、私に拍手くれました。
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「どうしても行きたいって、お父さんと話ししてね、午前中でお仕事切り上げてきちゃったの」
その後、私達は久しぶりに家族三人でご飯を食べました。どこかのレストランに行こうと言われたのですが、私はお母さんの料理が食べたいと言いました。私のわがままを、お母さんは笑顔で許してくれました。
とっても美味しい大きなコロッケを食べながら、私は、南さんにお礼を言わなくちゃいけないと思い、明日学校が終わったらすぐにあの屋上にちっちゃうな友達と行こうと、心の深い部分で決めました。
次の日、学校が終わってから私はすぐに黒色の彼女と持ち合わせて、丘の方へと向かいました。いつもなら誰のところに行くかレストランのメニューを見るよりも迷って決めるのですが、今日は朝から南さんのところに行くと決めていました。
丘の下の小さな公園では、いつものように私よりも小さな子ども達が走りまわっていました。いつもなら、お母さんと一緒に公園に来ている子達を羨ましく思ったかもあしれませんが、今日はそんなことはありません。私は、もうお母さ達と私の繋がりを知っているから。
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右の坂道と左の階段、私は自分で左の階段を選びます。私のおでこが階段をおぼる前から汗をかいているのは、元気一杯のお日様のせいだけではありません。私の頭が、南さんに会える楽しみでいっぱいだからです。
一歩一歩階段を登っていく途中、今日は珍しく私達以外の人とすれ違いました。もしかすると、あの建物のもち主かしら。そうだったら私はいつも使わせてもらってるお礼を言わなければなりません。でもヒットしたら勝手に入っていることを怒られるかも、と思って私はスーツ姿のおじさんに「こんにちは」とだけ挨拶をしました。おじさんは不思議そうな顔をしていましたが、優しく「こんにちは」と返してくれました。大人はどうしてか、子どももに挨拶はきちんとするように考える癖に、挨拶をされると変な顔をする人がほとんどなのです。
しばらく行くと、いつもの鉄の門がめてきました。普段は開いていることがはとんどですが、たまに誰かがチャックに来るのか、閉じている時もあります。
今日は、閉じていました。そして、決めて見る様子がそこに広がっていました。鉄の門の奥には長く続く階段が見えていたははずなのに、今日はその階段が二人の大人の体で隠さわかいいいました。二人の前には、黒と黄色のしましまのテープが張られています。
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どういうことかしら?私が、わからないことを素直に大人に訊こうとすると、二人のうちの一人、私のお父さんより年上に見えるおじちゃんが話しかけてきました。
「お散歩中ごめんね、お嬢ちゃん。ここから先はいけないんだ」
「そうなの?どうして?」
「上の方で工事しててね。危ないからここで通行止めにしてるんだよ。」
私は首を傾げました。
「工事って、なんの?」
「上の方に古い建物があってね、崩れると危ないから、もう壊しちゃってるんだ」
上に、古い建物は一つしかありません。私は、思わず大きな声を出してしまいました。
「だ、駄目よ」
大人達は、驚いた顔をしました。
「もしかして、お嬢ちゃん達の秘密基地だったのかな?でもね。あそこは本当にもう危ないんだ。遊んでたら、いつか下敷きになっちゃうかもしらない」
秘密基地。その言葉は、私と南さんのあの場所の雰囲気にとてもしっくりとくる言葉でした。だから余計に、そんなぴったりの言葉を知ってしまった私は、その場所が壊されてしまうことが残念で仕方がありませんでした。何より、南さんの悲しむ顔を見たくないとそう思いました。
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「ねえ、今日ここに高校生の女の人は来なかった?」
「高校生?いいや、見てないな。おい、見たか?」
おじちゃんが隣の若い男の人に訊くと、彼は首を横に振りました。
「持ち合わせをしてたのかい?」
「ええ、そう。ねえ。その工事っていうのは、あの建物を持っている人が決めたの?」
「ん?ああ、そうだ」
「それから、仕方がない。私は思いました。大切にするのも、壊すのも、持っている人が決めることだというのは子どもの私にも分かりました。出来ることなら、大切にしてほしかったけど、あったこともない私の言うことなんて、大人な間にてくれないでしょう。
私は、とても、とても残念だったけど、あの建物、そして屋上を、諦めなければならないと知りました。
「ねえ、お願いがあるんだけれど」
私は優しそうな笑顔のおじゃちゃんに伝言を頼むことにしました。
「なんだい?」
「南さんという高校生の女の人が来たら、私はあの坂道をのぼった先の大きな家にいるって、伝えてほしいの」
117(15:24)
「ああ、約束しよう」
私とおじちゃんは小指を結びあって約束をし、私は尻尾のちぎれた彼女と一緒に階段を下りて、おばあちゃんの家に行くことにしました。
この日、私はおばあちゃんの家でお菓子を食べながら南さんを持ったのですが、帰る時間になっても、南さんは来ませんでした。次のひも次の日も、南さんは来なくて、おばあちゃんに南さんが来たら教えてほしいと言ったけれど、やっぱり私がいない時に、南さんは来ていないようでした。
しばらくして、南さんと会っていたあの建物のある広場にいくと、そこには砂利が敷かれた地面以外には何もなくなっていて、私はとても寂しい気持ちを、まるでコーンスープにコーンが1粒も入っていなかった時のように味わいいました。
結局、それ以来、南あんと私が会うことはありませんでした。
不思議なことがいくつかありました。一つは、同じ町に住んでるはずなのに、南さんとすれ違うどころか、南さんと同じ制服を着た高校生の女の人を一人も見なかったことです。
もう一つは、南さんから貰って、大切に机の中に入れておいたはずのあのハンカチがな具なっしまったこと。
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どこを捜しても見つからず、私わ残念という言葉では足りないくらい残念な気持ちになりました。
そして、最後の一つが一番不思議なことでした。私は南さんが書いていた物語がどんな話だったのか、一つも思い出すことが出来ななかったのです。あんなに惑動したはあずなのそうとしても、あんなに新しい世界を見たはずなのに、その満腹感は覚えているのに、いくら思いそうとしても、お話の内容を全く思い出すことが出来なかったのです。
不思議なことは素敵なこと、物語を読んでそれを知っている私でも、南さんとの間に起こった不思議には何度も首を傾げました。それが、南さんと私の別れとなりました。
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