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Show Notes
第8
次の日、宣言通り桐生くんは学校に来ていませんでした。私は、まだ心の中に昨日っ入ってきた真っ黒を残したまま、どうにかこうに学校に行きました。桐生くんがもしきていたら、学校に来いと言った私は絶対に休んでは駄目と思ったからです。
私の心は黒いままで、どうかこの黒い何かが休から出ていきますようにと願ったのに、その黒い全ていなくなってはくれませんでした。
私は、学校から帰りたくて仕方がありませんでした。早く友達に会いたい。それだけを願っていました。アブズレさんに、おばあちゃんに、尻尾のちぎれた彼女に、会いたたい。そういえば、ねえ、みなみさんはどこに行っちゃったの?
183 (1:16)
社会の授業中、私は会えなくなった友達のことを思い出して急にまた、泣きそうになってしまいました。だから私は授業の間の休み時間に図書室に行くことにしました。図書室に行けば、本の匂いが、本を閉じ込めている宝箱のような匂いが、私を慰めてくれると思ったのです。
私のそのたくらみは、少しだけ成功しました。黒いものは相変わらず私の中にいましたが、暴れるのを止めて私の涙を目の中に封じ込める努力の邪魔をしてくることもなくなりました。
これなら、どうにかこの黒いものを放課後まで飼い慣らすことが出来る。そうすれば、いつも通りアバズレさんの家に行ってアイスを食べ、おばあちゃんの家に行ってお菓子を食べられる。そうして、桐生くんのことなんか忘れてしまえばいい。嫌なことなんて忘れてしまえばいい。
そう思ったのです。でも、そう思えたのは少し間だけでした。
私はこの心の黒いものを晴らすのに、もっといい方法を見つけてしまったのです。
それは、図書室を出たところでした。少し先の廊下を赤いている、彼を見つけたのです。私は、彼の背中に近づいて、迷わず声をかけました。
184
「ごきげんよう、荻原くん」
荻原くんは、私の挨拶にとても驚いた様子で肩を震わせました。私は、彼が振り返るのを持ちながら、頭の中で荻原くんと話す内容について考えました。私は最近、「ぼくらの7日間戦争」を読んだわ。荻原くんは何を読んだのかしら。そんなことを考えました。
私は、もしかするとクラスにたった一人かもれない、私のことをいやいじゃない人と楽しいお話すすることで、心を少しでも元気に出来たらと、願ったのです。それだけのことを願ったのに。
人生とは、風邪を引いた時に熱をはかるみたいなものなのですね。
大体いつも、想像したよりひどい。
私は誰かに荻原くんの名前を呼びました。たのに、荻原くんはまったくこちらを振り向きません。それどころか、私のよびかけに答えず、少し早足になって教室のある方向に歩きはじめました。
もしかしたらきちんと聞こえてんかったのかもしれないわ、驚いたのは別のことに驚いたのかも、そう思って、もう一度、声をかけました。
「ねえ、荻原くん」
「。。。」
185(4:39)
彼は、答えませんでした。そして、止まりもしませんでした。おかしい。私はもう一度、呼びかけました。
「荻原くん?」
彼はやっぱり、振り向きませんでした。それからは、何度も何度も荻原くんの名前を後から呼びました。少しずつ私の声は大きくなっていっていたんでしょう。教室に書く頃、私の声はもう、昨日の桐生くんと同じような叫び声になっていました。
「荻原くん!」
荻原くんは、私に答えることなく、席に着いて教科書の準備をしていました。子供、そして小学生の私は、薄々感づいていました。でも、それを認めたくなかった。だけれど、私の願いが届かないことは、クラスの男子達がにやにや汚い笑顔を浮かべながら私をみていたことで、わかってしまったのです。
無視、そういう名前の、この世界で一番頭が悪く、愚かな、いじめ。
私は今まで、そんなの気にしなければいい、そう思っていました。だけれど、今、私の心はさっきまでよりさらに深い黒に覆われてます。
私の心は、沈み込みました。こんなに正しい自分がいじめられているということに。そして、荻原くんがそんなバカなことに加わっているということに。
186(6:30)
これは後からしれました。、だから今の私には関係のないことですが、あの日、スーパーで万引きをして捕まった人が桐生くんのお父さんだったこと、証拠もないのに言いふらしたのは、荻原くんだったそうです。
でも、今の私にはそんなことはどうでもいい。私はただ、荻原くんに、私を取り巻く世界に、裏切られた思いで滅茶苦茶にされていました。
その日、私はその時間から、アバズレさんの家に行くまでのことを何も覚えていません。
気がつくと私は、本当に気が付くと私はあばずれんさんのいえのチャイムを鳴らしていました。ここまでどうやって来たのかも覚えていません。足元に尻尾の短い彼女もいません。いつも間にかアバズレさんの家のチャイムに指を伸ばしていました。
中からはあばずれんの「はーい」という眠そうで柔らかい声がしました。そこで、一回。少しの時間を置いて、ガチャリ、ドアが開いて見えたアバズレさんの顔で、2回。私をみたアバズレさんが、私の顔を見ても何も訊かず、「入んな」と言ってくれたので、3回。
私はアバズレんに促されるままに靴を脱いで、部屋の中に入って、部屋の隅っこでと膝を抱えてそこに顔をうずめました。
187(8:31)
もうとっくに見られているのに、自分がかわいそうでなくなんていうのは、まるで賢くない気がして、私は、一人小さな三角形になりました。
アバズレさんは、部屋に入ってからも何も訊きませんでした。ただ、冷蔵庫が聞く音がして、それからわた部屋しの近くの近いテープルに、何かが置かれる音がしました。
「今日見つけて、珍しいと思って、買ってきたんだ。食べな」
私は、アバズレさんが買ってきてくれたそれがなんなのかも水に首を横に振りました。私が熱っていると、アバズレんさんがまた立ち上がる音と、コーヒーの匂いが伝われってきました。どっちも、私が好きなもの。だけど、今は何も見たくありません。
アバズレさんは呆れているが、怒っているのかもしれない。そんなことも考えました。突然、家に来た子どもは泣いていて、何も喋ろうともしない、失礼この上ないガキなのですから。
アバズレさんは、コーヒーを入れるとまた同じ場所に座ったみたいでした。二人とも熱っているから、部屋の中には、クーラーの動く音しか聞こえません。
でも、それもちょっとの間のこと。他の音が聞こえてきたのは、すぐでした。
188(10:28)
「しっあわっせはー、あーるいーてこーない、だーかーらあるいーていくんだねー」
綺麗な歌声、私にはまだ出せない、高い中に低さの雑じった、まるで赤と青を美してく塗り分けた絵みたいな、そんなアバズレさんの歌声が聞こえて来ました。
私を元気つけようと誘ってくれているのかもしれない。そう思ったけれど、歌いたくなかった私は歌うことができませんでした。私が黙り込んでいると、一番をきちんと歌い切ったアバズレさんは突然、こんなことを言いました。
「幸せとは何か」
ぴくっ、私の耳が動いたことはアバズレさんにばれたでしょうか。私がもっと深く顔を膝にうずめると、アバズレさんはそんなことは気にしていないみたいに話を続けました。
「考えたんだ。お嬢ちゃんの話を聞いてから、ずっと」
「。。。」
「今日、その答えがわかった」
私は、思わず顔を上げてしまいました。でも、笑顔のアバズレさんと目が合いそうになって、すぐに顔をもう一度伏せました。
味は苦手だけど、香ばしいが素敵なコーヒーの匂い。アバズレさんの使う香水やお化粧のきらびやかな匂い。そして、アバズレさんが見つけたという幸せの答えというものが、私をくすぐります。
189(12:28)
部屋があまりに静かだったから、私のくすぐったさが、伝わってしまったのかもしれなません。アバズレさんは、コーヒーを一口こくりと飲んでから、私が訊かなくても続きを話してくれました。
「これは私の答えだ。だから、お嬢ちゃんの考えとは違うと思う。だけど、もしかしたら、何かのヒントになるかもしれないから、お嬢ちゃんに話しとこうと思うんだ」アバズレんは、私の相槌を持ちませんでした。すうっと息を吸ってから、こういいmした。
「幸せとは、誰かのことを真剣に考えられるということだ」
「。。。。」
「今日、買い物をしてた。明日の朝ご飯を買ったり、飲み物を買ったり、切れていたシャンプを買ったり。それは、毎日続く日常で、特別でもなんでもない出来事だ。パンを買って、牛乳を買って、リンスを買って、もう買い忘れたものは何もないかな、そう思った時に、そういえば今日、お嬢ちゃんは来るかな、来た時のためにおやつを買っておこう、この前は何を一緒に食べたっけ、今度は何を一緒に食べよう、お嬢ちゃんが来て、喜んでくれればいいな。気がついたら、私はお嬢ちゃんのことをずっと考えてた」
190
「。。。」
「気がづいて、驚いた。もう、ずっと、誰かのことを真剣に考えたことなんてなんかった。誰かを喜ばせたいとも、誰かと一緒にいたいとも、私は思わなくなってた。諦めてたんだな、私は、ずっと、なかったから分かった。人は、誰かのことを真剣に考えると、こんなにも心が満たされるんだって」
「。。。」
「私はね、お嬢ちゃん。嫌なことも、苦しいことも、諦めてしまう大人になっちゃったんだ。前は誤魔化してしまったけど、私は、幸せじゃなかった。幸せの形がどんななのかも、もう忘れちゃってたからだ。だけどね、私は、今日やっと思い出した。幸せの形を」
「。。。」
「お嬢ちゃんのおかげで、私は幸せの形を思い出せたんだ。ありがとう」
アバズレさんが那智上がったのが、音でわかりました。ところどころが軋む床。アバズレさんが動くと、ネグミの泣き声みたいな音を鳴らします。ネズミの声は、だんだんと私に近づいて来ました。そして、私の横で止まると、アバズレさんは私の隣に座りました。
アバズレさんの柔らかな体温が、届いてくる。そんな距離で。
「これで私の勝手な話は終わり、亜rが頭。聞いてくれて。大人の話はつまんないよね。なのに静かに聞けるお嬢ちゃんはさすが。よし、私のつまない話を聞いてくれたお返しだ」
191(16:52)
アバズレさんは、私が膝を結んでいる両手の上に綺麗な指を重ねました。
「お返しに、もし、お嬢ちゃんがしたい話があるなら、いつでも、いつまででも、聞くよ」
また、泣くかもしれない。私はそう思いました。でも、泣きませんでした。
アバズレさんの言葉、嬉しかった。優しさに溢れてて、でもそれが全然べたつかなくて、やっぱり私はこんな大人になりたいと思いました。それに、アバズレさんは私のおかげで幸せになれたと思いました。こんな嬉しことが、友達としてこれ以上が、あるのでしょうか。
こんなにも、嬉ししのだから、私は優しくてはしゃぐか、してもよかったのだと思います。でも出来ませんでした。
理由は、アバズレさんの幸せについての考えを、信じられなかったからです。
私は、しわくちゃになった声を、この部屋に来て初めて出しました。
「考えたわ」
「ん?」
「一生懸命考えたのよ!でも無駄だった!」
192(18:38)
つい、出てしまった大きな声、私は優しいアバズレさんに申し訳ないと思って、本当の心からの「ごめんなさい」を伝えました。
でも、大きな声以外の反感を、訂正はしませんでした。
「ちゃんとちゃんとちゃんと、考えたの、ずっとずっとずっと、考えてたの。アバズレさん言うみたいに、考えた。クラスメイトのこと、こんなに考えることなんてないくらい。だけど、そのせいで無視されるようになった。嫌いって言われた。何も、幸せじゃない」
「。。。そっか」
「もう、私は、誰とも関わらずに生きていくわ」」
「それは駄目」
アバズレさんの言葉は私を叱りつけている、そう思いました。大人として、学校の先生達みたいに。大人達はいつも言うの、有責や絆がこの世界で一番大事だって。だから私はそれの反対を言ったことを的外れに怒られるのだと思いました。私は、失望しました。それは、友達にすることじゃないから。
でも、アバズレさんの次の一言で、彼女は私を叱っているのではないと、分かりました。アバズレさんは触っていた私の手をぎゅっと握りました。そして、ありったけの悲しさをおしこめたような静かな声で、言いました。
193(20:57)
「私みたいに、なっちゃうよ」
私には、どうしてアバズレさんが隠しきれない悲しさを声の中に埋めているのか、分かりませんでした。
「だから、それだけは、駄目」
「。。。どうして?」
心の奥底からの質問でした。アバズレさんは、そんなに素敵なのに。私は思います。大人達が皆、アバズレさんみたいならいい。いいえ、全ての人がアバズレさんみたいに素敵ならいい。そうすれば、皆がかしこくていい匂いのする世界になる。絵なんか描けなくたって、綺麗な世界が見える。
「私はアバズレさんの手をぎゅっと握り返しました。すると、アバズレさんはゆっくりゆっくり、静かな溜息を吐きました。その溜息の意味が、私には分かりませんでした。また、部屋の中がクーラーの動く音だけになって真っ白の時間が少しあって、アバズレさんは、ややあって、こんなことを言いました。
「私ね、よく見る夢があるんだ。今朝、また同じ夢を見てた」
194(23:00)
「。。。どんな?」
「ある女の子の夢。その子は、とても賢くて、本もいっぱい読むし、たくさんのことを知っていて、そのことで自分は周りの人達とは違う、とても特別な人間だって思ってた」
何かの物語?私が訊く前に、アバズレさんは息継ぎをして続けました。
「自分を特別に思のは大事なことだよ。だけれどその子は、自分を特別だと思うことを勘違いしてた。周りの人達を全員、馬鹿だったと思ってたんだ。本当はそうじゃないのに、その子は賢いことで特別だったものだから、賢いことだけが、特別になるだった一つの手段だと思ってた。そうすれば、立派な人間になれるって、そう思ってた」
アバズレさんは、咳ばらいをします。
「その子は、立派な子供、だったのかもしれない。だけど、皆を馬鹿にしてる子が人に好かれるわけがない。その子はどんどん周りの人達に嫌われだした。そこでいけなかったのは、その女の子は、ちょうどいいと思っちゃったんだ。なぜなら、その女の子も、周りの馬鹿な子達が嫌いだったから。いや、今思えば本当は嫌いだったんだじゃない。考えることが出来なかっただけなんだ。誰のことも」
アバズレさんが私の手を握っていてくれます。
「その女の子を理解してくれようとする人もいたかかもしれない。でも、そんな人がいることも考えなかった女の子は、そのままどんどん大人になっていった。自分の世界に閉じこもって、ただ賢くなるためだけに時間を使った。そうすればいつか幸せになれると信じてた。だけど、違ったんだ」
195(25:18)
私は、そんなアバズレさんの手を握り返します。
「大人になって、その子はものすごくかしこくなった。だけど、それだけだった。ある時、気付いたんだ。自分の周りには何もないってことに。立派な大人になったはずなのに、Xめてくれる人もいないってことに気がついた」
私は、思いました。それってまるで。。。
だから、とてもその子のことが気になりました。
「その子は、どうなったの?」
アバズレさんは、大きく息を吸います。
「ここから先の話、全部話すけど、お嬢ちゃんには何を言っているのかわkらないと思う。だけど、もしわからなカッタとしても、どういう意味なのかは教えない。教えたくないから。それでもいいなら、聞く?」
私は、膝に顔をうずめたまま、こくりと頭きました。
「うんその子は、自分の人生に意味なんてないって思った。やっと気がついた。そして、もうどうでもよくなったから、自分の体を乱暴にあつかった。自分の心を粗末にした。危ないところに行って、危ないものに手を出して、危ない目にあった。だけど、その子は、それがい嫌じゃなかった。自分の人生を壊すことが気持ちよかった。自分で作ったものなのに、その子は自分の人生が嫌だった。壊して越して壊して、それでもお金はいるから、稼ぐために、また自分をないが白にした。気付いたら、そこの住人になってた。もちろんそこに住んでたって、誇り高い人や素晴らしい人はいる。環境や仕事が悪いんじゃない。その子が悪いんだ。誇りを持てないその子に訪れるのは、やっぱり破壊の毎日。でも、どんな生活にも、いずれは慣れが来る。慣れが来た時、そこでもう一度がつく。壊してきたことにもなんの意味もなかったって。それで、その子はもう、この人生を終わらせようと思った」
「。。。」
アバズレさんの言った通り、私にはアバズレさんのお話の意味が分かりませんでした。想像は出来るけれど、ぼんやりしていて、アバズレさんの言う危ないことや、心を粗末にすることがなんなのかは、全て分かりませんでした。
そんな子どもで、まだまだものを知らない私にもわかったことはたった一つだけ。きっと物語をよく読んできたから。
197(29:07)
「それが、アバズレさんなのね」
「。。。。」
「人生を終わらせるって?」
ただ、その子の続きが気になって下質問。アバズレさんは、「さあね』と言いました。
「結局、その子は人生を終わらせたりしなかったんだ。だから知らない。終わらせようと思ったその日、その子のところに突然、お客さんが来た。小さな友達を抱えた、女の子だった」
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