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Show Notes
「150・151」
次の日、私とアバズレさんの願いが通じたのでしょう、空は太陽さんの光をまくべんなく地球に配っていました。濡れた土も、小学校が終わる頃には固まって、私のお気に入りの靴も、尻尾のちぎれた毛皮のコートも汚れることはありませんでした。丘のしたの公園から、石の坂をのぼっていきます。晴れることはうれししいのですが、毎日どんどん暑くなっていて、私は全身から汗を流してひから日てしまうんじゃないかと心配します。おばちゃんの家までの道がし縮んでしまうような魔法を使おうとしたのですが、魔法を使えないことをすぐに思い出しました。
山の中は日陰が多く、コンクリートの道よりも、小さな彼女には心地よいようで元気一杯に坂をのぼっていきます。
やっとの思い出おばあちゃんの家に着いて、私はいつもの通りにすぐ扉をノックしようとしました。でも、そこで扉に紙が貼ってあるとい気がつきました。私は、字が読めない元気いっぱいな友達のために、その紙に書いてあったことを声に出して読みます。
「鍵は開いているから、好きに入っていいよ。なっちゃんへ」
私は、金色の瞳を持つ彼女と顔を見合わせてから出来た扉のドアノブに手をかけました。手紙の通り、扉に鍵はかかっていませんでした。
「おじゃまします」
お家に挨拶をしながら入ると、中はとても静かでした。いつもなら、おばあちゃんがお菓子を焼いている音や、甘い匂いをすぐに感じることが出来るのですが、今日はそれがありませんでした。
「おばあちゃんいないのかしら?」
152
「ナー」
彼女の足を玄関に置いてある濡れタオルで拭いてあげて、一緒に家に上がります。けれど、やっぱり私達の息遣いと足音以外には何も聞こえないみたいでした。
まず私は、日当たりのとてもいい居間に行きました。おばあちゃんはここで座ってお茶を飲んでいたり本を読んでいることがとても多いからです。でも、そこにおばあちゃんはいませんでした。おばあちゃんがいないだけど、そこはいつもよりもとても広く見えます。広い場所は好きです。なのに不思議です、その居間の広さはとても私の気持ちをざわざわとさせるのです。
ざわざわはあまり気持ちが良くないので、次に私達は家の一番奥にあるキッチンに行くことにしました。もしかすると、今日のおばあちゃんは音と匂いのしない料理をしているのかも知れないと思ったのです。
だけど、そんなことはありませんでした。よく整理されたキッチンは誰もいなくて、その広さと静けさはまた私の心をざわざわとさせました。
どうやら、おばあちゃんはいないみたいです。お買いもののにでも行っているのかもしれません。私とちっちゃな彼女もう一度顔を見合わせて、最初から約束していたみたいに居間に続く廊下に一緒に出ていきました。
153 (3:55)
お日さまの光が入りにくい廊下は晴くて、私は1秒でも早く通り坂けてしまいたかったのですが、こういう時に走ると怖いものに追い掛けられるというお話を前に読んだことがあったので、一歩一歩、私なんか追い掛けても楽しくないわよと唱えがら廊下を進んでいきました。
居間に行くまでの間にはいくつかの部屋の前を通ります。でも、ほとんどの部屋は空っぽです。ただダンスや机が置いてあるだけで、人の気配がしない空っぽの部屋です。元々はおばあちゃんの家族が住んでいた場所だったのだそうです。中身は、家族と一緒に出ていってしまい、外側だけが残ったそうです。
空っぽじゃない部屋は、おばあちゃんの寝屋だけです。その部屋には何度か入ったことがありました。そこにはおばあちゃんのベッドと、本棚が置いてあって、そこで私は本を見せてもらったことがあるのです。おばあちゃんの寝屋の前も迷いなく通り過ぎようとして、私はふっと足を止めました。可視化したらおばあちゃんはベッドで寝ているのかも知れないと思ったからです。私は晴い廊下の色に紛れている彼女に声をかけて、おばあちゃんの寝屋のガラス戸をノックしてから開けました。だけど、やっぱりそこにもおばあちゃんはいませんでした。
だから、本当ならすぐにその部屋を出て温かい日差しの振り注ぐ居間にいくはずでした。
154(5:45)
たのに、私がその部屋で立ったまま動けなくなったのには、特別な料理がありました。
私は、寝室の中に入って、閉まっていたカーテンを開けます。ほどよい光が部屋の中に入ってきて、部屋の中のものの色がはっきりすると、私が見つけたそれの色も一つ一つが命を持ったようでした。
それは壁にかかっていいました。私は、一歩、また一歩とそれに近づきます。その数秒、私は小さいな友達のことはもちろん、もしかするとおばあちゃんのことも忘れていたかもしれません。
「きれい」
「綺麗」という漢字も書けない子どもである私のその一言には、私が心に思い描いたものの全てがこもっていました。いや、本当は心の中でだけ咳いたつもりだったのに、この世界に漏れてきてしまったのです。
それは、絵でした。いくつもの色が折り重なった、美しい、絵でした。じっと見えていたら、その絵の中に吸い込まれてしまいそうなくらいの力が溢れていて、私は目を離すことが出来ませんでした。
もしかすると、私は本当に少しの間、その絵の中に入っていたのかもしれません。「なっちゃん」、そう声をかけられるまで、いつの間にか横に立っていたおばあちゃんに気がづきませんでした。
「155」(7:48)
いつもなら、突然声をかけられたりしたら私は跳び上がって驚くはずなのに、私はゆっくりとおばあちゃんの方を見ることができました。
「この絵、どうしたの?」
私は、おばあちゃんに訊きました。前にこの部屋に入った時には、こんな絵はなかったははずです。
「前に、友達が描いてくれた絵。ずっと2階の仕事部屋に飾っていたんだけど、あんまり仕事部屋を使ってないから、下ろしてきたんだよ」
おばあちゃんがなんの仕事をしていたのか、そういえば聞いたことがなくて、訊いてみようかと思ったけれど、いまはそれよりも目の前の絵のかたが気になりました。
「どうすれば、こんな絵を描けるの」
それは疑問ではありませんでした。後から知ったのですが、この時の私の溜息と一緒に出た咳きはこう呼ばれるそうです。感嘆。
「おばあちゃんには、凄い才能を持った友達がいるのね」
才能、まさしくそうだとおまいました。なぜなら私には、これからどれだけ練習したとしても、決してこんな素晴らしい絵を描ける自分を想像出来なかったからです。お姫様になった自分や、社長になった自分は想像出来るのにです。この魔法のような絵はきっと、特別な手を持った人にし描けないのだた思いました。確信しました。
156(9:49)
たのに、おばあちゃんはゆっくりと首を横に振ったのです。
「才能、だけじゃない。これを描いた彼と、同じくらいの才能を持った人はたくさんじゃないけれど、他にもいるの」
「そう」
私には信じられませんでした。こんな絵を描ける人が、この世界に何人もいるなんて。それは、この世界に魔法使いが何人もいると言われるよりもずっとびっくりすることでした。
「思ったよりもいるんだよ、才能がある人っていうのはね。でも、才能があるだけじゃ、こんなに素敵な絵は描けない」
「じゃあ、何?努力?」
「それも必要、だけど、もっと大事なことがあるの。おばあちゃんはね、この絵を描いた彼よりも、絵を描くことが好きな人を見たことがない。なっちゃんよりずっと長く生きてて、たくさんの人を会っても、あの人よりずっと絵のことを考える人には、会ったことがないの」
157(11:34)
「好きっていう気持ちが、こんな素晴らしな絵を作るの?」
「ああ、大好きなことに、一生懸命になれる人だけが、本当に素敵なものを作れるんだよ」
私は、ちゃんと思いで汗ないけれど、だから南さんのお話を読んだ私はあんなに感動したのね、と思いました。そして誰かさんに聞かせてあげたいわも思いました。
「好きで、才能もあるのに、すいなことを恥ずかしがってるようじゃ駄目よね」
「友達に、そういう子がいるのかい?」
「友達じゃないわ。だけど、その子も絵を描くの、ただ、それをとても恥ずかしがっているよ。ねえ、おばちゃん、この絵を描いた人は今、どうしているの?」
「家族と一緒に外国で暮らしているわ」
「そうなんだ、私ね、もしかしたらこの絵をを描いた人は、おばあちゃんの愛人なのかも知れないと思ったの」
私は絵から目を離すことが出来ませんでした、だからおばあちゃんがどんな顔をしているのかはわからなかったけど、返ってきたおばあちゃんの声は私とのお話を楽しんでくれれいるというのがよくわかりました。
「どうして?」
「だって、ここに、ラブって描いてあるわ」
158(13:20)
私は絵の右下、端っこを指さします。英語の読めない私にだって、それくらいはわかります。そこには確かに、英語でラブと、「あれ?」
「うふふふっ、なっちゃん、それは、ラブじゃないんだ。らぶはエル、オー、ブイ、イー。それは
エル、アイ、ブイ、イー。リブって読むんだよ。生きるって、意味だ」
絵の間近まで寄ってみると、おばあちゃんの言う通りそこにはLIVEと書かれていました。そして、意味はわかりませんが、その後に、エム、イー、とも。
「リブ、何?」
「リブ、ミー、ミーは私をって意味。だから、私を生かしてって意味になる。文法は間違ってるけどね。それは作者のサインなんだよ。そういうジョックさ」
英語のことがわからない私にはそのジョックが分からず、ただ首を傾げるしかありませんでした。
「やっぱり人生はダイエットみたいなものね」
「努力が結果に出る」
「うん、ムチムチじゃちゃんと楽しめないのよ。ファッションも、ジョックも」
「なるほど、無知無知」
159(15:30)
「そ、もっと、賢くならなきゃ」
「なれるよ、なっちゃんなら。さて、じゃあ、お勉強と同じくらい大切なことをしましょうか。なっちゃんにお仕事を頼んでもいい?
「お仕事?、なあに?」
私が訊くとおばあちゃんはいたずらっこみたいに笑い、もったいぶって、それを私の顔の前に持ちあげました。それが何に使う道具なのか知っている私の顔は喜び色に塗られていたと思います。
「氷を削るお仕事。夏に食べるかき氷は、算数の宿題くらい大事、じゃない」
「その通りね」
おばあちゃんはさっきまで、2階に閉まっていたかき氷機を捜していたのでした。どうりで、いくら一階を捜しても見つからないはずです。
素敵な絵の匂いを鼻の奥に残しながら、私達は涼しい居間に移動してそこでがかき氷を作ることにしました。おばあちゃんの家にある大きな冷蔵庫の下の段から四角い氷をでして、それを私が一生懸命に削ります。おばあちゃんはシロップを用意して、尻尾の短い彼女はかき氷を見るのが初めてなのでしょうか、楽しそうに私の周りをぐるぐると回って、途中で目を回してぼてっと尻もちをついていました。
160(17:14)
たっぷり出来た雪みたいな細かい氷に、私は真っ赤なシロップをかけました。かき氷はどの味も好きだけど、今日はいごの気分。おばあちゃんもそう見たいで、私とおばあちゃんは二人でベロを真っ赤にしました。金色の瞳の彼女はと言うと、せっかくシロップをかけてあげたのにどうやら何もかけてない部分の方がお気に召した見たいで、それなら氷でいいじゃない、と四角い氷をお皿に乗せてあげるとそれを夢中で舐め続けていました。もしかしたら彼女のことだから、ペロに色がつくことをはしたないと思っているのかもしれません。
かき氷を食べながら、私は最近あったことを全ておばあちゃんに話しました。アバズレさんに言われたことも。私は、もしかしたらおばあちゃんなら答えをくれるかも知れないと思いました。でも、おばあちゃんも、あばずれさんと同じことを言いました。
「んー、そうだね、やっぱりそれはなっちゃんが自分で考えなきゃいけないかな」
「うん、わかってるわ、だから、おばあちゃんからヒントを貰いに来たのよ」
「ヒントから」
おばちゃんはかき氷の後、お服を壊さないように入れたお茶を飲みながら考えてくれました。私も、おばあちゃんからどんなへんとを貰えばいいか、何も考えてなさそうに日陰で眠っている彼女の横で考えます。
161(19:07)
先に考えついたのは、私でした。
「ねえ、おばあちゃん。おばあちゃんの友達、あの絵を描いた人って、どんな人だった?」
「ん?」
「クラスメイトの、学校に来なくなった彼も、絵を描くの。もしかしたら、絵を描く人のことをおばあちゃんはよく知ってるじゃないかと思って」
「なるほど」
おばちゃんは、アバズレさんよりももっと柔らかい笑顔になりました。
そして、絵を描く人についてのお話をしてくれました。
「おばあちゃんの友達もだけど、絵描きっていうのは、凄く繊細な人達なんだ。傷つきやすくて、人より弱いところもあって」
「よくわかるわ」
「でもね、誰より清らかで優しい人達でもある。絵を描く人達にはね、世界がまっすぐに見えるなんだ。いいことも嫌なことも、他の人達に届くよりももっと直接届く。だから、絵を描く人達の描く絵は、写真とは違うだろ?絵描きには、世界がああいう風に見えているんだ」
私は、さっき見た絵と、それから教室で盗み見た桐生くんんの絵を思い出してみました。
162(21:02)
彼らには、この世界があんな風に見えている。それは、まるで魔法のようだと思いました。私には世界はあんな風には見えていません。でも、もしさっき見たあの絵がこの世界の本当の姿のだとしたら、世界はなんて美しいのでしょう。
「あんなに美しい世界には、どんな苦しいことも悲しいこともきっとないわね」
「ねえ、そう。だかでれど、この世界には、苦しいことも悲しいことも、たくさんあるでしょう?本当は、この世界にそんなことあっちゃいけない、絵描きはね、それを知ってるんだ。だから、苦しいことや悲しいことを、私達よりずっと苦しく、悲しく、感じてしまう」
私は、桐生くんがあからかわれている時の顔を思い出します。なんとなくだけれど、おばあちゃんの言っていることは納得が出来ました。
「そうじゃなくても、人っていうのは、いいことよりも悪いことの方がよく心に残りやすい」
誰かに、私の心にはあの日のスーパーでの場面や桐生くんの目が、形をそのままにとても濃く跡を残していました。あれから今日までたくさんの美味しいものを食べたのに、それからよりもずっと。
私は、南さんの涙を思い出しました。
「物語を書く人も、そう?」
163(23:15)
「ああ、そうかもしれない。だけど、物語を書く人よりも、絵を描く人の方が、孤独だと思う。物語っていうのは、言葉は、絵よりもずっと伝わりやすいの」
「じゃあ、私には物語の方が合ってる、私は心を人に直接伝えたいもの、そうね、やっぱり私にはそれしかないわ」
私が意気込んでかき氷の器を持ったままその場で立ち上がると、おばあちゃんは「うふふ」と上品に笑いました。
「何か、見つかった?」
「うん、よわっちい絵描きの味方になってあげるって先生と約束したものの、まずは、それを伝えなきゃ」
「なっちゃんがそう決めたなら、それがいい。だけど、ヒットしたらその子は、なっちゃんが思よりも弱っちゃくないかもしれない」
「それ、同じことを先輩にも言われたわ、だけど、本当に弱っちゃいのよ。そしていくじなしなの。自分の気持ちもはっきり言えないんだもの」
その壁に、私を見る時だけ、あんなに思いの持った目をするなんて。その日、おばあちゃんの家から帰った私は、夜ご飯を食べながらも、奥を磨ながらも、ベッドに入ってからも、桐生くんのことを考えました。違う人のことは、分かることが出来ない、だから考えるしかないのです。だけど、いくら考えても、私と桐生くんは違うところばかりで、アバズレさんの言うように同じところなんて見つけることは出来ませんした。
164(25:30
それと、私はもう一つのことも一緒に考えなくてはなりませんでした。私が味方になることを、どうやって伝えるのかです。手紙?電話?メールは?携帯電話を持っていないので出来ません。
だから、やっぱり。
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