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「1Q84」村上春樹・テキストと英語の訳語・ページ 15

「1Q84」村上春樹・テキストと英語の訳語・ページ 15

One Straw Revolution

November 4, 20232m 55s

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Show Notes

原文15

「良い車ですね。とても静かだし」と青豆は運転手の背中に声をかけた。「なんていう車なんですか?」

「トヨタのクラウン・ロイヤルサルーン」と運転手は簡潔に答えた。

「音楽が綺麗に聞こえる」

「静かな車です。それもあってこの車を選んだんです。こと遮音にかけてはトヨタは世界でも有数の技術をもていますから」

青豆は肯いて、もう一度シートに身をもたせかけた。運転手の話し方には何かしらひっかかるものがあった。常に大事なものごとを一つ言い残したような喋り方をする。たとえば(あくまでたとえばだが)トヨタの車は遮音に関しては文句のつけようがないが、ほかの何かに関しては問題がある、と言うような。そして話し終えたあとに、含みのある小さな沈黙の塊が残った。車内の狭い空間に、それがミニチュアの架空の雲みたいにぽっかり浮かんでいた。おかげで青豆はどこなく落ち着かない気持ちになった。

「確かに静か」と彼女はその小さな雲を追いやるように発言した。「それにステレオの装置もずいぶん高級な物みたい」

「買うときには、決断が必要でした」、退役した参謀が過去の作戦について語るような口調で運転手は言った。「でもこのように長い時間を車内で過ごしますから、できるだけ良い音を聴いていたいですし、またー」

青豆は話の続きを持っ。しかし続きはなかった。彼女はもう1度目をしじて、音楽に耳を澄ませた。ヤナーチュックが個人的にどのような人物だったのか、青豆は知らない。いずれにせよ(16)おそらく彼は、自分の作曲した音楽一九八四年の東京の、ひどく渋滞した首都高速道路上の、トヨタ・クラウン・ライヤルサルーンのひっそりとした車内で、誰かに聴かれることになろうとは想像もしなかったに違いない。

Translation and Notes

「良い車ですね。とても静かだし」と青豆は運転手の背中に声をかけた。「なんていう車なんですか?」

"It's a nice car, very quiet," Aomame said to the driver's back. "What kind of car is it?"

「トヨタのクラウン・ロイヤルサルーン」と運転手は簡潔に答えた。

"A Toyota Crown Royal Saloon," the driver replied succinctly.

「音楽が綺麗に聞こえる」

"The music sounds very clear."

「静かな車です。それもあってこの車を選んだんです。こと遮音にかけてはトヨタは世界でも有数の技術をもていますから」

"It's a quiet car. That's one reason I chose it. Toyota has one of the leading technologies in the world when it comes to soundproofing."

青豆は肯いて、もう一度シートに身をもたせかけた。運転手の話し方には何かしらひっかかるものがあった。常に大事なものごとを一つ言い残したような喋り方をする。たとえば(あくまでたとえばだが)トヨタの車は遮音に関しては文句のつけようがないが、ほかの何かに関しては問題がある、と言うような。

Aomame nodded and leaned back into her seat again. There was something off about the way the driver spoke. It was as if he always left something important unsaid. For instance (just as an example), while there may be no complaints about Toyota's soundproofing, there might be problems with something else.

そして話し終えたあとに、含みのある小さな沈黙の塊が残った。車内の狭い空間に、それがミニチュアの架空の雲みたいにぽっかり浮かんでいた。おかげで青豆はどこなく落ち着かない気持ちになった。

After he finished speaking, a pregnant pause lingered. In the confined space of the car, it hung in the air like a miniature, imaginary cloud, which made Aomame feel somewhat unsettled.

「確かに静か」と彼女はその小さな雲を追いやるように発言した。「それにステレオの装置もずいぶん高級な物みたい」

"It is definitely very quiet," she said, as if to dispel that small cloud. "And the stereo system seems quite high-end as well."

「買うときには、決断が必要でした」、退役した参謀が過去の作戦について語るような口調で運転手は言った。「でもこのように長い時間を車内で過ごしますから、できるだけ良い音を聴いていたいですし、またー」

"It required a decision to buy," the driver said in a tone reminiscent of a retired staff officer discussing past strategies. "But since I spend long hours in the car, I want to listen to good sound, and also—"

青豆は話の続きを待った。しかし続きはなかった。彼女はもう一度目を閉じて、音楽に耳を澄ませた。ヤナーチェックが個人的にどのような人物だったのか、青豆は知らない。いずれにせよおそらく彼は、自分の作曲した音楽が一九八四年の東京の、ひどく渋滞した首都高速道路上の、トヨタ・クラウン・ライヤルサルーンのひっそりとした車内で、誰かに聴かれることになろうとは想像もしなかったに違いない。

Aomame waited for him to continue, but there was no continuation. She closed her eyes again and focused on the music. She did not know what kind of composer Janáček was personally. In any case, he probably never imagined that his music would be heard by someone inside the quiet cabin of a Toyota Crown Royal Saloon, stuck in a terrible traffic jam on Tokyo's expressway in 1984.

Vocabulary:

1. 退役した参謀 (たいえきしたさんぼう) - Retired staff officer.

2. 決断 (けつだん) - Decision.

3. 装置 (そうち) - Equipment, device.

4. 車内 (しゃない) - Inside the car.

5. 高級な物 (こうきゅうなもの) - High-end item.

6. ひっかかる (ひっかかる) - To be caught, to feel odd.

7. 喋り方 (しゃべりかた) - Way of speaking.

8. 含みのある (ふくみのある) - Pregnant (with meaning), implying.

9. 沈黙 (ちんもく) - Silence.

10. 落ち着かない (おちつかない) - Unsettled.

11. 遮音 (しゃおん) - Soundproofing.

12. 聴かれる (きかれる) - To be heard.

13. 渋滞 (じゅうたい) - Traffic jam.

14. 首都高速道路 (しゅとこうそくどうろ) - Metropolitan expressway.

15. 個人的に (こじんてきに) - Personally.



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